感染症対策の原則は、感染している人に接触しないことです。しかし、感染している人を全て隔離することは実際上は不可能であり、少なくとも日本では憲法に抵触する可能性があります。
感染した人は速やかに医療機関で適切な治療を受けることは当然ですが、誰が感染しているのかわからない疑心暗鬼の状態では、いかにして自分を感染から守るかが重要になってきます。そこでマスクを着用したり、手指衛生をしっかり行うことが推奨されることになるのです。
今回の新型コロナ感染症禍で「ソーシャルディスタンス(Social Distance)」という言葉が一般的になってきました。ソーシャルディスタンスの効果ってどのくらいなのか、面白い論文を見つけましたのでご紹介しますね。
マスクの効果は限定的、でもソーシャルディスタンスは実証済み
このソーシャルディスタンスは世界を恐怖のどん底に陥れつつ、日本では大流行とはならなかった2003年のSARS、そして2009年の新型インフルエンザ(H1N1) の時から世界中でその効果が検証されているのです。
一方でマスクの効果に関してはあくまで感染者が第三者にウイルスをうつさないことであり、マスクをしているからといって自分を感染から守らないことが医学的には常識とされています。
私はこのイラスト、70%の人が気になってしかたがありません。これって鼻だしマスクなのか、あごひげなのか(笑)。
ソーシャルディスタンスに関する研究として「Understanding the Impact of Face Mask Usage Through Epidemic Simulation of Large Social Networks」(PMC7120816)を見つけました。
これによれば、マスクさえしていれば手指消毒の効果とソーシャルディスタンスの効果はほぼ同等だとのことです。
手指消毒至上主義的に自分も常にしっかり手洗いをし、新型コロナ感染症禍においても患者さんへは「家に帰ったらしっかり手洗いしてね」と告げている私はどうすればいいのでしょうか?
ソーシャルディスタンスは手指消毒と同じくらい感染を防ぐ
手指消毒至上主義は私だけでは無かったようです。前掲の論文を書いた研究者でさえ
Although we expected that masks and hand sanitizers would have the largest return (given that we assume to be 50 % effective) , social distancing performed almost as well as the hand sanitizer (even though we assume it was only 30 % effective) .
「マスクと手指消毒が最大の効果だと予想したけど、ソーシャルディスタンスは手指消毒と同じくらい効果あったじゃん」です。
手指消毒とソーシャルディスタンスを比較した図です↓↓↓
この論文、ちょっと算数ができるレベルの医師(私のことね)では詳細な解読は無理です。途中でこんな計算式が出てきちゃうのですから。
新型コロナ感染症禍において、感染モデルとか感染者の予想とかに医師以外で物理学方面の方々(ヘンテコな人も混じり込んでいるけど)が口を出したくなるのも理解できます。
「マスク+手指消毒」は「マスク+ソーシャルディスタンス」と同等の効果があるのですね。
まあ、最強の対策は「マスク+手指消毒+ソーシャルディスタンス」ってことになるはずなのに、なぜかこの論文はそこまでは訴求していませんでした。
この論文はなぜマスクにこだわっているのかをちょっと解説
今回取り上げた論文は2013年に発表されたものです。世界的にはマスクを感染症予防として一般人が着用することが珍しかった時代のものである点に留意してください。
For example, people rarely wear face masks in public in the United States, compared with their use in Japan and China
と書かれていますものね。
マスクを着用していると不審な目で見られがちである、欧米でどのようにしたら感染リスクを抑えることができるかを模索したことによってソーシャルディスタンスが注目された可能性もあります
ソーシャルディスタンスって言葉、小池都知事が発すると何故かちょいとカチーンと来てしまう私ですが、これからは患者さんには「しっかりマスクをして、ソーシャルディスタンスを確保しつつ、手指消毒をしっかりね」と伝えるようにしますね。