日常の診察で血圧を測ろうとすると、深呼吸を数回繰り返す人に出会ったことのある医療関係者は多いと思われます。
本記事の内容
血圧を測ろうとすると変な呼吸をする人多し、なんでそんな異常行動するんだろう?
都市伝説的に深呼吸をすると血圧が下がる、ってのがありますのでそれを意識した行動なんでしょうね。でも、本来は普通の状態の血圧を医療サイドは知りたいので、血圧測定時のヘンテコな儀式は避けるべきことなのかもしれません。
ここで素朴な疑問がわいて来ました。血圧測定時に深呼吸をすると健康診断で高血圧って判断されないような効果があるのでしょうか?実はこれを生理学的に説明することは可能なんですが(後述)大体的に血圧測定時の深呼吸の血圧に及ぼす影響を調査した論文って意外に少ないのです。
自分が研修医時代にお世話になった方の論文をひょんな機会に発見しましたので、その医学論文にしたがって「血圧測定時の深呼吸」問題を検証してみます。
二万人強の血圧測定時の深呼吸で血圧に変化があったか?こんな論文です
今回、検証させていただく論文は「血圧測定時の深呼吸」というタイトルで日本の医学雑誌に掲載されたものです(血圧 12 (12) : 1232 -1233 2005)が残念ながらオンライン等で見ることはできませんので、有料で論文を取り寄せました(これって経費になりますよね、税務署の方)。
この論文は私が研修医時代に6ヶ月お世話になった当時の横浜市立大学第二内科の梅村敏先生と神奈川県保険医協会の所属医師との共同研究です。まあ、梅村先生は私のことなんか記憶には全くないとは思います。非常にマイナーな研究と侮ってはいけませんよ、これは対象とした患者さんの数はなんと2万5022人なんですから❗この研究をざっくりアブストラクト的にするとこんな感じです。
●1186の医療機関がこの調査に参加
●2万5022人が登録されたが、解析の対象となったのは2万1563人
●血圧測定前に深呼吸させた人は正常血圧の人は4377人、高血圧だけど未治療の人は4377人、高血圧治療中の人は1万1217人
●深呼吸の対照群としては正常血圧の人は1096人、高血圧だけど未治療の人は587人、高血圧治療中の人は1220人
以上のように結構大掛かりな研究となっています。細かいことをいえば、血圧測定前に深呼吸させた人と深呼吸をさせない人の年齢・性別には有意差はありませんでした。
その結果は血圧測定前に深呼吸をすると、血圧は低下した❗と都市伝説が肯定されたのです詳細としては
●正常血圧、高血圧だけど未治療、高血圧治療中どのグループも深呼吸をすると収縮期血圧、拡張期血圧が低下した
●脈拍数は正常血圧だと深呼吸すると増加した(理由は後述)
ことがこの研究でわかりました。
さらに
●深呼吸による血圧の低下は収縮期血圧の場合、血圧の変動は未治療 > 治療中 > 正常の順で大きかった
●深呼吸による血圧の低下は拡張期血圧の場合、血圧の変動は未治療 > 治療中 > 正常の順で大きかった
こともわかりました。
結論として血圧測定前に深呼吸をすると血圧は低下する、との都市伝説は正しかったことが判明したのです。
深呼吸によって血圧が低下するメカニズム
なぜ、深呼吸をすると血圧が下がるか、この問いに対する明確なメカニズムは判明してはいません。いくつか考えられる理由として、深呼吸することによって肺が大きく伸び縮みするために、自律神経系が刺激され血圧が下がる、とかあるいは、大動脈などの圧受容体が刺激されることが考えられます。多くのオッサンが健康診断の時に「高血圧症」と診断されないために、リラックスするつもりで行なっている深呼吸。リラックスとは関係はないですが、間違いなく血圧を下げる効果はあるようです。でも、健康診断って通信簿ではなく、抜き打ちけテストであるべきなんですよ、本来は。その理由は⋯。
健康診断は一見健康に見えるけど、実は病気が隠れていることを見つける手段です
会社や区なのど健康診査は一見健康に見えるけど、実際はなにがしかの病気が隠れていないかを調べることが大きな目的です。前の健康診断で高脂血症と言われたり、尿酸が高めなどと言われると、健康診査の数週間前からストイックな食生活に入る人が多いです。これでは健康診査の意味がないのです。
健康診査は抜き打ち的な実力テストであるべきなので、血圧測定前に深呼吸をするなどのヘンテコリンな行動は控えてあるがままのご自分の健康状態を把握してくださいね。