ヒルドイドは皮膚科で多用される処方薬です。処方薬は処方箋がないと購入できません。ですが、このヒルドイドは保湿効果が高いために、美容目的で使用できるとネット上で話題になり、ヒルドイドをGETするために保険適用外処方を求める行為(患者)・処方してしまう行為(医師)が社会問題化しました。
何が問題なのかと言いますと、皮膚の疾患でヒルドイドなしでの生活は考えられない人は大勢いらっしゃいます。ですが、ヒルドイドの処方が必要な症状ではないのにウソの症状を申告するという行為が急増しヒルドイド不足が起こってしまったのです。もちろん希望する側に問題あります。でも処方してしまう医師にはもっと問題があります。医療費の不正請求ですよ。
それだけ需要があるヒルドイドですから、ヒルドイドの主成分であるヘパリン類似物質が含まれた市販薬が複数の製薬会社から販売されるようになりました。美容目的でヒルドイド処方を希望する患者さんが減ることが強く望まれています。
さて皆さんがもっとも気になるのがヒルドイドと市販薬は同じ効果が期待できるの?という点でしょう。また、なぜ市販薬の「ヒルマイルド」も「ヒルドイド」もヒルが名称に付くのでしょうか?
ヘパリン類似物質を主成分とする外用薬のネーミングの謎、処方薬と市販薬の比較等について説明しますね。
本記事の内容
ヒルドイドもヒルマイルドも主成分はヘパリン類似物質、なんで名前に「ヒル」が付くの?
ヒルドイド (Hirudoid) は進行性指掌角皮症、皮脂欠乏症、血栓性静脈炎、瘢痕・ケロイドの治療と予防などに対する効果・効能が認められている健康保険適用の処方薬です。医師が病名を診断して初めて健康保険適用薬として処方されます。
ところがこのヒルドイドは保湿効果がある、との噂によって美容液や美容クリームとして使用する奥様方に対する保険適用外処方が社会問題化していました。
保険適用外使用はNGと冷たく宣言しつつ、ヒルドイドというネーミングの語源の由来を説明して、多くのオバサマを敵に回してしまったのです。
ヒルドイドのヒルはあの蛭のラテン語が語源だよ❗
ヒルドイドのヒルは漢字で書くと「蛭」。森やジャングルでヒトに吸い付いて血を吸う、細長いぬめぬめする例の生き物の名前から付けられたのがヒルドイドです。蛭はヒトに吸い付いた時にヒルジン(Hirudin)を唾液腺から出しています。そのヒルジンの性質がヘパリンに似ているためにヘパリン類似物質と呼ばれるようになりました。
生き物の蛭の学名は「Hirudinea」であり、ラテン語で蛭は「Hirudo」です。
ネット上にはヒルドイドのヒルはドイツ語が由来と書かれている記事がありますが、ドイツ語で蛭は「Egel」だと思うんだけどねえ⋯私が間違っていたならゴメンなさい。
ヒルドイドの主成分はヘパリン類似物質、このヘパリン類似物質は高い保湿機能があるとともに、ヘパリンが備えている抗血液凝固作用の為か血行促進作用も認められています。
※ヒルドイドの名前の由来に関しては、製造販売元であるマルホ株式会社のMRさんに確認すればいいのですが、私がヒルドイドの保険適用外使用について大々的に問題提起したので、尋ねにくい状況です。ちなみに日本病院薬剤師会による医薬品インタビューフォーム(https://www.maruho.co.jp/medical/dl/pdf/hirudoid_if.pdf)でも名称の由来として「ドイツ語の Hirudo (蛭属) と~oid (~の様なもの) を組み合わせたものである」と書いてあるから、ドイツ語なのかなあ⋯
ヒルドイドはニキビにも効果がある?
ヒルドイドにはニキビやニキビ跡にも効果あるかのような情報がネット上に散見されます。これらはガセネタの可能性があります。ディフェリンなどのにきびの処方薬の副作用として、皮膚の乾燥があります。その対応策として、ヒルドイドを併用が行われることがあり、早合点した人が「ヒルドイドはにきびに効果があるんだ」と誤解した可能性があります。確かにヘパリン類似物質の効果として抗炎症作用や血行促進があり、赤にきびに効果が期待できそうですが、少なくとも保険適用の病名・症状に「にきび」は含まれていません。
処方薬ヒルドイドと市販薬ヒルマイルドの違いは何?
マルホのMRさんに以前、「ヒルドイドって効果があるけど、美容目的で処方が多いから、市販薬として販売はできないの?」とお尋ねしたことがあります。マルホの回答は「市販薬としての流通チャンネルが自社には無い」とのことでした。
現在は化粧品のコーセーとマルホの合弁会社であるコーセーマルホファーマが市販品としてカルテHDというブランドで医薬部外品の化粧品としては販売しています。
ヒルドイドの保険適用外問題がマスメディアに取り上げられたことの影響なのか、ここ数年でヒルドイドの主成分であるヘパリン類似物質を含む市販薬が登場して、派手にCMを打ち出しています。
しかし、紛らわしいネーミングを付けちゃったヒルマイルド
ヒルマイルド❗外観もヒルドイドそっくりで、名前までそっくり。これは大丈夫なのでしょうか?海外なら間違いなく訴えられると思うのですが。販売の仕方はさておき、このヒルマイルドを製造販売している健栄製薬は私たちが診療で日常使いする消毒用アルコールなどで有名な信頼できる製薬会社です。手ピカジェルが有名です(手ピカジェルで足の臭いを消す裏技を知りたい方は「気になる足の臭い、悪臭を消す簡単な方法を発見しました!これは人類を救うかも??」をどうぞ)。
ヒルマイルドというネーミングはたぶん、ヒルドイドの「ヒル」と穏やかを意味する「マイルド」を組み合わせたものだと予想されます。
ヒルドイドとヒルマイルドは効果として全く同じであるのか?、気になりますよね
ヒルドイド(クリーム0.3%)の添付文書による成分構成はこれです。
一方のヒルマイルド(クリーム)の成分構成は
わかりにくいので添加物の成分の違いを表にしてみます。
添加物成分 | ヒルドイド | ヒルマイルド |
---|---|---|
グリセリン | ◎ | ○ |
スクワラン | ○ | ○ |
軽質流動パラフィン | ○ | ○ |
セレシン | ○ | ○ |
白色ワセリン | ○ | ○ |
サラシミツロウ | ○ | ◎ |
グリセリン脂肪酸エステル | ○ | ○ |
ジブチルヒドロキシトルエン | ○ | ○ |
エデト酸ナトリウム水和物 | ○ | ○ |
パラオキシ安息香酸メチル | ○ | ○ |
パラオキシ安息香酸プロピル | ○ | ○ |
ポリオキシエチレンセチルエーテル | – | ○ |
添加物の表示は、原材料に占める重量の割合の多いものから順に記載するという決まりがあります。成分の種類的にはほぼ同じですが、成分的に大きな違いは処方薬のヒルドイドは基剤として味気ないグリセリンを使っているのに対して、市販薬であるヒルマイルドはサラシミツロウを使っている点。
市販薬の方がユーザーを意識して、ユーザビリティを重視していることがわかります⋯でもさあ、ヒルマイルドは無添加とCMページではアピールしてるけど、どういう意味か気になるなあ。
処方薬が市販薬になった場合、スイッチOTCと呼びます
解熱鎮痛薬として医療機関で大量に処方され、患者さんも名前を覚えてしまった薬の代表格「ロキソニン」。このロキソニンは今では処方箋なしで、薬局で購入可能です。
ロキソニンのように処方薬が市販薬になった場合、OTC(Over The Counterの略。店頭でカウンター越しに購入できることを意味します)の中でもスイッチOTCと呼ばれます。処方薬から市販薬にスイッチ(切り替えた、ってこと)したことを表現しています。
ちなみに処方薬であっても先に販売された先発薬と先発薬の特許が切れた後に作られるジェネリックでは、添加物や味付け香りに違いがあることも。
あの小林製薬さんはヘパリン類似物質入り市販薬を販売しているかな?
ヒルマイルド以外にもヘパリン類似物質が主成分の市販薬は多数あるようです。先陣を切ったのはマツキヨのヒルメナイド。似たりよったりのネーミングですが、ネーミングといえば❗小林製薬でしょう。小林製薬さんは同じような成分なのに抜群のネーミングをつけることを得意としていることで高名ですよね(苦笑)。
小林製薬も当然人気のヘパリン類似物質を主成分としている商品を販売していました。
小林製薬の市販薬としては地味なネーミングの「さいき(Saiki) 」です。「スキンケアではなく医薬品で治す!」と勇ましいキャッチコピーが小林製薬さんの持ち味を醸し出していますね(https://www.kobayashi.co.jp/brand/saiki/product/)
でも「ヒフミド」という名前の小林製薬のヘパリン類似物質を含む商品の広告を見た記憶が⋯
ありました、ありました。その名も「ヒフミド」❗ヘパリン類似物質を主成分とするために、ネット上の広告(https://www2.kobayashi.co.jp/seihin/lt/cyb/hifmid1_07/)では「驚きの保水力!うるおい体験」とか「気になる、乾燥小ジワを目立たなくする」とか「あなたの肌を守る製薬会社品質です」などなど、さすがに宣伝上手ですね。
ちなみに医薬品「さいき」、化粧品「ヒフミド」は成分的にどんな違いがあるのか気にはなるけど、詳細な検証はやめておきます。
ヘパリン類似物質含有製剤の合意に関するお知らせ(2022.03.15)
ヒルドイドvsヒルマイルド問題は、解決した模様です。
健栄製薬株式会社とマルホ株式会社は、今般、健栄製薬株式会社の製品であるヘパリン類似物質含有の乾燥肌治療薬「ヒルマイルド®」に関する紛争につき、合意による解決に至りましたので、下記のとおり、お知らせいたします。
https://www.maruho.co.jp/information/20220315.html
マルホ株式会社は、2021年1月21日付けで、大阪地方裁判所に「ヒルマイルド®」の販売停止等の仮処分命令申立てを行いました。大阪地方裁判所は、2021年7月9日に仮処分命令の申立てを却下する決定を行いました。その後、マルホ株式会社は、本訴を提起すべく引き続き準備を進めておりました。今般、健栄製薬株式会社とマルホ株式会社は、健栄製薬株式会社製の「ヒルマイルド®」(一般用医薬品)とマルホ株式会社製の「ヒルドイド®」(医療用医薬品)に関し、解決に向けた協議を行い、双方互譲の上、①健栄製薬株式会社が従前どおり「ヒルマイルド®」の使用を継続すること、②健栄製薬株式会社が「ヒルマイルド®」のデザインを変更すること、③健栄製薬株式会社が「ヒルマイルド®」について「マルホ株式会社および同社が製造販売するヒルドイド®との関連はありません」との説明をCM・ホームページで説明することを条件として、「ヒルマイルド®」に関する両社間の紛争を終了させることで合意に至りました。