「パンと牛乳は今すぐやめなさい! (3週間で体が生まれ変わる) 」(マキノ出版 平成29年9月23日発行 著者内山葉子)を興味深く読ませていただきました。
先日から、「グルテンフリー」という健康法に少々凝りだしてこんなブログ記事を書きました。
参考文献として英文の医学論文を多数巻末に掲載した医学健康関連書籍であっても、かぎりなくトンデモの芳ばしい香りが大量に漂っています。
本記事の内容
ニセ医学の特徴は二元論で単純化する
トンデモ系ニセ医学の傾向として牛乳を敵視する流派があります。
とにかく牛乳は有害である❗、と常識の逆張りで突き進むのです。
トンデモ系ニセ医学は善か悪かの二元論で語る点が特徴とも言えます。人間の身体と病気についてはまっとうな医師のほうが慎重であり、ある意味では謙虚であり現代医学が万能であるとは考えてもいません。
ところが自分は標準的な医学から異端視される新たな医学を学んだと称するトンデモ系の医師の方が大胆かつ雑であり物事を単純化します。
今回俎上に載せる健康医学情報の本は、牛乳とパンを悪と決めつけているので、典型的なトンデモさんであることが、本を読む前からタイトルで察することができます。反牛乳、牛乳忌避のトンデモさんに関してはいままでいくつかブログ記事を書いてきましたので、今回はパン、つまりグルテンを含む食事がどのようなロジックで敵視しているのかを探ってみました。
パンをやめたら自傷行為や異常行動が収まる???
いやー、衝撃的な見出しです。このお医者さん、発達障害に関して造詣が深いようで発達障害と小麦が深く関連しているとの認識は海外では普通、と普通ではない認識をお餅のようです。
なんでも、この本によると、パンは腸にダメージを与えることに酵素の働きを邪魔するそーです。そこで、パンをやめるように指導したところ、
パンをやめると発達障害の子どもは自傷行為をやめ、異常行動がピタリと収まる
と現代医学では根本的に治すことは難しいと考えられている発達障害の子どもたちの治癒過程が何例が提示されています。
発達障害の分類としては、自閉症スペクトラム障害、注意欠如・多動性障害、学習障害が代表的ですが、これらは重複することもあり、そうそう単純な病態ではないことを一般の方もご存知だと思います。
このお医者さんは自傷行為として、壁や床に頭をぶつける行動を例としてあげています。また異常行動として夜に走り回ることも例としてあげています。
これらの原因がパン食にあると仮定したら、米飯給食が珍しかった時代に育った私や私と同年代の子どもたちは、そこらじゅうで頭を床にぶつけていたり、夜中に走り回っていたのでしょうか?
パン食の問題点としてグルテンはもちろんのこと、マーガリンやショートニングという量の概念に乏しいトンデモさんが忌避するトランス脂肪酸、ベーキングパウダーやイーストまでこれまたトンデモさんが極端に嫌う「添加物」がP40で挙げられています。
グルテンの怖さは臓器を攻撃する抗体ができてしまうから???
グルテンフリーの伝道師ともいえるこのお医者さんはグルテンがどれだけ人体に悪影響を及ぼしているかを医学的に説明しています。
グルテンはグリアジンという物質とグルテニンという物質で構成されています。このグリアジンのアミノ酸配列はなんと小脳の一部のアミノ酸配列と似ているのです。グリアジンに対して人体で抗体ができるために、その抗体が小脳の一部を攻撃することによって様々な組織に問題が生じると論じています。
この説はたぶんこの本の巻末に記されている63の引用文献のうちの「Immune response to dietary proteins, gliadin and cerebellar peptides in children with autism」(PMID: 15526989)を根拠とされているようです。
タンパク質はアミノ酸で構成されています。タンパク質を構成するアミノ酸は膨大な数です、グリアジンはポリペプチドと呼ばれ、分子量は2〜10万なのですから、その中には多数のアミノ酸が含まれています。たった4つのタンパク質の配置が似ているからといって果たして同じ抗体が抗原として認識するのでしょうか?
さらに、よくよく考えてみましょう。小脳の働きは主として運動調節機能です。学習障害の自傷行為や異常行動は小脳が問題なんでしょうか?もしも、グリアジンと小脳のアミノ酸配列が似通っていて、グリアジンを摂取することによって抗体が出来たとしても、そもそも人体に備わっていた小脳に対する抗体は作られていなかったのでしょうか?
小脳のアミノ酸配列に対応する抗体が存在していたとしたら、グルテンを摂取しなくても既に小脳や他の臓器が既に抗体によって攻撃されているんじゃないの???
「何々をやめなさい」とう命令口調のトンデモ系健康本が一斉を風靡しました。トンデモさんは簡単な二元論で物事を語る傾向があり、様々なトンデモ専用用語を使用します。ここまでに出てきたトンデモリトマス試験紙的役割を果たすワード以上に私がこのお医者さんをトンデモ認定したのは次の医学風トンデモ病名です。
グルテンフリーは効果がないし、弊害は少なくない
グルテンフリー&牛乳忌避のお医者さんの書籍は参考文献として英文の論文が多数記載されています。すべてをチェックするのは老眼の私には辛い作業。一応、グルテンフリーが標準医学の標準治療としてセリアック病以外の人にとってリスキーであること報告した論文をpubmedで検索したのでご紹介します。
2017年に発表された「The Gluten-Free Diet: Fad or Necessity?」(PMID: 28588378)はセリアック病でない人がグルテンフリーライフを送った場合のリスクとして繊維、鉄、亜鉛、カリウム不足、体重増加を報告しています。
2018年に発表された「Health Benefits and Adverse Effects of a Gluten-Free Diet in Non–Celiac Disease Patients」(PMID: 29606920)はグルテンフリーは統合失調症に効果があるとの研究は一貫性がないと批判的ですし、アトピーに対する効果も矛盾していると指摘し、食物繊維、葉酸、鉄、ナイアシン、リボフラビン、チアミンなどのいくつかの栄養素が不足が不足することを伝えています。
こんな論文もあります。「Economic burden of a gluten-free diet」(PMID: 17845376)はグルテンフリーダイエットの経済的負担について述べており、パスタに至っては通常の小麦を使用したもの2倍の価格であり、他のグルテンフリー食材もかなりの経済的負担を強いることを伝えています。だからセレブが好むんだろうね(※私個人の感想です)。
リーキーガット症候群が99.99%トンデモだよ?
標準的な医療では使わないけど、トンデモ系医学と代替医療界隈が使う病名風のワードとして「リーキーガット症候群(leaky gut syndrome)があります。
私が個人的に親しくしてもらっている消化器外科の権威(現役の消化器外科の医師なら間違いなく知っている)に、「あのさあ、リーキーガット症候群ってなーに?」と尋ねたところ、
E教授は、「そもそも、What’s リーキーガット症候群なんだよ」と明確な回答。
標準医療を学んだ医師にとってリーキーガット症候群は定義も症状も病理学的な診断も明確となっていない不思議な病態であり、リーキーガット症候群があると信じている人にとって存在するけど、まっとうな医師は観察することが出来ない、裸の王様の衣装的な位置づけの病名風トンデモ界隈言語なんです。
グルテンフリー至上主義のお医者さんの著作P65以降では前掲のグルテンが原因として引き起こる腸の炎症をリーキーガット症候群で説明しています。
以前自然派をこじらせたケミカルフリーライフ至上主義の方についてのブログ記事を書きました。
このケミカルフリーさんもリーキーガット症候群は代替医療で治療可能とアメブロで述べています。
なんだか雲行きが怪しくなったグルテンフリー押しのお医者さんの経歴を見てドン引きするとともに腑に落ちました。
経歴に「ホメオパシー専門」と書かれているんだもん❗
グルテンフリーの調査はまだまだ続く
だれに頼まれたわけでもないけど、グルテンフリー神話が面白くてたまらない私は各国大使館御用達の某有名高級スーパーで、グルテンフリーさんや自然派こじらせた方々やヘンテコな食生活を推奨する人々が随喜の涙をほとばしらせる食品を発見してしまいました。
その報告は、グルテンフリー神話を読み解くシリーズ、その3を御覧ください。