奥さんのつわり (悪阻) 症状が強いと、心配なあまり焦りまくるご主人もいるかと思われます。そんな時におばあちゃんが「つわりってお腹の赤ちゃんが元気に育っている証拠よ」とおばあちゃんや先輩ママのアドバイスを受けた方多いんじゃないでしょうか?
「つわり」が強いと流産のリスクが減る❗というおばあちゃんの知恵
「つわり」って8割程度の方が妊娠初期に経験する吐き気や嘔吐を主訴とする症状です。そのメカニズムとしては「ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)」の関与などが推測されています(決定的な原因は明確じゃない)。妊婦さんを励ます意味で「つわりは元気な赤ちゃんの証拠」って昔の人は言っていたんだろう程度に考えていました。
つわり症状があると、流産や死産のリスクを減る・・・これを示唆する医学論文が登場しました。
つまり民間信仰あるいは民間医療的に扱われているおばあちゃんの知恵(実はわたしはファン)であるつわりは赤ちゃんが元気な証拠説は正しかったとも言えるわけです。
そのつわりと流産あるいは死産(これらを妊娠損失リスクと呼びます)の関係ってどうなっているのでしょうか?
つわりがあると妊娠損失リスクが75パーセント減る❗
今回おばあちゃんの知恵が正しかったことを支持することとなった医学論文は米国立衛生研究所(National Institutes of Health 略してNIH)がが18歳から40歳の女性797人を調査した結果導き出されてたものです。
元ネタは「Association of Nausea and Vomiting During Pregnancy With Pregnancy Loss: A Secondary Analysis of a Randomized Clinical Trial.」(JAMA Intern Med. 2016 Nov 1;176 (11) :1621-1627.)です。これによれば、797人中188人が残念ながら途中で流産してしまいました。妊娠損失した人の中で、つわり症状として吐き気が57.3パーセント、吐き気と嘔吐が26.6パーセントありました。
しかし吐き気や嘔吐の症状が出なかった人と比べたら、しっかり、つわり症状が出た人の方が妊娠損失は75パーセント低下していたことも判明したのです。ちなみに、吐き気だけの場合だと妊娠損失リスクは50パーセント低下しています。
今回の研究に参加した女性は全て過去に流産や死産を経験している人です。流産防止のためにアスピリンが効果があることを証明することを主目的に研究されたのですが、その結果よりも「つわりと流産の関連」の方が注目されることになってしまった医学論文です。
つわりと妊娠損失のさらなる詳しい内容
米国では妊娠期間を3段階に分けて考えています。妊娠1周目から12週までをファースト・トリメスター、13週目から27週までをセカンド・トリメスター、28週目以降をサード・トリメスターとしています。今回の研究では93.6パーセントの流産がファースト・トリメスターに起こっていますが、そのファースト・トリメスターに限ってのつわり症状と流産の関係ではつわり症状として吐き気と嘔吐の両者があった妊婦さんは流産のリスクが81パーセントも減少していたこともわかっています。
つまり、おばあちゃんの知恵としての「つわりがあることは赤ちゃんが元気な証明」「つわりの症状が強いほど、元気な赤ちゃんが生まれてくる」は間違いではなかったようです。
今回の研究で生まれてきた赤ちゃんが元気であったか、元気に育ったかについての追跡調査は行なっていないようです。しかし、妊娠損失を経験した方でもつわり症状が強かった人ほど、残念な流産・死産となってしまうことが減少していたことは間違いはありません。
流産の原因は様々です
少子化が問題となっている日本で、不妊に悩まされているご夫婦も多いです。せっかく妊娠したのに、あるいは人工授精等で受精したのに残念な結果になる方も身近にいらっしゃると思います。一般的には流産・死産の原因として遺伝できなもの、ホルモン系の問題、免疫の問題などが考えられています。
この妊娠損失の原因の一つとして「抗リン脂質抗体」という物質があり、これによって血栓ができることが、妊娠を妨げているとの考え方から血栓が出来にくくするために、アスピリンが使用されています。今回の「つわり症状と妊娠損失の関係」はアスピリンの効果を検証するためのものでたが、その研究からのスピンオフ的な論文ができたのです。
このように主目的以外の研究時に観察されたデータを再検討することによって意外な結果が導き出されることも、医学以外の実験でも多数あります。
今、即時に役に立つ研究だけに力を入れるのではなく、全く役に立ちそうにない研究であっても、他の人が他の研究をしている場合に引用して利用すると、意外な想定外の結果が出ることもあります。50歳半ばを過ぎて「あの時の研究を投げ出さないで継続しておけばよかった」と町医者どっぷり生活を20年以上続けているわたしは、時々感傷的な気持ちになることが最近多くなってきました。