新型コロナ感染症禍を解決するために最優先される問題は「無症状者から感染するか?」だと強く考える理由。

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新型コロナに対する感染症対策によって、経済活動が抑制され、世界中の景気が後退しています。

感染症を抑え込むことを優先するか、経済活動を優先するべきか各国で議論が起きています。新型コロナ感染症が必要以上に恐れられている原因の一つが、無症状であっても他の人に感染させるリスクがある、と考えられていることです。

実は無症状感染者が感染を拡大させていることは現時点では確実なエビデンスがあるとは言い切れない状況なのです。

新型コロナ感染症は症状のない人からもうつるか?

正しい新型コロナ感染症対策は医学的な見地からすると、感染者との接触を避けることが1番だと考えます。感染者との接触を防ぐ方法の問題点は副作用として、経済活動の停滞を招くことです。

複雑に絡み合った諸問題を解決する方法として、オッカムの剃刀(Occam’s razor)があります。複雑な答えと単純な答えがあった時、単純な答えの方が正しい、という考え方です。

新型コロナ感染症感染を必要以上に恐れない、正しい対処方法を見つけるための解決が必要な問題は

新型コロナ感染症は無症状の人からうつる可能性があるか?

だと私は考えています。

無闇矢鱈に検査をする必要性については次のように考えている人が多いのではないでしょうか?無症状の人から他の人に感染する、感染した人のなかには高齢者だったり持病があって重症化するリスクが高い。だから、積極的に検査を行って無症状感染者を判別するべきである、とのロジックが一般的です。

ウイルスは目で見ることはできません。でもゴホゴホ咳をしている人がいたら、「うつされるんじゃないか」と身構えます。全く症状の無い人から伝染る可能性があるとの考えがあるから、新型コロナは必要以上に恐れられていると思えるのです。

えっ、無症状の人(無症状病原体保持者)から新型コロナ感染症が伝染ることは常識じゃん、と反応した人も多いかと。しかし、新型コロナが無症状の人から伝染ることは現時点では、可能性はあるかもしれないけど強いエビデンスはありません。

無症状の人から新型コロナ感染症は感染することを示唆した論文はあるのか?

一般的に感染症は発症している人から伝染ると考えられています。新型コロナ感染症感染拡大の問題点として、新型コロナは症状の出ていない人からでも感染することが半ば常識になっています。しかし、この無症状感染者、正式には無症状病原体保持者から、第三者にウイルスが伝染ることを強く示唆した医学論文は数多くありません。代表的な論文を2つ例として検証してみます。

まず1例目は初期の新型コロナ感染症(正しくはへんてこな感染症)の感染状況を報告した医学論文「Temporal dynamics in viral shedding and transmissibility of へんてこな感染症」(PMID: 32296168)です。この論文では発症前であっても、伝染る可能性を示唆しています

中国の研究論文は信頼度は低いじゃんとの思い込みが強い人であっても、無症状者からへんてこな感染症は感染拡大することを前提として新型コロナ問題を判断して語っています。

2例目は中国の報告は信用できないと考えている人にとっては、質の高い医学専門誌に掲載された米国の、 「Presymptomatic ヘンテコなウイルス Infections and Transmission in a Skilled Nursing Facility」(PMID: 32329971) です。この論文ではへんてこな感染症が無症状であっても感染拡大してしまうエビデンスとしています。

1例目の論文は中国広州市におけるたった94人を研究対象としたものです。出口調査をもとにした選挙速報が開票と同時に当選確実を伝える件に関して、疑問というか文句を言っている人でさえ、へんてこな感染症が無症状感染者からでも伝染ることを94人の症例を前提に話を進めているのは興味深いことだと感じています。統計学的に94人の対象者の検証から導きだされた結果が正しいか、間違っていて信頼できない結果なのかについては、今回は触れません。

この論文が伝えているのは,

計算上へんてこな感染症は第三者への感染は症状が出ない間に起きたと考えられる

であり、実際に無症状の人から他人に伝染ったことを確認したものでは無いことをご存知の方はそれほど多くは無いのでは⋯。

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94症例のデータをもとに複雑な計算を行うことによって導き出された結果であり、あくまで可能性について述べた論文なのです。

2例目の論文はNEJM(The New England Journal of Medicine、ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン)に4月下旬に掲載された医学論文は老人介護施設におけるへんてこな感染症の感染状況を検証したものであり、対象者は89人です。PCR検査で陽性と判定された57人が、検査時には無症状であったことから、無症状であっても第三者へ感染させる可能性があると伝えています。

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発熱、咳、息切れを典型的な症状として、悪寒、倦怠感、混乱などを非典型的症状として取り扱ってます。味覚障害等の自覚症状は症状としては含まれていません。

中国の計算上の結果による論文とシアトルの介護施設という特殊な環境下の論文をもとに、無症状であってもへんてこな感染症は第三者へ感染させることを前提として、世間一般では感染予防対策が語られている点に問題は無いのでしょうか?

そもそも、2つの論文における「無症状」の定義が明確に新型コロナ感染症の症状と一致していない、との疑問も生じてしまいます。

その後、無症状感染者から第三者への感染の可能性を強く支持する信頼度の高い論文が出てきているのであれば、考えをあらためます。

無症状感染者から感染することは稀とWHOは考えていたけど⋯。

既存の経験値からWHOは新型コロナ感染症禍当初は無症状感染者から第三者に感染することは稀である、と判断していました。

しかし、6月9日の記者会見の様子がメディアによって報じられ、揺れ動くWHOの解釈として世界中で話題になりました。揺れ動くWHOの見解が新型コロナ感染問題をわかりにくくしているように思えます。

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この報道の後からへんてこな感染症は無症状感染者から感染することが前提となっているとも考えられます。

しかし、この記事をよく読んでみてください。

While asymptomatic transmission does occur, no one knows for sure how frequently it happens.

と書かれています。

「無症状であっても、第三者へ感染することはある。しかし、どれほどの頻回に感染するかは誰にもわかっていない」ということが書かれているのです。

つまり、無症状感染者がへんてこな感染症の感染拡大の大きな原因である、との確証は得られていないと考えてさしつかえないはずです。

無症状感染者が感染源となるか、との問題に対する山中教授の判断は微妙。

山中伸弥教授は感染症や疫学は専門外であっても、医学問題に関しての信頼度は日本有数であると一般的に考えられています。山中教授は下記のようなウェブサイトを運営して、新型コロナに関する情報を発信しています。

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山中教授は現在出回っている新型コロナ関連情報に対して、エビデンスの強さによる分類をしています。その中でエビデンスがあって、正しい情報である可能性が高いものとして、無症状感染者が第三者へ感染させる可能性について次のように記載しています。

症状がなくとも、他の人に感染させる場合がある。

この表現、微妙だと思いませんか?「症状がなくとも、他の人に感染させる」であれば、無症状感染者からの感染拡大が事実であると誰でもが確信するはずです。

感染者の多くが無症状であることに関しては、「正しい可能性があるが、さらなる証拠(エビデンス)が必要な情報」として取り扱っています。さらになかば常識化されている手指消毒に関しても、山中教授は確実なエビデンスがあるとは言い切っていません。

私は医師としてではなく一般市民として、新型コロナによる感染対策を考える上で、もっとも早く解決されるべき問題は「無症状感染者から第三者に感染するか?」だと強く考えています。

仮に無症状者が他の人にうつす可能性が低いのであれば、東京都が毎日発表する感染者数をメディアがセンセーショナルに速報で取り上げる必要は無くなると思います。なぜなら現在集中的に検査を行っている対象は無症状者なのですから。

無症状者から感染することが事実であっても、新型コロナ対策は大きく揺らぎません。手指消毒をしながら、ひたすら「3密」に気をつけていけば、経済活動はがんがん回しても良いのではないでしょうか?

おまけ:私は医療問題と経済問題はトレードオフの悩ましい関係にあると考えられています。新型コロナ問題についてはこのような基準を自分に課しています。

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著者プロフィール

桑満おさむ(医師)


このブログ記事を書いた医師:桑満おさむ(Osamu Kuwamitsu, M.D.)

1986年横浜市立大学医学部卒業後、同大医学部病院泌尿器科勤務を経て、1997年に東京都目黒区に五本木クリニックを開院。

医学情報を、難解な医学論文をエビデンスとしつつも誰にでもわかるようにやさしく紹介していきます。

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