タマゴは昔は1日ひとつまでという都市伝説?的な話が「常識」としてまかり通ってきました。これは100年以上も前の1913年にロシアで行われたウサギに卵を食べさせたら血中コレステロールが増加したという実験結果が元ネタと言われています。現在では、タマゴは2−3個食べても平気という風潮ではありますが、無制限に食べても良いなる情報が出てきました。過ぎたるは及ばざるが如し。よいわけがありません。ロッキー・バルボアの生卵いっぱい一気飲みは映画の話で危険です❗
本記事の内容
たまごは制限なしに食べて良い⁉
新年早々、「先生、たまごって無制限に食べて良いと国が発表したんですよね?」「ええっ、そんなこと国が発表する?」「はい、ネットで見ました」との患者さんとのやり取りをして2週間経過。やっと元ネタというか一次ソースを見つけました。
たぶん、患者さんのたまごは制限なしに食べて良いとのトンデモ健康情報の発火点はこれでしょうね。つまり1日何個までたまごは食べてよいかとの質問に関して、「制限なしに食べて良い」とのかなり危なっかしいトンデモ健康情報なんです。
この記事では
新しいコレステロールの目標量は「制限なし」に! びっくりですね! なぜ制限なしになったのかというと、実はここ数年で、コレステロール摂取に対する考え方が大きく変化したからなんです。
と書かれています。
こっちの方が「びっくり!」ですよ。
なんでこんな医療常識とかけ離れた結論にこの健康情報を書いた人は至ったのか、かなり気になります。
海外でも「たまごは1日何個まで食べていいの?」関連情報は関心が高いもののようです。
素人ライターの健康関連記事の危うさ
たまごを食べることはコレステロール値とは関係ないよ、との乱暴なトンデモ記事を書いた人は素人ライターさんのようです。
こんなことが書かれています。
コレステロール値が高いという理由で「卵を食べていいのは1日1個まで」なんていわれているのをよく聞きます。それって、本当なのでしょうか? 調べてみました!
卵を食べて良いのは一日一個まで、との話をどこから仕入れたのかは不明。さらにこの記事を書いた人は50才台の主婦(好奇心と食欲が旺盛らしいですw)。
この主婦は「調べてみました!」と書いてありますが、何をどのように調べたのか原典や引用先が不明です。たまごは無制限に食べて良い、との無責任かつ根拠の無い話をなぜ記事にして、この「マルメクweb」に投稿したのかも不明です。
ネット記事で目新しい話も見つけてしまうと人に話したくなるようです、私は主婦の口コミ拡散力の恐ろしさを身を持ってしっています。
次回「たまごって無制限に食べて良いと国が発表」説を話してくれた患者さんをどのように納得して、まっとうな医療情報に近づいてくれるかを工夫しなければいけません。
この記事を書いた人は「ハルメク子」さん、らしいのですが、これはどう見てもペンネームというか仮名。常々、私は常識とかけ離れた健康情報を目にした時は、「誰が発信源なのか?」を意識してね、と患者さんに伝えています。このハルメクwebを運営しているのは、通販会社のようです。
風変わりな健康情報はどんな媒体に掲載されていたか?もトンデモ健康説を見分けるポイントの一つです。
たまご無制限に食べて良い説、根拠はテレビ番組とネット記事ねえ⋯
コレステロールの値が高いと言われた人であっても、たまごは無制限に食べて良い、との記事を書いた人の参考文献(?)は「参照」としてNHKとNIKKEI STYLE ヘルスUPが記載されています。
素人ライターさん、ネット記事はしっかり読みましょうね。NHKはたまごは無制限に食べて良い、なんてことは言っていませんぜ。
に続いて、
健康な人の場合、食べ物で摂取する量が増えても、体内での総量は、一定に保たれる
たまごは1日何個まで?
との断り書きもしっかり書かれています。「健康な人の場合」を見落としたのでしょうか?
日経スタイルの方はこのように書かれています。
健康な人においては、食事中のコレステロールの摂取量と血中コレステロール値の相関を示す、十分な科学的根拠がないことが分かったためだ。
卵1日1個はウソ? コレステロールの真実
ここにも「健康な人」との断り書きが記載されてます。
コレステロールの摂取量に関して「制限なし!」なんてことは、どこにも書かれていません。
なぜ、たまごは無制限に食べて良い、とのトンデモの結論にいたったのか?
確かに厚生労働省が2015年に発表した「食事摂取基準」では、コレステロールの摂取基準が外されました。
その理由として食べ物として摂取したコレステロールの量と血中のコレステロールとの関連性が科学的根拠もって、1日どれくらい食べればよいかの結論が明確ではないからです。
このブログの最後で
「明日、あるいは来週の外来日に間違いなく『先生、コレステロールって気にしないでいい、って国が発表したんだよね』と半可通のオッサンが来院しますから」
と書いたのですが、5年経過して予言が当たりました(苦笑)。
好奇心も食欲も旺盛な50代主婦素人ライターさんはこのように書いています。
健康な人はむやみに制限する必要はありませんが、既に高コレステロール血症と診断されている人や、親が高コレステロール血症の人は取り過ぎには注意した方がいいそうですよ。
彼女的に新しい健康関連情報はそのようになっているようですが、プロ的な新しい情報としては「1日に1個以上の卵で心不全のリスク高まる」と考えられていることを重要視します。
健康だといってもたまごを無制限に食べると心不全になる可能性があるのです。素人ライターの健康関連情報と疫学統計のプロであるカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)内科助教授の津川友介医師の考えのどちらのほうが信頼度が高いでしょうか?
私は津川先生の肩書や権威より、津川先生のいままでの実績を重視しています。
ちなみに国も厚生労働省もたまごを無制限に食べて良い、なんてことは一言もいっていません。
しかし、食事中のコレステロールを無制限にとってよいということではありません。LDLコレステロールが高い人で、飽和脂肪酸やコレステロールを食べる量が非常に多い人は、その量を控えることで、比較的容易にLDLコレステロールを下げることができます
厚生労働省 e-ヘルスネット「脂質異常症」
実際はこのような経緯があってコレステロールの摂取量の記載が見送らたのです。
コレステロールの摂取量は低めに抑えることが好ましいものと考えられるものの、目標量を算定するのに十分な科学的根拠が得られなかったため、目標量の算定は控えた
日本人の食事摂取基準(2015年版)策定検討会 報告書 「1─3 脂質」
食欲旺盛な50代の主婦がちょっと興味をもって調べたらここまではたどり着けないかなあ⋯じゃあ、健康関連記事なんて書くなよ、とはいいませんけどね。
「必要としている人に情報が伝わらない、サイトに掲載しても見つけてくれない」との私の格言は今回のトンデモ健康関連記事でも言えるようです。
いままでの常識に反する突飛な健康関連情報にはくれぐれも気をつけてくださいね。