つい先日、このような新しいがんの診断方法が大々的にマスメディアに取り上げられました。
線虫を使ってがんを診断する⋯これって本当かね?
体長約1ミリの線虫が、がん患者の尿に誘引される性質を利用したがん検査の実用化に向け、九州大発のベンチャー企業「HIROTSUバイオサイエンス」(東京都港区)と日立製作所は18日、共同研究を行うと発表した。日立が自動解析装置を開発し、2019年末から20年初めに保険が適用されない自由診療での実用化を目指す。線虫の性質を発見した九州大助教で、同ベンチャー社長の広津崇亮さんは都内で記者会見し、「胃や大腸、膵臓(すいぞう)など消化器がんの臨床研究では(がんを判定できる)感度が90%。早期のがんも簡便で高精度に安く検査できる」と説明。費用は1回数千円を想定しているという。
◎線虫を使って尿に含まれるがん特有の匂いを判定する
◎胃がん、大腸がん、膵臓がんは線虫を使って90パーセント以上の感度でがんを発見できる
◎費用は数千円程度、2019年末くらいに実用化される
以上の内容をまとめるとこのようなことです。
線虫って一般の方にとってほとんど馴染みのない生き物であって、どうみても頭が良いようには思えません。
これが本当に確実ながんの検査方法であるならば衝撃的です。
昔っから、がん患者さん特有の匂いがあるとは言われていたけど⋯
全く科学的・医学的じゃないけど、以前からがん患者さんって独特の匂いがあるよね的なことは医療関係者の間では言われていました。
人間の臭覚より敏感であることが知られている犬を使った方法「がん探知犬」なんて方法が検討されたことがあります。例えば「Diagnostic accuracy of canine scent detection in early- and late-stage lung and breast cancers」(Integr Cancer Ther. 2006 Mar;5 (1) :30-9)によれば55人の肺がん患者さん、乳がん患者さんの息を5匹のがん探知犬によってどれだけ確実にがんを見分けることができるか、と試した実験です。
この結果として9割程度の確率で犬がこれは肺がん患者さんの呼気のサンプルである、乳がんの患者さんの呼気であると反応してます。
しかし、この実験はいくつかの批判の対象でもあります。それは「賢いハンス現象」を考慮に入れなければならないからです。賢いハンス現象は
人間の言葉が分かり計算もできるとして19世紀末から20世紀初頭のドイツで話題になったオルロフ・トロッター種 (en) の馬である。実際には観客や飼い主が無意識下で行う微妙な動きを察知して答えを得ていた。
賢馬ハンス–ウィキペディア
このように、馬が答えを出していたのではなく、馬を操作する人が無意識(あるいは意識した場合もあったかも)に馬になにがしかのサインを送っていて、それに対して馬が反応していた⋯つまり馬自体は答えがわかっていなかった、という有名な話です。
今回の「線虫によってがんを診断する方法」に使用される線虫は検査を担当した人の表情を読むことなんてできないでしょうから、がん探知犬よりは正しい結果を導き出す可能性が期待できるのです❗
線虫によってがんを発見❗こんな論文があります
がん探知犬の場合、なんども検査を行うと感度が落ちる(匂いに慣れて反応しなくなる)問題や一日に検査できる数が5人程度なので研究が行われた当時や画期的な検査方法と思われたのですが、実用化の道は遠かったようです(もし、まだ研究している方がいたらごめんなさん)。
あまりなじみのない線虫は体長1ミリ程度の線形動物と呼ばれる生き物であり、これのどこに嗅覚があるのか判然としませんが、少なくとも犬を飼うような手間入らないでしょうし、実験に携わる人の表情を読むことは不可能と考えて間違い無いと思います。
今回、報道される以前から線虫を使ってがんを診断することが研究されていることは、医療関係者の間では知られていました。例えば2015年のPLOS ONEにこのような論文が掲載されていました。
この論文によると感度が95.8パーセントであり、血液検査等で行われる腫瘍マーカーの感度を上回った、とされています。
線虫によるがんの早期発見の利点と欠点
線虫が鋭敏な臭覚を持っていて、がんを早期発見できることが事実であったらこの検査法はこのような利点があります。
◎低コストである
◎尿で検査できるので患者さん側の痛み等の侵襲性が低い
◎簡便であるために多くの施設で導入が可能⋯がん検診でも
いい話だけではなく、こんな問題点、つまり欠点も考えられます。
▲スクリーニング検査であるので、過剰診断が避けられない
▲スクリーニング検査による偽陽性に対して過剰の検査が追加される
▲偽陽性によって治療の必要ないがんまで発見され、過剰医療につながる
こんなことが考えらえます。記事に書かれていましたが、現時点で保険診療適用は考えていないのも、上述のようなマイナス点への対抗処置なのかもしれません。
低コストであり、患者さんの肉体的ダメージが少ない検査の登場によってがん検診の形が大きく変わる可能性がある日本発の世界初の診断方法、実用化されることを楽しみに待っている今日この頃です。