胃がんの検診あるいは健康診断で未だにバリウムを飲ませているところがあります。人間ドックでも若干バリウムによる胃のチェックを行っているところも見受けられますが、バリウム+レントゲン撮影でなにがわかるんでしょうか?
本記事の内容
胃の検査でなぜ未だにバリウムを飲むのか?という素朴な疑問
確かに医学部の実習でバリウムを飲んでX線を照射したレントゲン検査を行った記憶があります。検査後に下剤をもらってもバリウムによる便秘に苦しんだ同級生がいました。バリウムを飲んだ胃の検査の利点として考えられるのは、小腸を通過するバリウムを追っかけることによって稀な病変を発見できる可能性があることと全体像が把握しやすい点くらいかな。
健康診断や胃がん検診、人間ドックでは明らかに胃カメラ(胃内視鏡検査)の方が「見つける」という点ではアドバンテージが高い
このように考えて間違いありません。
医師のなかで胃の様子を検査するためにバリウムを飲んでいる人がいたら是非教えてください
私も数年前に初人間ドックを受けましてその様子をブログに書いたのですが、胃カメラ自体の苦しさはほとんど感じませんし、医療機関によっては麻酔に準ずる薬剤を使用して眠っている間に検査を終了させることも可能です(大腸の内視鏡は眠っていない方がいいという考え方もあります)。
じゃあ、なんで未だにバリウムによる胃の検査が行われているのか、私が知る範囲で説明をしていきます。
検査するのは医師である必要がなくコストが安いからバリウムを飲んで胃の検査をする
胃カメラは医師しか操作が許されない検査方法です。一方、バリウムによる胃の透視検査の場合、レントゲン技師さんが行うことが可能になっています。医師とレントゲン技師さんとの人件費は明らかに医師の方が高額になるので、検査機関のコスト面を考えると胃カメラよりバリウムを飲む胃の透視検査のほう安上がりになります。
胃カメラの場合正式には「胃・十二指腸ファイバースコピー」と保険診療では呼ばれていて点数は1140点(1点10円で計算します)、一方、バリウムによる胃の検査は透視診断料110点、造影剤使用写真診断72点、造影剤使用撮影144点の合計326点となっています(医療機関によってはオプションがつくかもしれませんが)。つまり、バリウムを飲んだ検査のほうが明らかに安く済むのです。
短時間で多くの検査をこなせる点がバリウム検査の特長です⋯医療サイドの利点かな?
安く済んで検査成績に大差がないのなら問題はありませんが⋯。
胃カメラなら確定診断ができるが、バリウム検査では不可能
胃カメラにしろバリウム検査にしろ目的は胃がんと胃潰瘍や胃炎といった胃の異常所見を見つけることです。胃カメラの場合は直接病変を確認できますし、怪しいところの組織の一部を取り出して顕微鏡で覗く病理検査もできます。しかし、バリウムを飲んだ胃の検査はあくまで「影」をみて胃の様子を探るものですから、確定診断は不可能です。
バリウム検査で異常が見つかったら、次は胃カメラという流れになりますので、費用の差はあっても確実な診断を希望するには胃カメラが遥かに優れている、と言い切れるのです。医師が胃の調子が悪い、といってバリウム飲んだぜ❗って話はとんと聞いたことがありません。
未だに胃がん検診でバリウム検査が行われている本当の理由
胸部レントゲン撮影の150-300倍の放射線を浴びる発がんリスクが高まるバリウム検査が保健所等の胃がん検診で未だに行われています。胃カメラが普及する以前なら理解できますが、なぜ行政系の機関でリスキーかつ確定診断ができないある意味無用の検査が行われているのでしょうか?その理由の一つとして公務員は解雇することができない❗ということもその大きな理由です。
どこの話とは口が裂けても言えませんが、昔、むかし、都内某所の保健所にベテランのレントゲン技師さんと若手のレントゲン技師さんがいました、とさ(昔話風に読んでください)。レントゲン検査機器も古くなったんで、ある人がベテランレントゲン技師さんに「機械も古くなったし、今は胃カメラの時代だから、バリウム検査はもうやめませんか?」と尋ねました。ベテランレントゲン技師さんは「私が退職したあと、バリウム検査をやめるとしても、そうなると若手技師の仕事がなくなっちゃうんじゃないの」。結局、その都内某所の保健所では若手レントゲン技師さんが退職するまで、バリウムによる胃の検査を継続することに決定しました、メデタシ、メデタシ。
今回のブログはあくまで胃腸の専門医ではない私の個人的な感想及び体験、見聞に基づいたものであり医療業界のコモンセンスとは限らない場合もあることをご承知ください⋯だから、もし医師でご自分でバリウム検査を受けている方がいらしたらこっそりと教えてくださいませ。理由も書き加えていただけたら幸いに存じます。