脳洗浄、という言葉を聞いて直ぐにイメージしたのが「脳からなんかでてきちゃたらヤバいじゃん」でした。
「脳洗浄」なる衝撃的なネーミングの美容方法、どのようなものであるのか検証してみました。
本記事の内容
脳洗浄して出てくるものはなんじゃ?
「脳洗浄」なる言葉が最近話題になっています。「洗脳(brainwashing)」なら聞いたことはあるけど、脳洗浄でイメージできるのはかなりヤバい状況です(洗脳もヤバいけどね)。だって脳洗浄(braincleansingかなあ、無理に英訳するとしたら)に関するネット記事だとこんなこと書いてあるんだもん。
脳洗浄とは脳脊髄液へアプローチして、頭の老廃物を流すこと。脳脊髄液は脳や神経を守るクッション的な役割を果たしているほか、脳神経へ栄養を送り、老廃物を除去する働きを担っています。
https://oceans.tokyo.jp/health/2020-1223-1/
あのさあ、髄液が流れ出ちゃったら生死に関わるんですけど❗
と、医師でなくても生物を学んだことがあったら考えちゃうんじゃないの?
かなり興味深い、謎に包まれた「脳洗浄」についてちょいと考えてみます。
そもそも人体で脳脊髄液とはどんな働きをしているの?
私が医学生であったいまから数十年前から人体の構造が大きく変化していない限り、脳髄液(cerebrospinal fluid)は脳の中にある脳室で作られくも膜下腔と脊髄くも膜下腔中に存在している液体です。イメージとしては骨に囲まれている脳や脊髄などの中枢神経を包み込んでいる液体です。
腰から下の部分を手術する時に脊髄麻酔や腰椎麻酔と呼ばれている麻酔方法を聞いたことがあると思います。背骨から針を差し込み麻酔薬で脊髄の神経を麻痺させて痛みを取る麻酔方法です。この時に神経とそれを包む膜の隙間を充填しているのが脳髄液であり、この時に脳髄液が流れ出てしまうと頭痛が生じることが知られています。
脳髄液が漏れ出ないように腰椎麻酔で使用する針は通常の採血に使用する針より細いものが使われるのも、脳髄液が外部に漏れ出て頭痛どころではなく脳圧の急激な低下を防ぎたいからです。
脳洗浄で脳髄液が老廃物(まあ、その老廃物ってなんだろうねえ)と共に外部に漏れ出てきたら生死に関わりますので、どう見ても脳洗浄は私が学んだ医学とは違う論理体系で成り立っていることが大いに予想されます。
脳髄液の流れに問題あるならそれは水頭症や低髄液圧症候群(脳脊髄液減少症)といった病気
健康・医療に関しては素人さんの言葉にいちいち反応するのも大人気ないような気もしなくはないのですが。
「脳洗浄」なる衝撃的な施術を行っているサロンのオーナー兼脳洗浄の発案者はどこからどう見ても医学とは無縁の方であることが、エステ方面か美容師さん方面の出身の方とかが好みそうな用語と施術がてんこ盛りの記事から取材記事からうかがい知ることができます。
脳髄液は最終的に自然と静脈系に吸収され、最終的には体外に排出していると考えられています。わざわざ脳髄液の流れを良くしたり、脳内の老廃物を流しだしたりする必要はまったくありません。
前掲記事には次のような記載があります。
流れが悪くなると、脳が圧迫されて働きが低下し、自律神経が乱れてしまいます。結果、頭痛やめまい、肩凝り、腰痛、冷え、うつ、不眠、視力低下などの症状が起こりやすくなります
えええっと、肩凝りや冷えやうつって脳が圧迫されるから生ずるの⁉?
脳洗浄を受けた人の感想として「頭がスッキリ!」なんて感じのものを見かけたんだけど、別に脳髄液が漏出して頭がスッキリしたわけじゃないと思うんだよなあ。しつこいけど、頭をモミモミしただけで脳からなんか変なものが出てきちゃったら、スッキリどことではなく、頭はぼーっとするだろうし、歩行もおぼつかないだろうし、下手すりゃ生命の危機さえもあるんじゃないの?
もしも脳髄液の流れが悪くなったり滞ったりして、身体症状が出てくると水頭症(hydrocephalus) が疑われます。水頭症にはいくつかの治療方法がありますが、脳室ドレナージ(ventricular drainage) や脳室腹腔シャント術(ventriculo-peritoneal shunt)などの積極的な治療が必要となることもあります。
頭皮を独自の工夫を凝らした方法でマッサージをします、それが「脳洗浄」だと解釈しないとお店側もお客さん側もかなり厄介な状態になってしまうと考えられます。
結論:脳洗浄はニセ医学であるデトックスの一派なんでしょうね
そもそもデトックス(Detox)は医学用語ではありません。トンデモ系ニセ医学はどうしても科学用語や医学用語を使いたがる傾向があることは以前からお伝えしています。デトックスは、「解毒」との意味合いで民間では使われているようで例えば「毒出し」のキーワードで検索してみると、健康関連本あるは健康関連情報サイトの記事が上位を占めるはずです。
私は医学論文を検索する時にはまず、「PubMed(パブメド)」と呼ばれる米国の国立図書館(National Library of Medicine)の1組織である国立生物科学情報センター(National Center for Biotechnology Information)が作っている医学・生物関連のデータベースにアクセスしてみます。デトックスは医学用語ではなくても、医学関連の論文で多数使用されていることは間違いありません。
PubMedで「Detox」を検索してみると、出てくる出てくるデトックス関連の論文が。医学が人体のすべてを把握しているなんて高慢な考えを持ち合わす医師はいないはずなので、医学系の論文も今流行の両論併記が常識となっています。つまりデトックスの効果を肯定する論文も否定する論文も医学専門誌はいくつかの条件を満たせば掲載しているのです。
しかし、医学論文としてデトックスが多数投稿され医学専門誌に掲載されていてもデトックスは標準的な医学ではなく、あくまで代替医療(alternative medicine)であることを肝に銘じておくべきです。
※私は代替医療のすべてを否定する立ち位置ではありません。しかし、ほとんどの代替医療が医学が科学であるために必要である、第三者による再検証が厳しい状態のデータに基づいた論文である点に注意が必要なのです。
脳洗浄、衝撃的なネーミングですがリラクゼーション系のサービスであり、事故や医師法や薬機法に触れない限り、ガタガタいうほどのものでも無さそうだと現時点では判断します。
※OCEANの記事が掲載された早々に脳洗浄の記事を見つけてくれて教えてくれたブログファンの方々、ブログ記事が遅れたことをこの場でお詫びいたします。