ワキ汗の治療方法としてボトックス®注射が2009年より保険診療で可能になりましたが、ボトックス®は定期的に注射をする必要があり、保険適用だとしても、自己負担は決して安いものではありません。
2019年末に「エクロックゲル」という腋窩多汗症薬の治療薬が保険診療で処方可能になりました。早速、製剤見本を入手できましたのでワキ汗を抑える効果とその仕組や注意する副作用を解説しつつ、エクロックゲルの将来的な可能性を追求してみます。
ワキ汗治療の塗り薬が登場しました❗
脇の汗、「ひょっとして他所様に迷惑を掛けているのではないか?」と気にされている方も少なくありません。現在は脇の汗に対してボトックス注射をする治療方法が保険適用となっています。厳密には「原発性腋窩多汗症」と診断された人だけがボトックス注射による脇汗治療の対象で、当院でも定期的に治療を継続している患者さんがいらっしゃいます。
しかし、ワキ汗のボトックス®注射はかなり多数の場所に注射をする必要があり、患者さんはもちろんのこと、治療する側のこっちもあまりやりたくない気持ちも無くはありません。2019年11月に、1日1回塗るだけで原発性腋窩多汗症の治療薬が処方薬として発売されました。
原発性腋窩多汗症治療薬の「エクロックゲル」はこのような容器に入っている透明なゲル(ジェル)状の外用薬です。
ちなみに製造発売元の科研製薬は私が専門とする泌尿器科領域では、おしっこの勢いを改善することを目的として男性だけではなく女性への保険診療で処方可能な「エブランチルカプセル」を取り扱っているので、当院にも早々と製剤見本を届けてくれたようです。
ワキ汗治療薬と呼ばれることになるであろう、「エクロックゲル」の詳細をお伝えしつつ、私見を述べさせいただきます。
エクロックゲルを手術や注射と比較してみます
代償性発汗という言葉があります。大量の手汗をかく場合の治療の選択肢として、「胸部交感神経遮断手術」があります。手の汗が出るように命令する神経を内視鏡を使って切断する手術です。この治療を受けた場合、手の汗は出なくなっても逆に胸部や腹部に大量の汗をかいてしまう現象がおこり、これを代償性発汗と呼んでいます。
代償性発汗の原因は、発汗は身体の温度調節のために自然と行われているシステムなので、手からの発汗が少なくなった替わりに、他の部分の発汗が増えてしまうのです。
注射により脇汗治療薬の取り扱い会社であるグラクソ・スミスクライン社のウェブサイトには治療による副作用として「ワキ以外の部位で汗が増えた」と記載されています。患者さんの中には脇汗が減少したけど手汗や頭部からの汗が増えるのではと心配する人もいます。
エクロックゲルが承認されたときの厚生労働省医薬・生活衛生局医薬品審査管理課の文書によると手術療法よりは代償性発汗のリスクは少ないと考えられており、外用薬(塗り薬)であるためにボトックス注射より侵襲性は低くリスクが少ないと判断されています。
でもさあ、エクロックゲルって気になる副作用があるので、処方を受ける場合は注意が必要です。
エクロックゲルの気になる副作用はこれ!
エクロックゲルは市販薬では無くて、医師の診断のもとに処方される医薬品であるのはそれなりの理由があります。
エクロックゲルが効果効能を発揮する仕組みは「抗コリン作用」です。私が専門とする泌尿器科領域では過活動膀胱の治療に処方するのが抗コリン薬であり、前立腺肥大などによってもともと排尿するときの勢いが悪い人に抗コリン薬を処方すると、尿閉といっておしっこが全く出せない状態になってしまうことがあります。
エクロックゲルの添付文書には前立腺肥大・閉塞性隅角緑内障の患者さんへの処方は禁忌と書かれています。
前立腺肥大症は中年以降の男性が罹患する病気なので、脇汗を気にする患者さん層と重なることは少ないと思われます。
と、思ったのですが⋯夏場になると私は家族に、「パパ〜、脇汗って周りの方にご迷惑がかかるから、素肌にシャツは着ない方がいいんじゃないの〜」とよく言われます。頭汗もめちゃくちゃ夏場はかいてしまう私は脇汗や頭汗より気にしている部分の発汗があるのです⋯それは足汗。足汗による他所様にご迷惑をおかけしないように私なりに気をつけておいる、こんなブログ記事を書きました。
愛用していた手ピカジェルの入手が2020年はなぜか難しくなり、入手できたとしてもボッタクリ価格。私は医師として、そして科学者の端くれとしてこっそり次のような人体実験を試みました。
おまけ編:エクロックゲルの応用方法(真似しちゃダメ)
良い子のみんなは絶対に真似しちゃだめだぞ〜❗まあ、良い子はもともと薬の適用外使用はしないだろうけどね。
足の臭いは発汗と常在菌の微妙なバランスによって発生します。手ピカジェルを使用して一時期無菌状態になったとしても、感染症の恐ろしいところは知らず識らずの間にバイキンがウヨウヨ湧き出てくることです(2020年に世界中の人が感染症の厄介な点を識ったと思います)。
バイキンの発生を24時間防ぐことは至難の技です。そこで発想を変えて、バイキンの繁殖の餌的な役割を果たしている足汗本体を抑制したら足の臭いを防ぐことは可能であるはずです。
多くの足の臭いに悩まされている全世界の人々の人柱的になるとの強い決意をもって入浴後に足の裏、足の指の間にエクロックゲルを塗り込みました。
その結果、翌日夕刻になっても自分で臭いを嗅ぐかぎりでは、ほとんど無臭。プラセボの可能性もあるので、家族の1人の協力を得て私の足の臭いをチェックしてもらいました(ボランティアとは言えないレベルの代償を要求されたけどね)。その結果、「パパ〜、ホントじゃん。臭いしないよ」でした。
足の臭いに対するエクロックゲルの乱用実験(絶対に真似しちゃダメだぞ)の次に待ち構えているのは、頭汗です。
十分に念入りに洗髪した後、エクロックゲルを頭皮と額の生え際部分に塗り込みました。その結果は⋯めちゃくちゃかぶれてしまいました。エクロックゲルの副作用としてしっかり「皮膚炎、そう痒感、湿疹」が記載されていますから当然といえば当然ですね。
あくまでエクロックゲルの使用方法は「腋窩への塗布」ですし、適応症は「原発性腋窩多汗症」であることを忘れないでくださいね。適応外処方が乱発すると例のヒルドイドのようなことになってしまいますので。
ヒルドイドを同じ成分の市販薬が発売されました。エクロックゲルの場合、作用機序を考えると将来的に市販薬となる可能性は低いんじゃないかなあ⋯。