ニセ医学を批判するブログを多く書いてきて、少し心が荒んでしまったので、子供が質問するような「あくびってうつるけどどうして?」との素朴な疑問に対して医学的・科学的にお答えします。
本記事の内容
あくびはうつる、って思っていますよね、本当でしょうか?
科学的な思考回路を重んずるオッサンの場合
- 単にたまたま「あくびがうつった」という珍しい事象が印象深いので「あくびはうつる」と思い込んでいる
- 酸素が少ない環境だとあくびが出やすいので、同じ環境にいた人があくびをするのは当たり前
- あくびをする回数と他の人が同時にあくびをした回数のデータを示せ❗
なんてことを言うはずです(荒んだ私もこれです 笑)。
でもこれが違うんだなあ〜。
2番目の意見なんてかなりもっともらしい説ですが、これって医学論文で明確に否定されています。
たまにはこんなのんきな画像で和みましょうね(と、自分で自分に言い聞かせる、今日この頃の私です)。
酸欠だとあくびをしやすい、という説は否定されています
退屈な話を大人数で聴いていると自然とあくびが出ます。今までその理由として「酸欠」になるから、と多くの人が考えていたんじゃないでしょうか?こんな実験があります。例えば酸素濃度100パーセントの部屋、二酸化炭素を3パーセント含む部屋、二酸化炭素を5パーセント含む部屋の三つの部屋を用意して、それぞれどの部屋に入った人があくびをしやすいかその回数を数えてみたとしましょう。そんな実験をしたら
あくびの回数と部屋の酸素濃度はまったく関連しなかった
との結果が出るはずです。その裏付けは「Yawning: no effect of 3-5% CO2, 100% O2, and exercise」 (Behav Neural Biol. 1987 Nov;48 (3) :382-93.) をご覧ください。つまりあくびは血中の酸素濃度とは関係ないよ、ということになります(実は酸素100パーセントってかなり危険じゃないの)。
果たして本当にあくびはうつるのか?日本の真面目な論文があります
あくびって別に酸欠状態だから出るわけではない、との説に対しての反論ももちろんあります。医学は決して閉鎖された学問ではありませんし、ふざけたような論文も数々あります。実験方法に対して間違いを指摘するチャンスもありますし、疑わしい結果の出た論文や興味深い実験に対しては追試と言って複数の機関が同じ実験を行い、再現性があるかを試します⋯ニセ医学の場合、この追試が不可能な単なる体験談、アンケートレベルで「効果が実証されました」とやるからまともな科学者には相手にされないのです。
日本の研究者本多明生氏、大原貴弘氏はあくびがうつる現象について「行動伝染の研究動向⋯あくびはなぜうつるのか」という論文を書いています( いわき明星大学人文学部研究紀要 (22) 2009.3. 106~117 ISSN 0915-485X)。この論文を書いた大原先生はあくび及びあくびがうつる現象を
- あくびをする意味は口を大きく開けることにある
- この行動により血流に変化が生じて脳を覚醒する
- あくびがうつる現象は「警戒心を共有する」との意味がある
と解釈しています。
前述の英語の論文を書いたProvine (プロバインかな?)教授もあくびは人間が進化してきた過程において重要な働きがあったと「Curious Behavior Yawning, Laughing, Hiccupping, and Beyond」(American Journal of Human Biology Volume 25, Issue 2, pages 232–233, March/April 2013)で述べています。
アクビがうつるのはカメレオン効果のためです
科学論文によれば、あくびがうつる現象は間違いなく有るのです。あくびをした時にたまたま他の人があくびをした現象が記憶に残った訳ではないのです(1:の回答をしたオッサンはブブーです)。あくびがうつる現象は人類の進化と深く関連しています。
それはカメレオン効果と言われるもので
相手に良い印象を持ってもらいたいために相手の行動をまねる
という、結構情けない人間の業による自然な行動なんです。このカメレオン効果によって人間社会は順調に進化してきたのです。
あくびは猿でもうつることが確認されています(「Chimpanzees Show a Developmental Increase in Susceptibility to Contagious Yawning: A Test of the Effect of Ontogeny and Emotional Closeness on Yawn Contagion」October 16, 2013DOI: 10.1371/journal.pone.0076266)。犬も飼い主のあくびにつられてあくびをしてしまうことは、以前お伝えしました。
人間関係において「共感する」ことは非常に重要なキーワードです。犬やチンパンジーなどの高い知能を持つとされている動物でさえ、一見無駄な行動である「あくび」をして「あくびがうつる」という現象によって、お互いに共感して種の保存を図ってきました(犬の場合は人間に媚びている、との意見も少々ありますけど)。共感を得ることは親密度とも深い関係があります。
偉い方は年末や年頭のありがたいお話の際に部下の誰かがあくびをしても「おお、俺に共感しているんだ」と考えてください。さらにあくびが他の部下にうつったとしても「おおっ、従業員一同が一つにまとまっているんだなあ」と解釈しましょう❗