鍼というと今は美容鍼が主流。ちなみに、美容ハリって発音することが多いようですが、正しくは「びようしん」だそうです。
鍼灸自体は多少なりとも美容に効果はあると思います。ですが美容鍼で小顔になれるといった宣伝が目に余ります。あまりにも多すぎます。一般人でも美容鍼を打てば顔が少し小さくなるとなんとなく思い込んでいる人の方が多いでしょう。これをお読みのあなたも「いつかやってみたい」って思ったことありませんか?
結論からいうと小顔にはなりません。なるワケがありません。
美容鍼業界が謳う小顔効果とその理論について、マジメに鍼灸に取り組んでいる方々の名誉のためにも医師として意見をいわせてください。
本記事の内容
美容鍼灸は「小顔効果」「美肌効果」「ダイエット効果」などがある⋯・とされていますが
伝統医学の中にもちろん科学的に効果が実証されているものもあります。現代医学の理論から支持される伝統医学もあります。日本人が伝統医学と考えるものとして、漢方・鍼灸・按摩が代表的なものに挙げられます。
急性期の痛みに対して鍼は確かに効果がありますし、特に麻酔科の医師の間で効果について医学的・科学的アプローチがなされています。
鍼治療の中で女性に人気の「美容鍼」という鍼灸治療の一分野があり、美容鍼は「小顔効果」「美肌効果」「ダイエット効果」などがあるとのことです。実際に施術する鍼灸院も玉石混淆であり、真面目に取り組んでいる鍼灸師さんの意見が目立たないで、派手に宣伝をしている美容鍼の自称カリスマが目立つことが気になっていました。
今回、美容鍼は本当に美肌効果があるのか?小顔効果があるならその理論はどのようになっているのか?などを検証してみます。
美容鍼によって血流が良くなり小顔・美肌効果がある?
美容鍼のサイトや折り込み広告で見かける表現として「ツボを刺激して血流が良くなり美肌効果が」というものを目にします。
これは鍼がツボと呼ばれる(実はツボ自体流派によって数が違いますし、場所も違っています)部位に鍼を刺すことによって、血行が良くなるのは、ある程度実証されていることです。ここまでの表現はいいでしょう、お疲れモードでげっそりした顔色が血流が良くなることによって改善して「美肌」になる、という表現は頭から否定はできません。
老廃物や余計な水を美容鍼で刺激して、小顔になる
という表現は医学的に理解不可能です。まず、「老廃物」って何ですか?代替医療が得意とする毒素のデトックスでしょうか?老廃物を体内で有効活用したあとの物質、あるいは代謝で産生された物質と解釈した場合、排泄する経路は
・尿・便・汗・呼気
上記以外は現在の医学では知られていません。
涙や涎も体外に排出していますが、潤滑液としての働きがメインですから、体外に不要となった物質を排出しているワケではないのです。
美容鍼で小顔になる、は単にムクミが取れているだけなんじゃないの?
うつ伏せに寝ると顔に妙なシワができてしまうことがありますよね。体内の水分がうつ伏せになった顔の前面に重力の働きで溜まってしまうため、顔がむくんだ状態になり、枕やシーツのシワがそのまま顔にプリントされちゃうために、できるのです。
寝ている姿勢によって、顔はむくみやすいですし、前日に塩分を取りすぎると体が水分を維持する方向に働きますので、これもムクミの原因になります(以前、フカヒレスープでお肌がプルプルになるのは、コラーゲンの効果ではなく、塩分を摂りすぎてむくんでいるだけ、とブログで書いて一気に女性ファンを失った私です。涙)。美容鍼で小顔になるためには
- 余分な脂肪が除去される
- 表情筋が引き上げられフェイスラインが整う
- 咬筋が緩み、いわゆる「エラが張った状態」が解消される
などの効果があって初めて「美容鍼で小顔に」と言えるのではないでしょうか?
1の美容鍼で脂肪が減少する、というのはどう考えても有りえないですよね。一部の美容鍼サイトでは、血行が良くなり新陳代謝が促進されて、脂肪などの老廃物(また出ましたね)が排出されやすくなるので、小顔になる、という説明されています。風が吹けば桶屋が儲かる的思考回路としては、この理論は成り立ちます。でも、ほとんどの美容鍼の紹介では「即効性」「その場で効果を実感」という表現が使用されています。美容鍼で小顔になるのは、脂肪がなくなる為という説明は怪しいものになります。
2の表情筋が引き上げられて小顔効果ですが、一見有り得ないようで、これは顔の筋肉である表情筋の複雑さを考えに入れると有り得ないワケではありません。前頭部を丹念にマッサージすると引きつっていた前頭筋が緩み、引っ張り合っていた眼輪筋・上眼瞼挙筋・皺眉筋のバランスが崩れ(通常、これらの筋肉はお互いに引っ張り合っている)、重く垂れ下がった瞼が一時的に上がって見えます。
3のエラが張った状態を解消して、小顔に見せる効果、鍼には強張った筋肉を緩める効果があるので、有り得ないことではないです。しかし、美容鍼が咬筋を緩めたとしても、持続時間は長くて数時間しかありません。
以上から、美容鍼による小顔効果は全くないわけではないけど、持続時間に問題あり、という結論になります。
一時的でも小顔効果あれば、それでいいという意見もわかります。でも、せめて1週間、できれば1ヶ月は持続してほしいと思いませんか?
当院のような美容クリニックではVOVリフトという持続性がある治療方法を取り入れているのです。あるいは輪郭注射という方法も鍼とは全く関係ない治療法を小顔を実現するために行っています。
美容鍼は鍼灸師さんの世界でも論議があるようで⋯
美容外科の世界では経験の浅い医師による健康被害が時々新聞ネタになります。十分なトレーニングを受けていて、知識が豊富な医師ならまず有りえないような失敗を若手医師がやってしまいます。ベテラン医師が付き添っている、あるいは勤務していればリカバリーが可能な場合も多いのですが、そのようなシステムになっていない医療機関も目立ちます。
同じようなことが鍼灸師の世界でも起こっているようで
ほんの4年ほどには、美容鍼灸を実践している専門家(鍼灸師)は、日本にはほんのひと握りしか存在していませんでした。例えば、Google や Yahoo ! のようなインンターネットの検索エンジンで「美容鍼灸」をキーワードとして検索をかけると、現在では無数のサイトがヒットするようになりました。しかし、4年前には10件もヒットしないというのが実状でした
美容鍼灸にまつわる「嘘」と「罪」
美容鍼灸最前線‐北川毅のブログの記事「美容鍼灸にまつわる「嘘」と「罪」」からの引用です。
例えば、現在、美容鍼灸を行っている専門家の中には、他の専門家に対して「指導」を行うに値するほどの十分な経験を積んだ人物は、おおよそ存在しないというのが真実です。
美容鍼灸にまつわる「嘘」と「罪」
ところが、このような実状に反して、昨今では、「美容鍼灸」という専門分野以前に、鍼灸師としての経験が圧倒的に不足している駆け出し鍼灸師までもが、美容鍼灸に関するセミナーを開講するようになってきました
この鍼灸師さんがおっしゃるのも当然です。ある宣伝くさい美容鍼のサイトではこのような表現がありました。
「鍼灸治療による美容効果が世界保健機構 (WHO) でも認められており」
この表現はwikiにも「美容鍼」の項目に記載されています。しかし、リンクされているのWHOサイトは「This page cannot be found」となってしまいます。WHOが
「General Guidelines for Methodologies on Research and Evaluation of Traditional Medicine」(PDFでめちゃくちゃ重いですからご注意ください)などで伝統医学を検証の対象にしてはいますが、「美容鍼について効果がある」と判断した声明は私が探した限りでは見つかりませんでした。
どなたかWHOが美容鍼について効果がある、と認めた声明を見つけたら是非ご一報ください。ほんの少しですが謝礼を考えていますのでよろしくお願いいたします。
追記 さらにもっとひどい「小顔矯正」の方法がありました⋯「骨気??マッサージで小顔を実現、効果があるワケ無い❗」をご覧くださいませ。
◎こんな治療の方が効果あるんだけどなあ⋯。コスパもいいのに⋯・。