「いつでも、どこでも、何度でも」世田谷モデルは日本を救う⁉

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東京の世田谷区の保坂展人区長が新型コロナ対策として「世田谷モデル」をぶち上げました。

世田谷モデルの特徴は「いつでも、どこでも、何度でも」PCR検査を受けられる斬新なシステムです。PCR検査に関して、医師の間でも検査拡大派と検査慎重派にわかれ議論が行われています。

果たして世田谷モデルは感染拡大を抑制し、重症者を減らし、死亡者を減少させる効果が期待できるのか、わかりやすく検証してみます。

保坂展人区長の世田谷モデルは日本を救い、新型コロナ感染症禍を解決できるかも?

私が五本木クリニックを営んでいるのは目黒区です。世田谷区はおとなりなので、当院の患者さんの30%近くは世田谷区民なのです。

世田谷区長である保坂展人氏が先日、世田谷区民であれば「いつでも、どこでも、何度でも」PCR検査を受けられる仕組み、自称「世田谷モデル」構想をぶち上げました。

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https://twitter.com/hosakanobuto/status/1290607744060256261より

私はむやみにPCR検査を行うことに関しては、様々な理由から批判的でした。しかし、長引く新型コロナ感染症禍に於いては自分の考えに固執するあまり判断を誤る可能性があります。

ひょっとして、世田谷モデルは新型コロナ感染症対策のお手本となり、日本を救い最終的には世界中から「Sモデル」とか「Jモデル」と呼ばれるようになるかもしれません。その可能性を検討してみました。

注意

世田谷区では無症状の人で検査だけ受けたい人へのPCR検査は実施していません(執筆時現在)。今回の世田谷モデルは区長の発信・発言について取り上げています。

世田谷モデルによって確実に感染率は減少する❗

新型コロナ感染症がどのくらい市中に蔓延しているのか、非常に気になります。無症状感染者からもうつる可能性が否定できない、新型コロナ感染症の場合、とにかく感染者を捕捉するためには検査をする必要がある、と考えることは普通の思考回路です。

8月7日に新型コロナ感染症対策分科会が感染の指標として、6つの条件を設定しましたよね。感染状況を6つの指標によって4つのステージに分ける方法です。その指標の中に、PCR陽性率が入っていて、10%陽性以上もステージを左右する重要なファクターになっています。

世田谷モデルのように、「いつでも、どこでも、何度でも」検査を受けることが可能となれば、当然検査陽性率は低下します。

世田谷モデルは感染状況の指標である感染率を確実に押し下げる効果ある❗

と、言い切ることが出来ます。その理由を説明しますね。

医療崩壊寸前とされた2020年4月14日の東京都における新型コロナ感染症の検査陽性率は31.6%でした(この時は私のような一町医者であっても、ヤバいと実感しました)。東京都の検査陽性率が再び増加傾向ある2020年8月6日の検査陽性率は7.2%。

検査陽性率が31.6%の場合と7.2%の場合、どっちのほうがヤバい状況なのでしょうか?31.6%であった時は検査は絞りに絞った人を対象に行われ、7.2%の時は検査体制に余裕ができ、陽性率の減少はちょっと疑わしい人にまで検査対象を拡大したからである、と解釈することが常識です。

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4月14日、検査陽性者数は159人でした。

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8月6日、検査陽性者数は263人でした。

東京の4月の陽性率は東京都民の31.6%が感染していることを意味しませんし、当然8月の陽性率も7.2%が感染していることを意味しません。

検査は適切な対象者に行うべきであり、無闇矢鱈と検査を行うことは、悪手です。

今後世田谷モデルが日本中で採用されることのよって、日本全体の感染率は当然低下します。日本の感染率の低さに注目した世界各国から「SETAGAYA モデル」とか、「S 防疫モデル」とか呼ばれるようになって、最終的には「JAPAN MODEL 」とか「J 防疫モデル」と称賛される可能性は無いとは言えませんね。

検査するにあたって事前確率を考慮に入れることが必要です。じゃないと、こんなヘンテコな解釈をするメディアが出ていきちゃいますから。

AERAさま、いくらなんでも衝撃結果「陽性率4割」とは煽りすぎなのでは?

AERAさま、いくらなんでも衝撃結果「陽性率4割」とは煽りすぎなのでは?

事前に感染が拡がっているポイントを集中的に検査すれば、陽性率は上がります。逆に感染者が少ない集団を大量に検査すれば、当然陽性率は低下します。

2020年8月7日追記 沖縄県は8月当初の陽性率は7.2〜7.7%になり感染拡大の危惧して、飲食店従業員を中心に2064人に対してPCR検査が8月1,2日に行われました。その結果は86人が検査陽性で、陽性率は4.2%。陽性者86人は4割が無症状であり、現時点では重症者はいません。やはり検査対象者を広げれば、当然陽性率は低下します

世田谷モデル、無条件に検査をやりまくれば、おのずと感染率は低下するので、感染率の低さをアピールすることが可能になるでしょうけどね。

世田谷モデルはPCR検査を受けないと不安な人に「安心感」は与えるでしょう・・でもその後はどうするの?

多くの方が感染拡大に怯えている状況を打破するために、積極的に「いつでも、どこでも、何度でも」PCR検査を受けられることは、一見歓迎できる体制かもしれません。

しかし、そもそも

感染症対策の目的は、死亡者を抑える > 重症者を抑える > 感染者を抑える

が優先順位です。

感染者を抑えつつ、重症者をできる限り少なくし、最終的には死亡者を減少させることが可能な方法は感染予防であり、ワクチンの登場が待たれるところです。

実はPCR検査をむやみに行うことによって、新型コロナ感染症での死亡率が低下したという明確なエビデンスはいまのところはありません❗

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https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000617799.pdf

このように一気に感染者が出ないようにすることが肝要であり、感染者のピークをずらしながら時間稼ぎをして、治療方法の確立、予防方法の開発を待つ戦略が基本中の基本です。

世田谷モデルのように、東京都全体の現時点の検査能力の半数の毎日3000件程度のPCR検査を行ったとしたら、前掲の陽性率を当てはめてみた場合、毎日216人が陽性と判定されます。

仮に、世田谷モデルで陽性と判定された方が全員軽症あるいは無症状であったとしても、ホテル等の隔離施設に収容することは不可能です。

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世田谷区の宿泊施設はホテルと旅館を合わせても400室しかありませんので、たった2日で収容施設はパンクだよ❗

感染症指定医療機関のベッドに余裕があったら、軽症者も入院することが指定感染症対策の基本です。今後、重症化リスクの高い感染者が優先的に入院できない状況を招きかねません。

区民の感染症に対する不安を解消する施策として、「いつでも、どこでも、何度でも」検査可能な世田谷モデルは優れているとしても、検査後の体制をしっかり整備してから行うべきです。

安易な検査数増加は確実に医療崩壊を招きます。

「いつでも、どこでも、何度でも」は、すでに民間業者は開始しているよ

私はとにかく検査数を減らせ、と主張しているわけではありません。医師が診察して検査が必要と思われる人に対しては速やかにPCR等の検査が行われる体制を整備することは重要です。

なかには検査拡大阻止は人権問題になるから、と思い込んでいるヘンな人たちもいます。

【モーニングショー】検査拡大阻止の理由は、「人権問題になるから」は大間違い❗

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自分が感染しているか知りたい、旅行に行く前に感染しているか確認したい、なんとなーく不安だから感染の有無を知りたい、との心理状態に対して世田谷モデルは理想的とも考えられます。

実は世田谷区長がドヤ顔して世田谷モデルをメディアでご披露する以前に民間ではこのような動きがあります。

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https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000007.000055650.html

セルフPCRキットを民間の医療機関が開始しています。これこそ、究極の「いつでも、どこでも、何度でも」PCR検査体制なんじゃないでしょーか。この検査サービスはもちろん非難される点もあります。

本PCR検査は、調査研究を主目的としております。医療診断等の目的では使用できませんので、ご注意ください。ヘンテコな感染症新型コロナ感染症ウイルスの医療診断を目的とする場合は、医療機関または管轄の保健所にご相談いただき、指示・指導に従ってください。

おいおい、その後は医療機関や保健所に投げちゃうの???世田谷モデルも同様の無責任さを感じてしまうのは私だけなのでしょうか?

今回のブログではカジュアル検査体制の財源問題には敢えて触れませんでした。普通に算数ができれば、マズい施策であることは明確ですから。

2020年8月8日追記:世田谷区のサイトにこのような見解がでていました。

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https://www.city.setagaya.lg.jp/mokuji/fukushi/003/005/006/011/d00187142.html

区長(本部長)からの下命により、具体的な検討を進めているところです。この間、区長からは、検査手法をはじめ、体制、財政面の検討事項や課題に対して、多くのメディアで発信しています。その具体化にあたって、国や東京都の協力は欠かせないものであり、それを前提に財源、医療機関等の支援をいただくことが必要となります。

国や都にも事前に相談しないで、さらに財源も決まらず、医療機関への配慮もしないうちに、区長が先走ってメディアで公表していることに、困惑している区職員の困惑ぶりがうかがわれる文章です。

著者プロフィール

桑満おさむ(医師)


このブログ記事を書いた医師:桑満おさむ(Osamu Kuwamitsu, M.D.)

1986年横浜市立大学医学部卒業後、同大医学部病院泌尿器科勤務を経て、1997年に東京都目黒区に五本木クリニックを開院。

医学情報を、難解な医学論文をエビデンスとしつつも誰にでもわかるようにやさしく紹介していきます。

桑満おさむ医師のプロフィール詳細

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