「膀胱炎かもしれない」と思い泌尿器科を受診し、抗菌剤を処方されたものの、一向に症状が改善しない…。そんな経験をお持ちの女性は意外と多いものです。繰り返す排尿トラブルに悩まされ、「どうして治らないの?」と不安を感じる方も少なくありません。
もしかすると、その症状は単なる膀胱炎ではなく、閉経関連泌尿生殖器症候群(GSM:Genitourinary Syndrome of Menopause)と呼ばれる疾患かもしれません。これは、加齢やホルモンの変化により、膀胱や尿道、膣の粘膜が薄くなり、刺激に弱くなることで起こる症状の総称です。抗菌剤だけでは改善しにくいため、適切な診断と治療が必要になります。
膀胱炎のようで膀胱炎ではないGSMという病気とは?
「Genitourinary Syndrome of Menopause」と呼ばれる病状があります。日本語だと「閉経後性器尿路症候群」と訳されていたことがありましたが、2019年に日本女性医学学会によって「閉経関連泌尿生殖器症候群」と呼ぶことになりました。「閉経関連尿路生殖器症候群(GSM)の評価法と治療指針」(おお、この論文を書いたのは筆者の後輩たちだあ!!)によると、GSMの特徴とされる症状は
①陰部の乾燥感・不快感
②性交痛他のセックストラブル
③尿トラブル(頻尿・尿漏れ・再発性膀胱炎)
となっています。女性患者さんに対応する泌尿器科医の場合、というか筆者の場合、どうしても②に関しては問診もしにくいですし、①もちょっと躊躇してしまいます。しかし、GSMは中年以降の女性の約半数が罹っている疾患とのデータもあるので、泌尿器科を標榜している町医者としては避けては通れない病気なんです。
GSMを頻尿・尿漏れ・再発性膀胱炎を中心に考えてみましょう!
GSMの女性が泌尿器科を受診する症状として頻尿・尿漏れ・繰り返す膀胱炎の3つがあります。
1:例えば「おしっこの回数が多いんです」との訴えに対して即「それは過活動膀胱です」と診断して抗コリン薬やβ3作動薬を処方することは正しい診断と治療ではありません。過活動膀胱と診断する上で必須の症状は「通常とは違った猛烈な尿意」「耐え難い尿意が突然襲いかかってくる」ような切迫感です。マストの症状がなく、頻尿の場合は一般的な細菌が原因菌となっている膀胱炎も考慮に入れる必要があります。膀胱炎を治療しても耐え難い切迫感を伴わない頻尿が続く場合はGSMを考慮するべきです。
2:尿漏れを主症状とする時には、過活動膀胱に伴う切迫性の尿失禁なのか、あるいは腹圧性の尿失禁なのかを判別する必要があります。中には両者による混合性の尿失禁がありますので、鑑別診断が必要になってきます。その上でさらにGSMによる失禁も区別する必要もありますので、どのような状況で失禁が起きてしまうのか、生活環境等を含めた丁寧な問診が必要となってきます。
3:繰り返す膀胱炎、つまり再発性膀胱炎の場合、これはちょっと厄介です。一般的な膀胱炎の症状から診断して、抗菌薬を処方する医師も残念ながら少なくはありません。細菌が原因である単純な膀胱炎と思われても確実に治療するためには「尿培養検査」と「薬剤感受性」が必要です。安易な抗菌剤の服用を繰り返していると、抗菌剤に抵抗を示す細菌が出現してきます。そのような場合であっても薬剤感受性を調べておけば多数ある抗菌剤の中でどの抗菌剤が効果があるかが判るのです。以前と同じ細菌が同定されても以前の抗菌剤が効果を発揮できないことも稀ではありません。「膀胱炎ってクセになるなるのよねえ〜」と世の中のおばさま方がよく口にする言葉なんですが、適切な抗菌剤が処方されていないことによって、繰り返し膀胱炎を発症してしまうのです。
1,2,3を検討して過活動膀胱ではない、腹圧性尿失禁ではない、不適切な抗菌剤の処方はない、のに尿トラブルが続くのがGSMであると考えることができるのです。
GSMの治療方法は?
国際女性性機能学会( International Society For The Study of Women’s Sexual Health)が推奨するGSMの治療方法として・女性ホルモンの局所投与・女性ホルモンの全身投与、保湿剤の投与、DHEA膣剤の投与、そして不思議なことに男性ホルモンであるテストステロンの局所投与などが推奨されています。男性泌尿器科町医者としては、筆者はまずは「保湿剤の投与」を行なっています。
女性ホルモン投与に関しては前立腺がん治療で治療経験を積んでいるためにホルモンのプロフェッショナルとも言える泌尿器科医であっても男性泌尿器科の場合は少々躊躇してしまう部分もあります。というのも閉経後の性ホルモン分泌低下による膣・外陰部の視診が必要となるからです。もともと恥ずかしい病気であると考えている方も少なくはない泌尿器の疾患なのに、砕石位と呼ばれる仰向けに寝て両足を広げた姿勢での診察に抵抗感をお持ちの女性が当然の如く多いのです。産婦人科では絶対的に必要な診察姿勢なのに、泌尿器科ではちょっとねえ、泌尿器科であんな恥ずかしいかっこうをさせられちゃった、と感じる方もいますしね。
ところがGSMに悩まされている方はQOLの低下はこちらが予想している以上であり、症状が改善する可能性があるのであればと、今のところは幸にして砕石位を強く拒む患者さんは経験しておりません。
陰部の乾燥感・不快感、性交痛他のセックストラブル、尿トラブル(頻尿・尿漏れ・再発性膀胱炎)に悩まされている女性、特に尿トラブルに悩まされている方はご遠慮なく、泌尿器科医(筆者のように男性であっても)ご相談くださいませ。