前立腺がんは2015年以来、日本人男性が罹患する第一位のがんです。しかし、前立腺がんによる死亡数は2013年の11560人をピークとして減少しています。
罹患数が増加しているのに死亡数が減少している理由として、前立腺がんの治療が進化したこともありますが、早期に発見していることも大きく影響しています。
疫学的なエビデンスに裏付けられた前立腺がんになりやすい人は早期発見に努めれば、死亡リスクを減少することが可能になると考えられます。
どのような人が前立腺がんになりやすいのかを説明していきます。
当然だが、男性であること
前立腺は男性だけにある臓器で、精液を作ることが主な働きです。以前、排尿困難を主訴とする女性が、「前立腺肥大でおしっこが出にくいのですが」と受診したことがあります。
前立腺がんは日本人男性において急増しているのに、前立腺がどのような場所にあり、どのような機能をつかさどっていることは、一般には知られていません。
前立腺肥大症と前立腺がんは違った疾患であり、前立腺がんは男性だけが罹患することを、再確認しておきますね。
※注意:女性も前立腺に相当する臓器があり、女性なのに前立腺がんになったとの症例報告もあるようですが、ごくごく稀なことであり、女性が前立腺がん罹患を心配することは無用です。
日本人である
前立腺がんの罹患率は人種によって違ってきます。人種により罹患率が違っていて
黒人 > 白人 > アジア人
の順になっています。これだけみるとアジア人は罹りにくいとちょっと安心したくなります。アジアに限っての罹患率は
東南アジア > 東アジア > 南・中央アジア
の順になっています。ところが私たち日本人の罹患率は東南アジアの約3倍も罹りやすいのです。つまり日本人であることが前立腺がんになってしまうリスクと考えることもできます。
一方で、日本人の場合は前立腺がんになってしまったとしても、死亡率は世界的に見ても低くなっており、さまざまな理由によって前立腺がんになっても死なないという状況になっています。
歳をとっていることがリスクを高める
多くのがんの多くが年齢を重ねるほど罹患率が高くなることは、常識かもしれません(泌尿器領域のがんである「精巣がん」は若い人が罹患します)。
前立腺がんの場合、国立がん研究センターがん情報サービスの2018年のデータによると、40歳代だと10万人中に2人、50歳代だと10万人中47人、60歳代だと10万人中275人、70歳代だと583人となっていて、歳を取ることにより急激に前立腺がんになってしまうのです。
歳を取れば取るほど、前立腺がんになってしまうリスクは右肩上がりになってしまうのです。
動物性の食品が好き
非常に悩ましい問題として、欧米型の食生活を送ると前立腺がんになりやすいと考えられています。欧米型の食生活とは動物性の食べ物を好んで食することを示し、前立腺がんの発症が増えると研究結果があります。また、赤肉や加工肉に含まれるヘム鉄の摂取も前立腺がんの発症リスクを高めると考えられています。
特に飽和脂肪酸を含む食品を多く摂取すると前立腺がんの発症リスクが高まるのです。
しかし、ほとんどが海外の研究であり、日本人の場合の摂取量は少ないことも考慮に入れなければなりません。悩ましい問題と先ほど述べた理由は動物性食品は人体に必要な必須アミノ酸を多く含むタンパク質が豊富です。
筋肉の素となるタンパク質の摂取を少なくすると、筋肉量が減ったりする「フレイル」になってしまいます。高齢者にとって「フレイル」は健康寿命を短くする要因になります。
前立腺がんを恐れるあまりに、フレイルになってしまうのは大問題なのではないでしょうか?
父親や兄弟が前立腺がんである
がんは遺伝するか?これはご両親ががんになった人が一番心配することではないでしょうか?遺伝するがんもあれば、遺伝が認められていないがんもあります。
日本人を対象とした研究では自分の遺伝子の1/2を持っている血縁者(第1度近親者と呼び、両親・子供・兄弟のことを指します)に1人でも前立腺がんを罹患してた人がいる場合、前立腺がんになるリスクは5.6倍になることが知られています。
もう少し具体的に説明すると、お父さんが前立腺がんになった場合、その息子は前立腺がんになるリスクは7.52倍、兄弟が前立腺がんになった場合のその兄弟が前立腺がんになるリスクは2.49倍になるのです。
父親、男兄弟が前立腺がんに罹患すると、前立腺がんが見つかるリスクは高くなるのです。そのような方は40歳からPSA検査を受けることが推奨されています。
太っている
泌尿器領域の疾患のリスク因子として肥満があります。前立腺がんの場合は日本人研究者により、高脂肪食による肥満が前立腺がんの細胞が増えることをマウスを使った実験で明らかにしています。
肥満と前立腺がんの関係についてはハワイの日系人と日本人を比較した研究があります。ハワイ在住の日系人は前掲のように欧米型の食生活を送っていることが前立腺がんの危険因子であるとともに、BMIを比較したらハワイ在住の日系人の方が明らかに高いと思われます。
つまり、肥満は前立腺がんに罹患するリスクを高めてしまうと考えて良さそうです。
母親が乳がん
有名女優のアンジェリーナ・ジョリーが乳がんになってしまう遺伝子を持っていることを知り、発症していない乳房を切除したことが、2013年頃に話題になりました。
それに触発されたのか、前立腺がん発症の遺伝子を持っていることを知った英国人男性が、罹患もしていないのに前立腺を切除したことが英国のタイムズ紙で報道されました。
BRCA1、BRCA2と呼ばれる遺伝子があります。BRCA1やBRCA2遺伝子が変異することによって、乳がんや卵巣がんになる確率が高くなるために、その遺伝子を持っていたアンジェリーナ・ジョリーは前述のような予防的な治療を受けたとのことです。
このBRCA1、BRCA2が変異していると前立腺がんになりやすいことが知られています。遺伝子は性別を問わず2分の1の確率で子どもに受けつがれます。
これらを考えると、母親や女兄弟が乳がんの場合、前立腺がんになるリスクは高まると考えられます。当院でいわゆる家族歴を詳しく問診する理由はその為です。
前立腺がんを早期発見する方法
前立腺がんは年齢とともに罹患リスクが高まります。今では日本の多くの自治体で前立腺がん検診が行われています。対象年齢は50歳以上となっている自治体が多いようです。
前立腺がんは血液を検査するPSA検査で見つけることができます。早期発見することによって前立腺がんの死亡率を下げることが可能ですから、自治体から「がん検診」を受けるよう通知が来た場合はぜひ受診してください。
初期の前立腺がんは症状が出にくく、自覚症状はありません。そうなると血液検査であるPSAを調べるのが一番の方法です。しかし、命に関係ない前立腺がん(ラテントがん、と呼ばれている)まで発見してしまう可能性があります。前立腺がんと関係ない原因で死亡した方を病理解剖すると、30〜50パーセントの人に前立腺がんが見つかるのです。臨床上は問題ではない前立腺がんまで見つけてしまうことは、過剰検査・過剰診断・過剰治療につながるという問題が発生します。がんであると確定診断をするためには、前立腺の生検が必要であり、病理診断で悪度を判定する必要があります。悪性度によって治療をするか、積極的な治療をしない「監視療法」も標準治療の一つです。
繰り返しになりますが、親族に前立腺がんの方がいる場合は40歳以上からPSA検査を受けることが推奨されますが、症状がない場合は健康保険の適用外になってしまう点にご注意ください。