血糖値が高めと指摘されたんでビールから焼酎に変えた、なんて話を耳にしたことはありませんか?
診療時の会話でも「焼酎、特に芋焼酎は血糖を上げないって誰かが言ってた」なんてものがあります。その誰かが誰かを尋ねると「友達」「家族」「テレビの健康関連番組」「雑誌や新聞」などとの答えが返ってきます。
以前から同じ糖質なんだから血糖に与える影響はおんなじじゃん、と考えていましたが、医師として適当なのは良くないと思いまして、今回記事にいたしました。
焼酎、特に芋焼酎は血糖値を上げないよ伝説はホント??
体内への吸収の差や同じアルコール度でも蒸留酒か醸造酒かで違いがあってもいいのかな、とも考えていたところこんな医学記事を見つけました。「好きなお酒の種類で糖尿病リスクは異なるのか~大規模研究のメタ解析」(http://www.carenet.com/)、このサイトは医師向けなので、多くの方は見ることができませんので元の論文もご紹介しておきます。ケアネットはこんな感じのタイトルです。
元の論文はこれです。
この論文はお酒の種類と糖尿病のリスクは差がない、との結論。しかーし、芋焼酎に血糖値の上昇抑える力がある、とする研究もあります。
果たしてお酒の種類と血糖値・糖尿病のリスクに違いがあるのか、ないのか、を両者を読み比べて真相を解明してみますね。
お酒の種類で糖尿病のリスクに変わりはない説
まず先にあげた「European journal of clinical nutrition」に掲載された論文の大筋はこのようになっています。
- 飲んだお酒のうち70パーセント以上を占めるものを「好きな酒」と定義
- ビール好き、ワイン好き、蒸留酒好きの3者においては特に糖尿病リスクに関連性はなかった
- アルコール換算した場合、ワイン好きは糖尿病がリスクを低かった
このようなことが判明しました。ワインってポリフェノールがたっぷりなんで血糖値も下げて健康に良いの説もおしゃれな奥様たちの間で拡散する可能性がありますが水を指しておきます(だから私は女性に嫌われる)。今回の研究はお酒のお供のおつまみには触れていません。また、摂取した食事の量も詳しくは触れられていません。
例えば蒸留酒(ウォッカやウイスキー)をガブガブ飲む傾向はオッサンに見受けられる傾向であり(私の勝手な判断だけど)、おしゃれに小洒落たおつまみをちょこちょことつまみながらワインを飲むのはカッコつけたおじさんか女性の多いのではないでしょうか?
この論文は私の独断と偏見を裏付けるようなデータも導いています。蒸留酒好きの人でBMIが高い人は糖尿病のリスクが高まる、つまり肥満傾向の人は蒸留酒好きであり、糖尿病になりやすいとも読み取れるものです。となると、いも焼酎も蒸留酒ですから肥満傾向の人は糖尿病に気をつける必要があることになり、日本の研究と相反することになります。
芋焼酎は血糖値を抑える効果がある説
鹿児島大学には焼酎・発酵学教育研究センターという機関があり、そこでは焼酎製造学・焼酎文化学などの焼酎に愛を持って接している研究者が多数在籍してます(鹿児島大学農学部サイト)。
ここで行われた「芋焼酎血糖値を下げる説」は6人の被験者さん(ちょっと数が少ないとの声は無視)に芋焼酎・日本酒・ビール・水を一週間飲んでもらって血糖値の動きを観察したものです。焼酎は製造過程で糖質を含まないが、日本酒やビールは糖質を含む点で違いがあるはず、との仮定を前提とした研究です。あれれっ、糖質+食物繊維=炭水化物ではありますが、アルコール自体は糖質のはず。糖類となると糖質から糖アルコールを除いたもの。いくら糖質ゼロと表示されている発泡酒でもそれなりにカロリーはありますので、ご注意ください。
炭水化物・糖・糖質などの用語に惑わされがちですが、アルコール飲料であればそれなりにカロリーがあって、血糖値にそれなりの影響があるように思えちゃうのですけど⋯。鹿児島大学の研究は蒸留酒の方が醸造酒より血糖値を上げない、との結論。European journal of clinical nutritionに掲載された論文はお酒の種類で血糖値への影響に差はなく、蒸留酒は肥満気味の人に対しては糖尿病リスクと関係がある、との結論。これってどっちが正しいの?
焼酎は芋でも米でも製造過程で糖分がエチルアルコールに変わるので糖質は0。でもエチルアルコール自体にカロリーはありますので、糖質0=カロリー0ではありません。
どちらにしてもアルコールは血糖を上げるんじゃないのかな
アルコールはカロリーがあります。カロリーの摂りすぎが肥満を招きますし、当然血糖値も上がります。肥満はカロリーの過剰摂取、糖尿病の場合は食事の量と運動などの生活習慣の見直しが重要です。お酒の場合、飲みやすいとがぶ飲みする傾向もありますし、食事にあったお酒、合わないお酒もあります。
どっちの説が正しいのかは様々な条件のもとでの研究が進むことを期待しながら、二日酔い気味の頭での思考を終えます。