トンデモ医学オーソモレキュラーの元祖分子栄養学が残した大罪。

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分子生物学はまっとうな学問です。しかし、分子栄養学となると雲行きが怪しくなり、分子整合栄養医学となるとトンデモ系ニセ医学決定です。

トンデモ分子整合栄養医学、またの名をオーソモレキュラー栄養療法が疑似科学系ニセ医学であることをお伝えします。

ビタミン神話の始まりは、「※個人の感想です」レベル⁉?

物理学を専門とする三石巌という研究者がいました(故人)。その方の書かれた書籍や言葉がトンデモ分子栄養学のバイブル的存在となっているように思われます。分子生物学と栄養学を合体させた分子栄養学、そして分子栄養学から発展した分子整合栄養医学は明らかにトンデモでありニセ医学であると私は断言します。

三石氏は1961年に白内障で数年後には失明すると担当医に宣告されました。そこで白内障の原因は栄養であり、白内障の原因はビタミンCであると考えました。そこでビタミン剤の注射をすることによって白内障と診断されて以来35年経過してもスキーもできるし、目は本来の機能を保持していることを著作などで強調しています。

しかし、三石氏の経験は医学的に白内障治療や白内障発生のメカニズムにとっかかりにはなる可能性はあったとしても、医学の治療という分野で考えるとあくまで症例数1(いわゆるn=1) であり、サプリメントなんどの広告で多用される打ち消し表示とよばれる「※お客様故人の感想です」レベルを超えるエビデンスでは無いのです。

分子生物学から派生した分子栄養学こそ科学じゃないぞ❗

三石氏は「医学は科学ではない」という哲学者カール・ポパー(Karl Popper)の反証主義を持ち出して現代医学を批判していますが、そもそもカール・ポパーが言っているのは「科学理論は実験によって反証できなくてはならない」であり反証可能性(falsifiability)があるものを科学と呼ぶと述べただけなんじゃないの?

三石氏が白内障と診断されたのが確実であり(誤診の可能性もありますよね)、どのようなビタミン注射を継続したのかも詳細を知ることは今となってはできません。三石氏の経験、それこそ反証できないじゃないですか❗

故三石巌先生はマイケル・ファラデーの名著「ロウソクの科学」の翻訳者として立派な業績を残していることを明記しておきます。ちなみにノーベル賞ダブル受賞のライナス・ポーリング氏も残念なことに晩年はビタミン神話に取り憑かれてしまいました。

医学は科学ではない、だから嘘だらけ???

分子栄養学なのか、分子栄養学医学なのかははっきりしませんが、三石氏はコレステロールの薬を服用することが胆石症の原因であり、医原病(医療が原因となる病気)の一つとしているために、分子整合栄養医学の方は高脂血症の薬を服薬することを忌避し、なんとか分子栄養学的な方法で治療をしようと試みがちです(例えば https://www.facebook.com/tokumi.fujikawa/posts/1273757182740603とかFacebookで大活躍しています)。

ところがここ数十年で医学は三石氏の予想に反して激しく進歩しており、今ではスタチン系のコレステロール降下薬服用は胆石のリスクが低下することが医学的には主流となっています。

「Statin Use and Risk of Gallstone Disease Followed by Cholecystectomy」[1](PMID: 19903921)によるとスタチン系高脂血症薬を服用していると、胆石のリスクも胆嚢切除手術を受けるリスクも有意に低くなることを伝えています。

画像

https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/184862

この論文は2009年に出たものですから、今現在はこの論文と反対の結果の論文もあるかもしれませんし、他の研究者によって再検証が試みられているかもしれません。カール・ポパーに医学は科学ではない、と言われないようにどんな大家や偉い先生が発表した医学論文であっても、研究に使用したデータを公開して、そのデータに対して反証が可能なように医学分野も努力はしているのです。

三石氏の言質は「医学常識はウソだらけ」(祥伝社)を参考としました。

医者は知識をブラッシュアップしていない、だからオーソモレキュラーが正しい?

以後混乱を招くので分子なんちゃら栄養学は、ここから先はトンデモ認定確実なオーソモレキュラーまたはオーソモレキュラー医学(Orthomolecular medicine) との言葉を使います。

トンデモさんからのDM、オーソモレキュラー療法セミナーのお誘い。

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オーソモレキュラー信奉者はとにかく栄養学、特にビタミンで様々な多種多様な病気を治そうそしますし、病気の原因自体がビタミンの不足であるとのロジックで治療をおこなっています。

例えば糖尿病の場合、糖尿病であっても合併症が出なけりゃ良いじゃん、とオーソモレキュラーの大家の三石氏は述べています。そして、合併症の原因は活性酸素であり、活性酸素を除去するとされているSOD(Superoxide Dismutase、活性酸素除去酵素)を重要視しています(これでオーソモレキュラーと酵素栄養学の密接な関係が解明されましたねw)。

人体に対する悪の根源である活性酸素を除去する物質として、オーソモレキュラーの方々はスカベンジャー (Scavenger)という言葉を多用しています。

スカベンジャーはそもそもの意味は掃除屋さん、オーソモレキュラーでは活性酸素を除去する働きをするビタミンCやビタミンE、カロチノイド (Carotenoid,カロテノイドと呼ばれる天然色素でビタミンAに体内で変化する)、ポリフェノール(Polyphenol)をありがたがります(これでオーソモレキュラーとビタミン信奉者が密接なつながりがあることが理解できますね)。

ビタミン至上主義のこんな人たちも出てきてしまいます。

医師が知らないニセ医学【その3】メガビタミン療法ってなんだ?

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しかし、ビタミン摂取をすれば健康になり、病気を治すことができるのでしょうか?

例えばビタミンB12を過剰摂取すると死亡リスクが高くなることをJAMA(The Journal of the American Medical Association)に掲載された「Association of Plasma Concentration of Vitamin B12 With All-Cause Mortality in the General Population in the Netherlands」は伝えています。

また、ビタミンEを肺がんの方が摂取することに関して、「Nrf2 Activation Promotes Lung Cancer Metastasis by Inhibiting the Degradation of Bach1」はめちゃくちゃ権威のある「CELL」誌上で、肺がんの転移リスクを高めることを報告しています。

さらにJNCI(Journal of the National Cancer Institute)に掲載された「Use of Alternative Medicine for Cancer and Its Impact on Survival」は総括的にがん治療として代替医療(オーソモレキュラーはもちろん代替医療というかトンデモなんだけどね)を行うと死亡リスクが5倍になると警告しています。

実際の治療に際してオーソモレキュラーが入り込む余地は無いし、入り込むと病気のリスク自体が高まる可能性さえあるのです。

おまけ:悪役である活性酸素ですが、活性酸素は人体で大変重要な働きをしています。活性酸素は免疫システムの中でアポトーシス(細胞の自然死)や自己抗体に反応して必要なくなった細胞の除去をしたり、受精にさえ関わっています。活性酸素=悪、との二元論で語るオーソモレキュラーに惑わされてはいけません。人体中から活性酸素をすべて除去したら生命の維持は厳しくなると予想されます。ちなみにヒトがいまの形状になったことに活性酸素は重要な働きをしてきました。人の指の間に水かきが無いのも活性酸素によって細胞死がおきたからからなのです。東京医科歯科大学の研究「オートファジー細胞死の生体での役割 」https://www.tmd.ac.jp/archive-tmdu/kouhou/20170613_1.pdfを読んでいただければ私が伝えたいことがご理解いただけると思います。

三石氏はコレステロールを善玉・悪玉にわけることは危険な考えであると述べています。そのような三石氏の考えに反して、オーソモレキュラー信奉者は二元論で物事を判断しているようにしか私には思えません。

三石氏はさすが物理学の研究者であるので、医学健康関連事項に関しても正しいことを多く述べているのも事実です。しかし、すべてを栄養学で説明するからトンデモの芳ばしい香りが漂うようです。いま活躍しているオーソモレキュラー使いの医師は三石氏の発言等の良いとこ取りをしている可能性も捨てきれません。近いうちにオーソモレキュラーを採用している医師たちの考え方がどこがどのようにヘンテコでトンデモであるかの検証をしたいと思います。

物理学的思考オンリーで医学を語ることのリスク

1足す1は、何が何でも2です。他の回答はありえません。医学も万人が納得する方法で病気の原因や治療法を説明できればトンデモが入り込む余地は無いはずです。しかし、医療で使用する薬の効果は100人に投与しても100人に効果がでるとは限りません。また、薬を投与された100人の中で数名には副作用がでてしまうこともあります。

なぜ100人全員に効果がでないのか、なぜ数名に副作用がでるのかの原因を追求することは今後の医学の発展にとって重要です。しかし効果が100%で副作用が0%の薬は存在しません。なぜなら人間は100人いれば100人とも同じ食生活でも同じ体質でも同じ遺伝子でもない多様性を持ち合わせているからです。全く同じ遺伝子を持っている一卵性双生児であっても、生活環境や社会的環境によって発症する病気も違ってきます。

「医学は科学ではない」これは確かに名言というか医師が常に配慮しなければならない思想・哲学です。しかし、医学の進歩が人類に多大な幸福を授けたのも長い目で見れば間違いの無い事実だと思います。私は物理学者・化学者・生物学者を尊敬しています。医学も科学の一分野に入れてもらおうと様々な試みをしていますので、医学は科学ではないことを背景に、医学常識はウソだらけとは言わないで欲しいと希望しています。

三石氏は三石氏はしきりと、「医者は木を見て森を見ず」と評しています。分子栄養学・分子整合栄養医学を信奉している人たちこそ、「木を見て森を見ず」なんじゃないの???

第二弾、書いたよ~❗

分子栄養学の分派メガビタミン療法のトンデモ加減に驚いた❗オーソモレキュラーに惑わされないための基礎知識。

分子栄養学の分派メガビタミン療法のトンデモ加減に驚いた❗オーソモレキュラーに惑わされないための基礎知識。

参考文献

  1. Bodmer M, Brauchli YB, Krähenbühl S, Jick SS, Meier CR. Statin use and risk of gallstone disease followed by cholecystectomy. JAMA. 2009 Nov 11;302(18):2001-7. doi: 10.1001/jama.2009.1601. PMID: 19903921.

著者プロフィール

桑満おさむ(医師)


このブログ記事を書いた医師:桑満おさむ(Osamu Kuwamitsu, M.D.)

1986年横浜市立大学医学部卒業後、同大医学部病院泌尿器科勤務を経て、1997年に東京都目黒区に五本木クリニックを開院。

医学情報を、難解な医学論文をエビデンスとしつつも誰にでもわかるようにやさしく紹介していきます。

桑満おさむ医師のプロフィール詳細

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