睡眠薬で血糖値をコントロール⁉NHK「ガッテン!」がまたやらかしちゃいました❗

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2017年2月22日にNHKで放送された「ガッテン最新報告!血糖値を下げるデルタパワーの謎」がやらかしてくれました。睡眠と血糖値コントロールに密接な関係があることは否定しません。

しかし血糖値をコントロールできない糖尿病患者さんに対して不眠症改善薬「ベルソムラ」を処方しよう、と考える医師っているのでしょうか?

睡眠と血糖値の関係は深いけど、睡眠薬で血糖値をコントロールは無いぞ❗

不眠症の原因は多数ありますが、その改善薬を使用して糖尿病をコントロールする、これを裏技的・画期的な治療方法として取り上げた「ガッテン」、こりゃ大問題発生と考えて差し支えないと思います。

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http://www9.nhk.or.jp/gatten/articles/20170222/index.html?c=health

糖尿病と睡眠の関係は確かに認められているけど⋯

例えば糖尿病患者さんの脳波を測定することによって、血糖値が高ければレム睡眠の時間が短くなっていること、また睡眠時無呼吸症候群と血糖値コントロールの指標であるHbA1cの相関関係も報告されています。

例えば「Association between Poor Glycemic Control, Impaired Sleep Quality, and Increased Arterial Thickening in Type 2 Diabetic Patients」(PLOS ONE April 14, 2015) では、睡眠の質と血糖値の関係が示されています。この論文の要旨は大阪市立大学のサイトにも「睡眠障害が糖尿病の血糖改善や血管障害防止に有効な治療ターゲットであることを解明」(https://www.osaka-cu.ac.jp/ja/news/2015/05llq8)として日本語で見ることができます。

この論文ではベルソムラ(正式な名称はSuvorexant)は一切書かれていません。ある特定の睡眠薬(正確には不眠症改善薬)によって糖尿病のおける血糖値のコントロールが可能になることの証明にはなっていないんじゃないの?

なぜ特定の睡眠薬で糖尿病がコントロールできるの?

問題のガッテンではデルタパワーを出る薬として「ベルソムラ」という不眠症改善薬がわかる人にはわかる程度に紹介されていました。このベルソムラの効果・効能として「糖尿病」は添付文書にはありません。

番組の構成としては、

熟睡するとデルタ波が出る → 熟睡すると血糖値がコントロールされる → 不眠症治療薬の「ベルソムラ」を飲むと血糖値が下がった → ベルソムラは血糖値を下げる効果がある

と解釈せざる得ない内容。熟睡時の脳波であるとされるデルタ波が多い状態を示すデルタパワーを出すために不眠症改善薬が有効であり、不眠症薬が血糖値をコントロールして糖尿病を改善される、と一般の方に誤認させる番組でした。

不眠症の薬が糖尿を改善するわけじゃないぞ❗

ネットで「ベルソムラ」と検索すると「ベルソムラ 血糖」が検索キーワードの候補として上がるくらい、この不眠症改善薬と血糖値の関係を調べる人が多いのでしょうか。

この両者の関係が相関関係であったとしても、一般の方にはベルソムラはあたかも糖尿病治療薬の一つと受け止めてしまうリスキーなNHKのバラエティ番組なんです。

前掲の血糖値と睡眠に関する医学論文を書かれてのは大阪市立大学の研究チームであり、NHKの「ガッテン」でベルソムラを処方していた医師もそのチームの方です。

大阪市立大学のサイト内で睡眠障害によって、早朝高血圧が起こり、それが糖尿病による心血管障害の原因であることをつきとめたことが書かれています。また、血糖値のコントロールが悪いと睡眠障害が引き起こることも研究によって明らかになっています。

しかし、不眠症治療薬によって糖尿病のコントロールができることはさらなる研究が必要なんじゃない?

昨年からいい加減な医療記事がネット上で問題になっていますので、多くの人が正しい放送内容と認識しているNHKでも健康に関するバラエティ番組があるとの認識を持っていただきたいです。

おさらい:ベルソムラは糖尿病の治療薬ではありません❗

ベルソムラの添付文書には「二次性不眠症に対する本剤の有効性及び安全性は確立されていない」と明記されています(http://www.info.pmda.go.jp/go/pack/1190023F1024_1_09/より)。

二次性不眠症とは例えば基礎疾患によるものなどの原疾患がある場合に起こる睡眠障害の一つです。

太り過ぎで糖尿病である → 肥満により睡眠時無呼吸症候群が生じている → 不眠なのでベルソラムを処方してもらう → ベルソムラによって血糖値がコントロールされた、って具合にはいきません。

まずは原疾患である糖尿病に対しての食事療法・運動療法・薬による治療を先行させるべきであり、熟睡感が得るためにベルソムラを服用して糖尿病を改善するのは間違いです。

ご自分たちの研究がNHKで取り上げられることは、単純に嬉しいことであることは理解できます。しかし、NHKであっても興味本位のバラエティ番組があることをご存知なかった点では残念であり、医療現場に混乱を引き起こすことが大いに予想される事態になっていることもご存知ないのでは?

お前は睡眠のプロでも無いだろうし、ましてや糖尿病のプロでも無いだろう❗とのお叱りはご勘弁願います。医学の基本を学んでいれば専門外であっても理解できる範囲の話ですから⋯。

著者プロフィール

桑満おさむ(医師)


このブログ記事を書いた医師:桑満おさむ(Osamu Kuwamitsu, M.D.)

1986年横浜市立大学医学部卒業後、同大医学部病院泌尿器科勤務を経て、1997年に東京都目黒区に五本木クリニックを開院。

医学情報を、難解な医学論文をエビデンスとしつつも誰にでもわかるようにやさしく紹介していきます。

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