新型コロナ感染症禍において、検査拡大派と抑制派の議論があります。テレビ朝日「羽鳥慎一モーニングショー」は検査をとにかく数多く行うべきであるとする検査拡大派の急先鋒です。
感度・特異度が問題となる検査を抑制しているのは、偽陽性者を隔離することが、人権問題となり裁判になることを恐れている厚生労働省の医系技官と感染症の専門家で構成されるコミュニティーの陰謀である、とモーニングショーは考えています。
むやみに検査を行うことに、まっとうな医師が批判的なのは、そのような危惧では無いことをできるだけ、どなたでも分かるようにお伝えします。
本記事の内容
モーニングショー、検査をなぜ乱発しないかの理由が陰謀論と人権侵害で説明するとは⋯。
2020年7月23日のモーニングショーに出演した玉川徹氏、小林慶一郎氏、岡田晴恵氏の考えが、どれだけ論理的では無いかを説明していきます。今回でモーニングショー批判は、ひとまず終わりにしたいと思います。私は感染症の専門家ではありません。数々の基本的な知識不足と理解不足によって世間を撹乱するモーニングショーの非論理的かつ間違った主張には、一町医者として黙っていられませんでした。
特に新型コロナの検査に対する思い込みは医療行政不信を招いています。検査をむやみに行う必要が無いことは、繰り返しブログ記事にしてきました。私の検査推進派に対する批判内容は感染症を専門でなくとも、用語の定義と割合の計算さえできれば、理解できるはずです。
そう言えば、俎上に載せた現代ビジネスの記事は小林慶一郎氏にインタビューしたNHKのプロデューサーが書いたものです。
モーニングショーのレギュラーコメンテーターの玉川徹氏と新型コロナ感染症対策分科会メンバーの小林慶一郎氏は検査拡大を阻止している原因として、感染症対策のコミュニティーによる影響が大きいからであるとまるで陰謀論のように語っています。
小林氏の主張は、医系技官と保健所と感染症研究所などの感染症専門家で構成される感染症のコミュニティーが検査を多数行うと偽陽性者が一定の割合ででてしまう。陽性者には隔離処置を取らなければならない。隔離処置によって「人権侵害をやった」と非難されることを忌避するために、感染症対策コミュニティーはPCRの検査数を抑制しているとの要旨です。
玉川氏および小林氏が医学を専門としないために、新型コロナ対策に口を挟むべきではない、なんて考えは一切ありません。国難でもある新型コロナ感染症禍に関しては医学の専門家だけでは対応できるはずもなく、経済の専門家の意見やメディアによる報道は重要だと考えています。
しかし、国家ぐるみの陰謀的な話は、一般人には検証は不可能な議論に持ち込まれる恐れがあります。そのため、私は今後はモーニングショーは地震兵器やロスチャイルドやフリーメイソンやイルミナティによる陰謀論を主張の背景としたものと同列だと判断するからです。
玉川氏、小林氏、そして岡田氏の考えが非論理的であり、モーニングショーは一定の方向性をもった、結論ありきの正しい医療情報を伝える番組ではないことを検証してみます。
感度・特異度が問題となる検査の問題点をそもそも理解していないモーニングショーの面々
検査につきものの偽陽性・偽陰性問題をどうやら彼ら彼女らは理解していないようです。私はハンセン病に対する国の施策は言語道断であると考えています。悲劇をもたらし現時点でもハンセン病の患者さんや家族を苦しめていることは間違いありません。
検査抑制論主義者は検査乱発することで、一定数の出てしまう偽陽性者を隔離することを恐れている、その理由は人権問題として将来批判され、ハンセン病のように裁判で負けることを恐れている故に検査件数を抑えている、とモーニングショーの面々は考えています。
岡田晴恵氏に至っては、偽陽性を出さないためには検査を2回行えば良いと、全く理解不能の発言さえありました。
まあ、後になって実は偽陽性だったら訴えられたら敗訴必定なんて話も番組中でありました。⋯偽陽性だったことをどうやって後日証明するのか?誰も番組中ではツッコまなかった時点で彼ら・彼女らの検査に対する理解度のなさが露見するのですけど。
じゃあ、偽陰性問題はどうなるのでしょうか?偽陰性は本当は感染しているのに、感染していないと判定されることです。以下、足し算と掛け算ができればわかりますのでお付き合いください。
東京都民10000人を感度70%、特異度99%の検査を行ったとします。実際に感染している人は1%と仮定します。
本当に感染している人は100人。感染していない人は9900人になりますよね。感度70%、特異度99%の条件で計算すると次の表のような結果になります。
モーニングショーで問題視されている偽陽性者は99人出てしまいます。実際の特異度はもっと高いので、偽陽性と判定されるをかなり少なくすることが可能であっても、ゼロにすることは不可能です。
一方で、実際には感染しているのに感染していないと判定される偽陰性者は30人でてしまいます。この検査の性質として感度をこれ以上高くすることは、現時点では不可能です。その理由を詳細に説明すると複雑になりますので端折ります。簡単に言えば、感度を高くすれば特異度が下がってしまうからです。
実際は感染しているのに検査で陰性判定された人(偽陰性)は間違いなく、自分は感染していないと確信をもって陰性判定後に行動するはずです。しかしそれは、当然、感染拡大を助長します。
モーニングショーの以前からの医療行政批判の主旨は症状のない人も濃厚接触者でもない人も検査対象にするべきである、だったのではないですか?
逆に偽陰性を減らすために、検査を繰り返しても、偽陽性者がゼロになることはありません。モーニングショーが差別につながる、人権問題になると問題視している偽陽性者は必ず出てきます。
岡田晴恵氏は感染症の疫学の専門家でありワクチンを研究してきたものであるとご自分で述べていますが、紙と鉛筆と電卓で簡単にできる計算をしたことがあるのでしょうか?事前確率1%の感染症を10000人に感度70%の検査を2回繰り返しても、偽陰性は9人出ます。
感度と特異度はトレードオフの関係なるとの検査の基本中の基本をモーニングショーの出演者たちはご存じないようです。
繰り返し検査を行うことの危なっかしい点の詳細はこのブログ記事をお読みいだだければ、理解できると思います。
お時間のある方はどーぞ。
臨床の場を経験していない玉川、小林、岡田の諸氏はもっと勉強してから意見を述べてもらいたい
繰り返しになります。玉川氏、小林氏、岡田氏が医師ではないからヘンテコなことを言っているとは考えていません。
この方々が俎上に載せる話題に関して、基礎的な知識を全く理解していないからヘンテコな意見を述べていると思います。確率論や統計学を学んでいなくても、偽陽性・偽陰性の定義さえ知っていれば紙と鉛筆と電卓を用意すれば、検査をいつでも、どこでも、誰にでも的に行うことが危険であるかは理解できるはずです。
今までまっとうな医師は問診や他の所見から強く疑われる患者さんに対してのみ保健所やPCRセンターに検査依頼をしてきました。ここ数ヶ月は医師が必要と判断した場合、多少の日数が掛かったとしても検査は受けられます。
医師はPCR検査だけで新型コロナを診断しているわけではありません。CTを組み合わせたり、感染が疑われる患者さんに対しては抗原検査も最近ですが併用することが厚生労働省によって認められました。
日本感染症学会の考え方は次のようになっています。
新型コロナ感染が疑われる患者さんに対して、
- 抗原検査をする。抗原検査はある程度の抗原が無いと陽性とはならない性質がある。
- 抗原検査で陽性なら感染していると診断する。検査結果は30分程度ででるために、PCR検査より判定する時間の短縮化が可能となる。
- 抗原検査で陰性なら、微量の新型コロナを検出できるPCR検査をおこなう。
- 抗原検査陰性であっても、PCR検査陽性ならば感染していると判断。抗原検査・PCR検査共に陰性であるなら感染していないと診断する。
このようなフローチャートさえできており、無駄な検査を省き、早く診断結果を出すための方法が提案されています。実際の臨床の場面を経験していなくても、これらの情報はだれでもどなたでも簡単にアクセスできます。
爆弾発言、PCR検査を受けることは国民の義務である??
医療の現場で新型コロナと対峙している医師の努力を知りもしないで、
モーニングショーのPCR検査を受けることは国民の義務である❗
との、ヘンテコな考えはどっから湧き出てくるか不思議です。
国や医師は偽陽性判定を恐れてPCRを抑制するべきではなく、国民にPCRを行うことは義務である、と考えたもらい陽性判定されたたら素直に隔離に応じるべきだ、と小林慶一郎氏は述べています。
国や厚生労働省や医師会はPCRは必要に応じて行うべきだと考える理由は、主にPCRを誰にでも気軽に多数おこなうことは無症状感染者(無症状検査陽性者の可能性もある)が医療機関のキャパを超えてしまい医療崩壊が起こる可能性が大だからです。
治療が必要とされている人には適切な医療を提供するために、PCRを抑制していることは、現時点では少なくとも私が開業している地域ではありません。なぜなら7月の4連休でさえ、開業医の紹介があればPCRは病診連携先である病院の多くは当日に受けられます
モーニングショー、PCR真理教と呼ばれる状態のなんらかの陰謀にまきこまれているんじゃないでしょうか?
そもそも、このようなレベルの人々の主張に反論しても、
暖簾に腕押しですから。