「末期がん患者を救った男」(白木茂著 幻冬舎メディアコンサルティング発行)という本があります。ご自身がお子さんを白血病で亡くした実業家がさまざまな経験を経て、「ヨウ素」を使ったがん治療法にたどり着く物語です。
しかし、この著書はある経済事件を引き起こし、著者は逮捕されています。
著者の非常に読みやすいロジカルな経験談に関して真偽を調べることは不可能です。しかし、この白木茂氏が勧めるヨウ素を使ったがん治療はどこからみてもトンデモ系ニセ医学であることはお伝えしておく必要があると考えます。
本記事の内容
この本はなぜ、がん患者さんの家族の努力が完治のポイントであると強調するのか?
「末期がん患者を救った男」の序章「がんと闘うために重要な患者と家族の”心得”5」及び第1章「幸せから絶望へ」は読みやすい内容であり、読者の心を惹きつけやすいものになっており、がんセンターの「がん情報サービス」のデータを引用するなどして、もっともらしい名文で埋め尽くされています。
いくつかツッコミたい部分もあるのですが、枝葉末節であるので問題点の指摘は避けます。序章と第1章の要旨は、
- 家族ががんと診断されたら情報収集するのは家族の役目である。
- 医師といえどもがん治療のエキスパートではない。
- 現代の標準治療には限界がある。
この三つを強調しています・・・つまり読者に強力なこの刷り込みを行なっているのです(これ、本当に白木氏が書いたのだろうか?めちゃ優秀な編集者さんがアドバイスしたのか?と考えてしまうくらい、読みやすい名文です)
第2章「現代がん治療の”限界”」あたりから雲行きが怪しくなる
白木茂氏は最愛のお子さんを白血病で亡くしてしまい、一緒に病気と闘っていたために複数経営していた事業も全て倒産させてしまいました。間違いなくここから逆転して事業も人生も立て直す、よく見かけるセミナービジネスでのお約束のストーリーが展開されます。
トンデモさんお約束の製薬会社の悪意と医師の利潤追求が無駄ながん治療の促進剤になっていることを強調しつつ、がんの標準治療である三大療法である「手術」「抗がん剤療法(化学療法)」「放射線療法」の限界について白木氏は述べています。
しかし、「食事療法は病気を治す基本」はいただけません!!
残念ながら、がん患者さんが特定・特殊な食材・食事を摂取することによってがんが治ったことを示すクオリティの高い論文は存在しません。
白木氏はがん患者さんは低カロリー食や体を温める食材を推奨しています。
そして、「体温を1度上げれば免疫力は上がる」と自然派さんが使いまわしている、全くエビデンスのないお約束的定型文が飛び出してきます。
この辺りから、白木氏がロックオンしている対象者が、先日倒産したことが伝えられた健康関連雑誌を出版しているマキノ出版の著作物に惑わされている、真っ当な医学情報には疎い層であることが理解できますね。
おいおい、ヨウ素によってがんが治療できることのエビデンスはどこから拾ってきた!!??
インチキ啓発系セミナーのお約束である、苦労話、人生一発逆転秘話、常識の否定に始まり、あなたも私が成功した方法をぜひ取り入れてくださいとの流れが第3章「がんを叩きまくった新しい成分『ヨウ素』見出した”逆転のカギ”とは?」です。
まあ、この章はトンデモのオンパレード。例えば日本人研究者がヨウ素の無毒化に成功した、なんてことが書かれていますが、ヨウ素を主原料とする私たちが通常の診察や手術時に使用する「イソジン」の主成分はヨウ素です。そのヨウ素が無毒化してしまったら、消毒になーんの役にも立ちません。
ヨウ素製剤の開発経緯という表で、タイでヨウ素液の経口摂取と注射によってHIV及びエイズ患者さん治療が顕著な効果を発揮したことが記載されています。これに関する真っ当な論文を調べたのですが、私の能力の限界なのか該当する論文は見当たりません。
しかし、「一般社団法人コロイド化ヨウ素研究学会」 という、学会との名称はついていますが、文部科学省管轄下の学会ではない団体のウェブサイトには、白木氏の著作をほとんど同じ開発の歴史が表となって記載されています。
ヨウ素でがんが治った症例が多数掲載されているけど、第三者の検証は無理!!
第4章はヨウ素を使ったがん治療の成功例が多数掲載されています。これはトンデモ系医学情報関連書籍が得意技とする、一見症例報告風に見えても、あくまでお客さまの感想レベル。第三者の検証に耐えうるデータは全く書かれていません(例の倒産したマキノ出版がよく使っていた技法)。
患者会に入会するとこんなものが送られてきます
白木氏はウィンメディックスという会社を立ち上げ、未公開株を販売したことによって金融商品取引法違反(無登録など)の疑いで逮捕されています(2023年3月9日朝日新聞)。
がん患者さんやその家族を対象にして、セミナーを行い、そこで未公開株の譲渡を持ち出し、患者会を組織しているようです(これは事件化しているため、詳細は省きます)。
患者会に入るとこんな素敵な雑品が届くのです。
原子状カルシウムってなに?岩盤水ってなに?Yヨードとは?Eヨードってなんじゃ??
不思議なポンコツ雑品を送付された、がん患者さんはこれらをどのように使用したのでしょうか?
トンデモ系ニセ医学詐欺事件の背後のお医者さん
白木氏はがん治療に対する医師の力不足を声だかに主張しつつ、医師を利用しています。著作物も医学博士の称号をお持ちの方に医療監修をさせています。
実はSNSで真っ当な医師から批判されている「全国有志医師の会」なる団体があります。そのトンデモ団体の支部と思われる「名古屋有志医師の会」に所属するお医者さんは
この医師はウィンメディックスのアドバイザーとしてセミナーで紹介されています。
言論の自由は守られるべきルールです。出版の自由も守られるべきであることが私のプリンシパルです。しかし、これらの自由には責任義務も伴ってくるはずです。このトンデモ医師以外にもウィンメディックス事件に関わった医師がいるようです。2023年6月にある医師がウィンメディックスの販売に強く関わったことに関する裁判が行われるとの情報がありますので、詳細は自粛します。
ちなみに、金融商品取引法違反疑いで逮捕されていても、白木氏が著作で推奨しているヨウ素を原料にしたヨウ素水は今の今でも販売されている事実を多くの方に知ってもらいたいです。
次回は例のメタトロン使い医師がウィンメディックスの販促に協力していたことをお伝えする予定です。