近藤誠医師のがん放置療法をスルーすべき理由⋯100年以上前のデータの説明では意味がないからです

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近藤誠先生の「本物のがん、がんもどき」論争は病理学の専門家が判定すれば、即解決なんです⋯しかし、病理を専門とする医師はどの科の医師より尊敬される存在である一方で世俗と関わることを避ける傾向があります。研究室に篭って顕微鏡を覗くことに命をかけている人が多いために、ひょっとすると近藤先生の存在自体をご存じ無いかも。

近藤誠先生の「がん放置療法」の正しさはこのグラフで読み取れる?そんなワケないじゃん!

近藤先生が嫌う白い巨塔の権威ある教授クラスも明らかに間違っている理論に一々反論するとご自分の権威自体が安っぽくなるため放置している状況です。となると、私どものような町医者が近藤誠先生のトンデモ話を信じ込んだ患者さんにコンコンと間違いを指摘しなくてはなりません。

今までも多くのブログで近藤先生の間違いを指摘してきましたが、信者さんは増殖しています。誰が見ても一瞬「がん放置療法」を信じてしまうけど、思わず信じちゃいそうなインチキ的手法を説明する時に使用しているグラフの欠点というか、非合理的な点を発見しました。

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「がん治療で殺されない七つの秘訣」(文春新書 電子版より)
片方はがんを放置療法した場合、もう一方は積極的に手術をした場合。両者あんまり差はないし、手術をした方が直後に死亡している人が多いじゃん、と近藤誠先生が「がん放置療法」が優れた治療法である、と主張するネタです。

がん放置療法を優位にするために江戸時代の疫学データ持ち出しちゃマズイでしょうよ

この一見もっともらしいがん放置療法優位グラフですが、かなり怪しいテクニックが使用されています。
怪しい点
1:論文自体がかなり古い
2:対象人数が明記されていない
3:乳がんであってもステージがわからない
4:対象者のうち、年齢がわからない
5:がん放置療法をした人が手術以外の治療をした可能性が否定できない
など、ざっくり見ただけで疫学データを見慣れている人なら疑問が噴出します。

近藤先生が乳がんを放置した場合のグラフの元となった論文は多分「Natural History of Untreated Breast Cancer」と題された論文(Br Med J 1962;2:213)なのですが、この論文は1962年に発表されたものですし、

乳がんの放置療法のデータ自体1805年から1933年という江戸時代の疫学データじゃん❗

フェートン号が長崎に入港した年であり、シーボルトさえまだ日本に来ていなかった時代のデータを持ち出し、現代医学と比較するというありえない手法を使っています。BMJは権威のある信頼度の高い医学専門誌ですが、近藤先生のがん放置療法のすすめを信じちゃった人、この元ネタ確認していますか?

もう一方の手術をしたグループのグラフ、元ネタが判明しませんが著作の文章から読み取ると、1900年代のはじめのころ乳がんを大きく切除する手術を考案したハルステッドが臨床データとして書いた論文からの抜粋と思われます。

このハルステッド医師は米国近代医学の父(現代医学ではありません)と呼ばれ、乳がんの手術方法以外にも手術時に手袋をすることを推奨したことで有名です。ってことはその当時は手術時に手袋さえもしていなかったし、麻酔自体クロロホルムが使われていた時代です。もちろん今のように術後の感染もいまより多かったことが当然予想されます。

明治時代の乳がんの手術成績の悪さを強調しても意味がないです

江戸時代のがん放置療法と明治時代の乳がんの手術成績を比較する、こんなテクニックを使用する合理的な説明を近藤誠先生はできるのでしょうか?

90歳の乳がん患者さんと30歳の乳がん患者さんをゴッチャにしている可能性もある

がんは放置したほうがいい、という説明のためにこんな古い古文書的論文を持ち出している近藤誠先生です。

Natural_History_of_Untreated_Breast_Cancer__1805-1933____The_BMJ
前述BMJより。

例えば90歳で乳がんになった人は乳がん以外で死亡する可能性がかなり高いですから、手術をしないで保存的治療(放置療法あるいは対症療法)でいいでしょう。でも、近藤先生のグラフにこの90歳の人が混じり込んでいたら、手術によるリスクも当然高まりますし、乳がん以外で亡くなった可能性もあります。一方で30歳代の乳がん患者さんが混じっていたら、手術成績を上げる可能性もあるし、放置療法を選択しても90歳の人よりは長生きする可能性が高くなります。

同じ条件、同じ病態(ステージや持病)のデータを比較しないと全く意味がありません❗

近藤誠先生が著作でデータの出展をグラフに明記していないのは、紙面の制限とは思えませんのであえて一般の方にはわかりにくくしたテクニックを使用したと考えてしまいます。

なぜ私ごとき町医者が近藤誠先生を批判するのか?

医学界の権威のある方は当然、がん放置療法は放置しています。先日、ブログで近藤先生の信者って思ったより少なくて、当院では見かけない的発言をしたところ、終末期の医療に専念している医師から「とんでもない、私たちの現場は近藤先生の被害者が多数」とのお叱りを受けました。このブログ上でお詫びを申し上げます。

私の専門である泌尿器科領域の前立腺がんは年齢や悪性度から判断して、積極的な治療をしないPSA監視療法を選択します(がん放置療法とは呼びません)。一方で睾丸にできる「精巣がん」の場合は有無を言わさず手術で摘出します。泌尿器のがんは放射線もかなり効果があります、そういえば近藤先生の本で泌尿器系のがんに触れた文章、かなり少ないですね、専門が放射線科であり、泌尿器領域の放射線治療の効果をご存知なんであえて触れない、という高等テクニックを使用されているようです。

著者プロフィール

桑満おさむ(医師)


このブログ記事を書いた医師:桑満おさむ(Osamu Kuwamitsu, M.D.)

1986年横浜市立大学医学部卒業後、同大医学部病院泌尿器科勤務を経て、1997年に東京都目黒区に五本木クリニックを開院。

医学情報を、難解な医学論文をエビデンスとしつつも誰にでもわかるようにやさしく紹介していきます。

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