人口あたりのベット数は世界一でもICUの病床数は先進国最下位の日本

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医師会が積極的に新型コロナ感染症感染者を受け入れていない、治療をしていないくせに、医療崩壊とか医療壊滅との言葉を使って国民に厳しい生活を受け入れるように要求していることが問題視されています。

インセンティブで医療崩壊、医療壊滅問題は解決するのか?

一方でこんなことを言い出す大学教授もいます。

医療崩壊ということばが盛んに言われているが、97%、96%のベッドが新型コロナ感染症に使われず、一般の医療に使われており、余力が日本にはある。民間病院が、商売として『新型コロナ感染症をやりたい』と思うぐらいのインセンティブをつければ、日本の医療体制は瞬く間に強化される。

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210116/k10012818571000.html

菅首相と面会したあ後の東京慈恵会医科大学外科学講座大木隆生教授の発言です。

目の前に人参をぶら下げれば民間の病院は積極的に新型コロナ感染症感染患者さんを受け入れる、とという意味だと思います。

菅首相は大木教授のご意見を聞いて、「久しぶりに明るい話を聞いた」なんて呑気なこと。

新型コロナ感染症感染症拡大にともなう医療逼迫の原因とされているものは正しいのか?

https://www.sankei.com/politics/news/210116/plt2101160007-n1.html

新型コロナ感染症感染症拡大にともなって医療体制が逼迫している原因はそこじゃないと私は考えます。

人口あたりのベット数は世界一でもICUの病床数は先進国最下位の日本

メディアがしきりに日本の人口あたりのベット数は世界トップクラスなのに、なんで新型コロナ感染症患者さんが増えるだけで、医療が逼迫するんだ的な問題提起を盛んに行っています。確かに、人口あたりのベット数は世界1位、でもねえ、

新型コロナ感染症の重症者を診るにはICUが必要なんだよ!ICUの数は先進国で最下位❗

ということに触れたメディアは少ないです。

ICU等の病床に関する国際比較

厚生労働省医政局「ICU等の病床に関する国際比較について」より

この表にある※5※と※7でICUのベット数及び人口10万人当りの!CU等病床数の数に違いがあるのは前者は日本集中治療医学会の資料であり、後者は救急救命入院料などの保険請求上の加算金を得るための届け出が行われている数をもとにしているからです。

ICUを管理する日本集中治療医学会のデータの10万人当り4.3床は米国の約13%、早々に医療崩壊したと言われたイタリアの14.7%にしかなりません。2021年に入って変異した新型コロナが蔓延して、大混乱の英国の6.6床という数字にさえ、日本のICUのベット数は及ばないのです。

通常の病床よりICUを作るのは多額の費用が必要となることは、常識だと思います。新型コロナ感染症問題が解決したあとにICUはどのような使い方をすればいいのでしょうか?

ぎりっぎりのベット数で運営しろ、と厚生労働省は圧力をかけてきた歴史

日本の病床数はたしかに先進国中で抜群の多さになっています。

病床機能情報報告・提供の具体的なあり方

厚生労働省「第1回病床機能情報報告・提供の具体的なあり方に関する検討会」より

病床数が増えると当然入院患者が増える、しかし人口あたりの医師の数は諸外国と比較して少ない、この状態が将来も続くことは非現実的であるから、病床数を減らしましょう、との考えに行政は向かってきました。

余裕のない医療を求めてきたのは行政です。

新たな病床機能の再編支援

厚生労働省医政局地域医療計画課 第1回医療政策研修会資料「新たな病床機能の再編支援について」

常に満床に近い状態でないと採算が取れない診療体系にしてしまったのは、お役人です。もちろん、病院経営者の工夫で採算分岐点を下げることは可能ではありますが、多くの病院の経営者は医師であり経営のプロではありません。経営のプロが病院運営に口出しすると、医療従事者からそっぽを向かれてしまうことも少なくありません。

医師会は開業医の権益を守る団体と考えて、新型コロナ感染症に関しては国民を脅すかの言質を使っていることが批判されています。医師会所属の病院も診療所もできるだけのことはしているのです。

医療崩壊、医療壊滅を声高に叫ぶ医師会の裏話。本当の理由はこれ⁉

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今回のような万が一のことに対応できるような余裕をもった医療は現行の医療制度の仕組みでは難しくなっています。

人口あたりの医師の数を増やせば問題は解決するか?

医師の数を増やせば、今の新型コロナ感染症対策はもちろんのこと、将来に医療が抱える問題も解消するのでしょうか?

医師会は医師の人数を増やすことに積極的ではない、と言われています。毎年、生み出される医師の数は医学部を併設した大学数と医学部の定員に左右されます。実は人口あたりの医師の数は年々右肩上がりに増加しています。

医師の寿命が延びている

医学部の定員が少しずつ増やされた結果と新設医大の開校による影響も当然ありますが、そもそもの医師の寿命が延びていることも影響しています。

テレビドラマで今でも医療モノは人気が高いそうです。私も子供のときには田宮二郎主演の「白い巨塔」の再放送を観て、「教授ってかっこいいかも」と思った1人です。まあ、私が入局した横浜市大の泌尿器科はめちゃくちゃリベラルかつ常に世界に目を向けていたので、当時の教授の英断によって教授回診を廃止しました。

医師の数が増えたことによって開業医の収入が減る可能性は無くは無いです。しかし、医師の収入とくに勤務医の収入は海外と比較して今でも超高額ではありません。そもそもの医療費が日本は先進国、特に米国(感染者爆増であっても医療崩壊までは至っていない地域が多い)と比較したらめちゃくちゃ安いのです。国民皆保険制度自体から考え直す必要もあるのかもしれません。

知人のお子さんが米国で新型コロナ感染症の最中にちょっとしたことで数日入院しました。その医療費は500万円。

結論:医師数も足りない、ICUも足りない。一朝一夕で状況が好転するわけないです。

大学病院等で研鑽を積んでいる若手医師はインセンティブ目的の人なんていないと思います。自分たちの労働が真っ当に金銭で評価されることと労働環境の整備を求めている若手医師は多数です。

民間病院に勤務している医師の多くは将来自分で開業するか、あるいは大学病院よりは高めの給与による安定した生活を目指していることが多いかと思われます。

今回の新型コロナ感染症禍で患者数減少によって、大学から派遣先あるいはバイト先から馘首された勤務医も少なくはありません。私も某大学からかなり偉い先生の受け入れを求められましたが、残念ながら当院で雇用する余力は新型コロナ感染症の第一波時点ではありませんでした。

医師の数を急に増やすのなんて不可能なのは誰もがわかっているはずです

医師の数を増やす、それは長期的な見地にたって長い年月をかけて行政が計画するものなのではないでしょうか?私学の学費が高いために、私学の医学部の多くは開業医の子供であると囁かれていても、医学部入学を希望する学生の数は一向に減る気配はありません。開業医の子息であっても、医学部入学には高い壁があるのです。

今回の新型コロナ感染症禍をしのいでも5年後、あるいは十年後には同じような世界中をパニックに陥れる疾患が蔓延する可能性は当然あります。病床数を増やせば解決、ICUを増床すれば解決、医師の数を増やすために医学部の定員や医学部を増やす、いろいろな方法が考えられますが今の今、ごちゃごちゃ言っても直ぐには新型コロナ感染症禍解消にはならないと個人的には強く思います。

経済活動が低下すれば、日本はドンドン貧乏になるので医療に費やせる公的な資金も少なくなるのは火を見るより明らかです。

もしも民間病院が商売として新型コロナ感染症の治療をやりたいと思うぐらいのインセンティブをつけただけで、現状打破は無理です。医師や看護師や臨床工学技士の数がそもそも足りないのですから⋯。

新型コロナ感染症を制圧できた国はまだない

海外では⋯なんてTVのコメンテーターの発言をみることがありますが、世界中で新型コロナ感染症を制圧できた国があありますか?1人の大学教授のコペルニクス的転回とも言える、インセンティブを出せば日本の医療体制は速攻で強化される説を「久しぶりに明るい話を聞いた」なんてことを言ってしまう首相、大丈夫でしょうか?

新型コロナ感染症対策分科会の尾身茂先生や東邦大学感染症学の舘田一博教授は首相に裏付けのないアドバイスをする大木隆生教授をどのようにお感じになっているのかを考えると、胸が苦しくなってきてしまいます。

著者プロフィール

桑満おさむ(医師)


このブログ記事を書いた医師:桑満おさむ(Osamu Kuwamitsu, M.D.)

1986年横浜市立大学医学部卒業後、同大医学部病院泌尿器科勤務を経て、1997年に東京都目黒区に五本木クリニックを開院。

医学情報を、難解な医学論文をエビデンスとしつつも誰にでもわかるようにやさしく紹介していきます。

桑満おさむ医師のプロフィール詳細

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