溶連菌とかレンサ球菌というのは膀胱炎の原因菌でもあり、私も日常の診療でごくごく普通に付き合っているバイキンです。
人食いバクテリアと言われる理由
今世間の注目を集めている「劇症型溶血性連鎖球菌」は筋肉が壊死して、多臓器不全を起こすので人食いバクテリアなんて映画のタイトルのような名称で呼ばれてます。この「人食いバクテリア」の正式名称「劇症型溶血性レンサ球菌」に感染した人が、日本国内で今年過去最高となっています。どんな場合に感染するのか、あるいは「人食いバクテリア」と称されるバイキンに感染した場合、どのような治療が必要なのかを説明します。
人食いバクテリアの致死率30パーセント❗って本当なんだろうか?
「人食いバクテリア、今年の患者数279人、過去最多に」と言ったタイトルでネットやテレビで報道されています。報道では「国立感染症研究所によれば⋯」となっているんですが、この国立感染症研究所のサイトは数年前にURLが変更されたことにより、ユーザビリティが悪くなっている点を以前ブログで指摘しました。今回のような必要以上のパニック状態を引き起こしかねないことを防ぐ為にも感染症研究所のウェブ担当者に改善をお願いしたいです。さらに、国立感染症研究所のサイト内で「人食いバクテリア」と検索しても、詳細はヒットしませんので使用上の注意が必要です。
追記 あとで見たらこんなページがありました、ゴメンなさい、国立感染症研究所さま
「劇症型溶血性レンサ球菌感染症とは」この中に「人食いバクテリア」とマスコミはセンセーショナルな報道をする、といったことが記されていました。
劇症型溶血性連鎖球菌感染症全般に関する情報を知りたい方は、厚生労働省のサイトを御覧ください。
もともと連鎖球菌感染症自体は珍しいものでは無いのですが、A群β溶血性連鎖球菌が筋肉や血液内に入り込むと症状が重症化します。その中でショック症状を起こすものが「A群β溶血性連鎖球菌毒素性ショック症候群」と呼ばれ、「壊死性筋膜炎」を引き起こすものを「人食いバクテリア」と呼んでいるのです。人食いバクテリアの壊死性筋膜炎もさることながら
連鎖球菌毒素性ショック症候群も50パーセント近くの致死率❗
とされています。
壊死性筋膜炎は蜂窩織炎と似ている細菌感染症ですが、筋肉の奥深くまで細菌が忍び込む為に多くの皮膚及び筋肉が壊死してしまうために、「人食いバクテリア」と呼ばれるようになったんです。
人食いバクテリアの症状と治療法は?
感染経路として通常の皮膚から侵入する以外に、なぜか血液に直接侵入する場合もあり、海外ではHIVとの関連性も指摘されています。症状は痛みと腫れ、そして赤みです。これらの症状は蜂窩織炎や丹毒との区別がつきにくいので、正しい情報がないと医療関係者も「人食いバクテリアでは?」なんて言い出しかねないですね。
症状は急激に悪化する場合があり、最終的には敗血症や多臓器不全となって死に至る可能性のある病気ですので、多くの人が恐れるのもしかたがありません。治療としては大量の抗菌剤を投与するか、あるいはダメージを受けた部分を外科的に取り除く方法もあります。しかし、全身状態が悪いのに積極的に外科的治療をする勇気のある医師は少ない為、多くの場合「保存的治療」とされる「抗生物質の大量投与」がおこなわれます。
人食いバクテリアはこんな方は注意が必要です
ありふれた溶連菌でこのような状態になるのは、感染症に弱い、免疫力が弱い子供、持病として糖尿病がある人、アルコール依存の人、そしてHIV感染症にかかっている人と「Invasive Group A Streptococcal Disease: Risk Factors for Adults」(Emerg Infect Dis. 2003 Aug; 9 (8) : 970–977.)では指摘しています。
なぜ、今年になってこの人食いバクテリアに感染した人が最高を記録したのか、その理由は元となるデータが前述の国立感染症研究所のサイト内で見当たりません。情報不足が必要以上の不安を煽ってしまっている可能性もあります。
報道に注目をすることは必要です。しかし、エボラ出血熱や新型インフルエンザのようなパンデミック的なパニックが起きるような感染症とは考えにくいので、報道に踊らされないようにしましょう❗