私たちは、血液がサラサラしている=健康、というイメージが植え付けられてしまっています。
健康によいとされる食事でも、たびたび血液をサラサラにするという表現がでてきます。玉ねぎを切るときに目がしみる成分(硫化アレル)は、血液サラサラ成分として有名ですね。
そんな血液サラサラ成分としてポリフェノールよくあげられます。本当に血液をサラサラにするのか⋯今回はそんなお話です。
「血液サラサラ」は医学的な表現とは言い難い
高脂血症の治療に際して「これは血液をサラサラにする薬です」という表現を取っている医師が未だにいます。確かにドロドロした血液だと血管が詰まって心筋梗塞や脳梗塞を引き起こすイメージがあります。澱んだ川より綺麗な水がサラサラ流れる小川の方がはるかにイメージはいいですよね。
日本の循環器系の医療機関のトップクラスの国立循環器病研究センターも「血液をさらさらにする薬」を解説しています。血栓を防ぐ薬として「抗血小板薬」と「抗凝固薬」を取り上げています。簡単に説明すると
- 動脈で起こる血栓症の予防は抗血小板薬
- 血流のうっ滞や心房細動などの血流の乱れの予防は抗凝固薬
ということです。しかし、世間一般で言われている「血液サラサラ」って高脂血症のことではないでしょうか?活性酸素によって動脈硬化が起きます(と仮定されています、が正解)。そんな詰まり気味の血管を脂でギトギトの血液、つまり高脂血症の血液が流れると梗塞の危険が高まる。ドロドロ、ギトギトした血液を改善して、心筋梗塞・脳梗塞を未然に防ぎましょう、と一見それらしい理論がそれこそサラサラと現れてきます。
血管が硬くなることが心筋梗塞や脳梗塞の原因の一つであることは明らかです。高脂血症だと心筋梗塞や脳梗塞になりやすいことも明らかです。しかし、血液がサラサラであることと高脂血症を結びつけることは明らかなことではありません。また、ポリフェノールが血液をサラサラにする、との裏付けも確定的なことではありません。
そもそも活性酸素が人体に取って悪いのか、良いのかとの大前提自体を確実に裏付けるにはまだ研究段階なのです。
血液サラサラ、血液ドロドロを判別する医療機器の信頼度は不確定
NHKの「ためしてガッテン」が「血液サラサラ」という表現を取り入れたのが血液サラサラブームの端緒だと思われます(それ以前にもそのような表現を使っていたメディアがあったらゴメンなさい)。血液サラサラをビジュアル的に分かりやすく表す方法として、ある医療機械を見た方も多いのでは?こんな画像です。
http://www.mc-healthcare.com/より 狭い間隙を血液がサラサラ流れるか。血液がドロドロ流れるか?を判定する器械です。このサイトはこのように言っています。「このままでは動脈硬化が進みますよ」と言葉だけで保健指導をしても対象者に具体的に差し迫った問題として認識させるのは難しい。
言葉で動脈硬化の予防策を伝えるだけの技量が医師にはないことを助けてくれています、余計なお世話だけど。さらに
血液の流れを画像で具体的に見せることで、対象者に体内で起きている問題を強く意識づける
らしいです。なんだかインチキ代替医療やニセ医学の常套句のような表現で患者さんへの愛情が全く感じられないのは私だけでしょうか?
この機器は連鎖状配列赤血球(ルロー)をビジュアル化しているのですが
- 検体の量が多いと赤血球が重なってドロドロに見える
- 血液に対するプレパラートのはさみ方によってサラサラや詰まって見える
- 採血後一定時間経緯した血液では凝固作用によってドロドロに見える
などの問題点があります。
それらが理由かどうかは不明ですが、この検査は保険診療の適応にはなっていません。
活性酸素とポリフェノールの関係
活性酸素が悪者と仮定して話を進めます。フレンチパラドックスと呼ばれる有名な医学的な話があります。フランス人はスモーカーが多く、赤ワインをがぶ飲みして、動物性脂肪をたっぷり摂取しているのになぜか心疾患の死亡率が低い、なんで???という医学常識に反する矛盾がフレンチパラドックスです。
このパラドックスへの回答として、赤ワイン中の抗酸化物質であるポリフェノールが活性酸素を抑制する、との考え方それを支持する論文が多数発表されました(1990年代からが目立ちます)。何もポリフェノールは赤ワインだけに含まる成分ではないので、ココア・黒ごま・ニンジン・玉ねぎ・トマト・チョコレートなどなど多数がポリフェノールを含む食品として認知されるようになりました。
残念ながら基礎研究ではポリフェノールと活性酸素の関係の可能性を示唆した論文は多数ですが、人間に対する相互の作用は十分に証明されていません。また、長寿であるとか心疾患とポリフェノールを含む食べ物の関係はそれとなくありそうな論文も多数ありますが、いかんせん疫学データがほとんどですから因果関係とは言えません。
玉ねぎのポリフェノール、ケルセチンに対する考え方
以前ブログでこのようなものを書きました。
玉ねぎに含まれるポリフェノールであるケルセチンについて糖尿病にはある程度効果が期待できる、と記載しました。しかしこの実験ではケルセチン51ミリグラムを含むタマネギエキスを使用しています。一般的にポリフェノールは熱に弱い傾向がありますので、通常の調理で使用されるタマネギ本体が糖尿や動脈硬化を改善する働きを維持できているのかは、疑問点が残ります。
人間の老化や病気は活性酸素が原因 → 抗酸化物質が活性酸素を退治する → 抗酸化物質が老化や病気を防ぐ
このような捉え方が一般的です。しかし、人間の体ってあっちをいじればこっちが別の反応をして、それをセーブする機能がスイッチオンになり、過剰になれば負のフィードバックがかかり、などなどめちゃくちゃ複雑なネットワークを築きあげてきています。
単純明快なオンオフ、プラスマイナス、白黒の二元論では語ることは不可能です。例えば悪役の活性酸素が人体で産生されるにはそれなりの理由があります。体内に入った細菌を殺す食細胞(マクロファージや好中球など)が活躍するためには活性酸素は必須アイテムですから。
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