痩せる漢方薬ってきくと、副作用もなさそうだし体に良さそうだし、しかも痩せる!試したい!そんなイメージお持ちかもしれません。医師としましては本当に効果あるのか気になるわけです。代表的な3つの痩せるとされている漢方薬について精査してみました。
本記事の内容
痩せる効果のありそうな漢方薬をチェックしてみましたが⋯
先日、漢方に詳しい医師の講演会に参加しました。せっかくの講演だったのですが、どうにも漢方の考え方が数時間の勉強会では理解できませんでした。質疑応答タイムに「先生は漢方だけで治療しているのですか?」と素朴な疑問を投げかけたら「もちろん普通の薬が中心です」とこれまた直球のお答えをいただきました。
ナイシトールというOTC医薬品は実は防風通聖散の別名であることはご存知でしたか?
このCMを見たら間違いなくやせる薬と思い込むのではないでしょうか?
これ見たら間違いなく、やせる薬・ダイエット薬と脳に刷り込まれます。添付文書を読めばナイシトールは防風通聖散であることがはっきり書かれています。
ツムラ防風通聖散エキス顆粒の添付文書によると腹部に皮下脂肪が多く、便秘がちなものの次の諸症状⋯高血圧に伴う動悸・肩こり・のぼせ 肥満症 むくみ 便秘 となっています(http://database.japic.or.jp/)。
やせる漢方薬って本当に効果あるの?
素朴な疑問を持ちましたので代表的なやせる漢方薬を3つ取り上げて精査してみます。痩せるために防風通聖散を使用する場合の疑問点
1:腹部に皮下脂肪が多い⋯まあ、普通は痩せたいと思っている人はまずお腹周りの贅肉を落としたいでしょう、でも内臓脂肪によってお腹ぽっこりの場合は効果ないと考えるべきなんですね。あと非常に細かいことで申し訳ないのですが皮下脂肪が多い基準は何センチなんでしょう?
2:便秘がち⋯便秘って定義は明確じゃないんですよ、日本消化器学会によれば「便秘とは排便の回数が減ることです」ってなんじゃこりゃ(http://www.jsge.or.jp/より)。国語辞典のような便秘の定義ですが「がち」という言葉をつけた点がツムラさんのテクニックですね。自己申告的に「便秘がちなんです」と言えば適応症になりますから。
3:慎重投与⋯「下痢・軟便のあるもの」となっていますので、防風通聖散の効果の一つとして、便秘(定義があやふやだけど)を改善する成分が含まれていることがわかります。
1から3の条件に含まれる患者さんは「腹部に皮下脂肪が多く便秘を合併していて、お通じは正常というかなり狭き門をクリアしなくてはなりません。かなーり適応症と判断される人少ないんじゃないでしょうか。
防已黄耆湯でやせることができるの?
「ボウギオウギトウ」と読みます、この漢方薬は。これは防風通聖散についで「やせる漢方薬」として認識されています。この防已黄耆湯も添付文書を見てみますね(http://database.japic.or.jp/)。
これは(絶句)、かなり関門が狭いようです。上記添付文書を抜き書きすると「色白で筋肉軟らかく水ぶとりの体質で疲れやすく、汗が多く、小便不利で下肢に浮腫をきたし、膝関節の腫痛するものの次の諸症」⋯条件を整理します❗
「色白+筋肉がやわらかい+みずぶとり+疲れやすい+多汗+小便不利(なんじゃこれ、泌尿器専門なんですけど、私)+足に浮腫+膝の関節が痛い」といった症状がないと厳密には適応とはなりません。
漢方を得意としている医師から見ると、なんて知識のないやつ、こいつ医者か、とのお叱りを受ける状態の私ですがこのような状態の患者さんってかなり危険な状態なんじゃないの?どうみても甲状腺系の疾患か腎機能に異常があるって診断しません、普通。成分として「甘草」が含まれているので、腎機能に問題がある場合は使えないし、血圧が高い人にも使えないし⋯防風通聖散のように疑問点を箇条書きにできないくらい、めちゃくちゃ狭い門をクリアした、選ばれし肥満症の方を対象とした薬です。
大柴胡湯という漢方薬もあるけど⋯
さあ、ここまでであなたにぴったりのやせる漢方薬が見つかりましたかあ?あれ、返事がないぞ⋯じゃあ、大柴胡湯はいがかでしょうか?これもやせる漢方薬として処方されています。実は大柴胡湯、ダイサイコトウと読みますが、これが「やせる薬」「ダイエット薬」と称されていることは今回ネットで調べて初めて知りました。だって添付文書のどこにも肥満という言葉は出てきませんもの。
ほらね、添付文書のどこにも「やせる」は当然のこととして「肥満」という言葉は一切ないです。じゃあ、なんで大柴胡湯を服用したらやせることができるのか、成分と効果・効能から予想してみます。「便秘」と「上腹部が張って」との言葉が効能又は効果として書かれています。
成分として「ダイオウ」が入っています。ダイオウは下剤の働きをします。便秘と上腹部の張りを解消する効果・効能とダイオウの成分から、お腹の中をスッキリさせるので「やせる漢方薬」と解釈されているのですね。これはかなり無理がある論法に感じます。
肥満の原因をお腹のせいにしたところで、腸内をスッキリさせても減量効果はたかが知れています。太っていることを気にして、下剤を常用している患者さんに遭遇することも多いのですが⋯。あるいはさらに拡大解釈して「ノイローゼ」(現代において、こんな医学用語あるんだ)を神経症と読み替えれば、「ストレス喰い予防効果」ってことになるんでしょうかね?
漢方でやせる、これはかなりキツイぞ
いくら中国4000年の歴史で培われた経験を背景にした漢方薬の効果で「やせる」のはちょいと無理があるような気がします。21世紀に入ってから、医学部で漢方を教えるようになりました。漢方薬が全く効果がない、エビデンスがない、との考え方は間違っています。しっかりとエビデンスがあるものも存在します。大建中湯は作用機序もエビデンスもあります(例えば「Randomised clinical trial: the effects of daikenchuto, TU-100, on gastrointestinal and colonic transit, anorectal and bowel function in female patients with functional constipation」DOI: 10.1111/apt.12264など多数)。
漢方薬のさらなるエビデンスの蓄積を願いつつ、漢方に詳しくない当方としては「やせる効果がありますよ」と気軽に処方はできないと確信しました。
しかし、いかにも「やせる漢方薬」的なイメージのCMってどうなんでしょうか、あったらいいなをカタチにするなんとか製薬さん。