コレステロールは、おそらく誰もが悪いイメージを持っているはずです。
アメリカの政府諮問機関がコレステロールの過剰摂取は問題ないと発表したというニュースがありました。この情報はタイトルだけでは一般の方に正確に伝わらないと思います。
健康診断で何かと注意を受けている方、コレステロールを気にされている方は、コレステロールに関する正しい知識を身につけましょう。
本記事の内容
コレステロール「過剰摂取心配ない」と米国で発表❗
米国の政府諮問機関が食品中のコレステロールに対して「過剰摂取を心配することないよ❗」と発表したことが、報道されています。この話が正しく一般の方に伝わらないと、さらなる医療不信を引き起こすことは間違いないでしょう。高脂血症、あるいは高コレステロール症と診断されて、コレステロールを下げる薬を飲んでいる人が誤解して「コレステロールは気にしないでいいってアメリカが発表したんだよね」と薬を飲むことを中止する可能性があります。でも、ここで注意をしなければいけないのは食品に含まれるコレステロールは過剰摂取しても心配ないということを言っているわけで血液中の高コレステロール状態を放置しても大丈夫だよという意味ではないので注意が必要です。
もともとコレステロールって体内で3分の2は作られていて、食べ物から摂取されて体内に入るこむとされる量はのはたった3分の1なんです。食品からのコレステロールの過剰摂取はあまり問題ではないことは、今になって威張るわけではありませんが、医学的な常識と認識していました。日常の診察で私から「卵とか肉はコレステロールが多いから、なるべく少なくしましょうね」と言われた人はいないはずです。
私は高コレステロール血症ですけど、ベーコン・バター・マヨネーズが大好きですし、野菜が大嫌いなために肉食中心の生活をコレステロールの薬(私が一番避けたい病気の一つである、食道がんのリスクを下げる効果もあります)を服用しながら快適に過ごしております。栄養バランスを考えて脂質・糖質・タンパク質の食事における推奨摂取量というか、目安があることは知っていましたが、恥ずかしながら食べ物のコレステロールの目標というか、推奨摂取量までお役所が決めていたことはあまり意識していませんでした。
コレステロール摂取を心配する必要は無い、という見解の詳細
日本のメディアでは本年2月23日頃からこの件が報道されています。CNNは先週の金曜日くらいから「コレステロールの摂取はあんまり気にしないでいいよ」という話を取り上げています。
cnn.comより
米国では5年ごとに保健福祉省と農務省が食生活の指針「Dietary Guidelines for Americans」というものを発表しています。新聞やネットの報道では原文が表記されていませんし、公表されている文書はお役所特有の膨大な量なので、全てに目を通して「コレステロールの摂取量についての詳細」と見つけることは難易度が高いと思われます。余計なお世話かもしれませんけど、元の記述をご紹介します。
Cholesterol. Previously, the Dietary Guidelines for Americans recommended that cholesterol intake be limited to no more than 300 mg/day. The 2015 DGAC will not bring forward this recommendation because available evidence shows no appreciable relationship between consumption of dietary cholesterol and serum cholesterol, consistent with the conclusions of the AHA/ACC report.2 35 Cholesterol is not a nutrient of concern for overconsumption.
The Office of Disease Prevention and Health Promotion
これは「コレステロールは。以前は、アメリカ人のための食生活指針は、コレステロール摂取量は超えない300 mg /日に制限されることをお勧めします。入手可能な証拠は、AHA / ACCの報告書の結論と一致して、食事性コレステロールの摂取と血清コレステロールの間にはかなりの関係を示していないため、2015 DGACはこの勧告をもたらすことはありません。コレステロールは過剰消費の懸念の栄養素ではありません。」(変な日本語なのはGoogleさまの翻訳のためです)ということを言っています。つまり
以前は食事によるコレステロールの摂取量は1日300ミリグラムでしたけど、血液中のコレステロールとは関連ありませんでした
ということであり、血中コレステロールが高くても健康上に問題はありませんよ、とは一言も書いて無いことに注意が必要です。
誰がコレステロールを摂りすぎると、高コレステロール症になる、って言い出したんだ??
あれほどメタボ、メタボと騒ぎ、コレステロールが高いことは心血管系のリスクを高めると公言してきた日本の厚生労働省ですが、米国と同様にコレステロールの1日あたりの摂取量を明記していたんですね、今回初めて知りました。2010年の「日本人の食事摂取基準 脂質 (https://www.mhlw.go.jp/shingi/2009/05/dl/s0529-4g.pdf) 」では、
コレステロールを多く摂取した場合、虚血性心疾患やがん罹患の増加が危惧される。このため、ハワイ在住の日系中年男性の結果30)から、30 歳以上において、747 mg/日(丸め処理を行って 750 mg/日)を男性の目標量(上限)とした。女性(妊婦、授乳婦を含む)についてはエネルギー摂取量の違いを考慮して 600 mg/日とした。
日本人の食事摂取基準 脂質 (2010)
となっていましたが(なぜか米国より目標値が甘い設定です)、2015年の「日本人の食事摂取基準」 (https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10901000-Kenkoukyoku-Soumuka/0000042631.pdf) では米国の情報を先取りしたのか
コレステロール摂取量が直接血中総コレステロール値に反映されるわけではない
日本人の食事摂取基準2015
となっています。厚労省の役人をかばうわけではないのですけど、もともと厚生労働省の2010年の報告書内でも実は食事に含まれるコレステロールと血中コレステロールの関連性はよくわかっていないし、日本人を対象にした研究はほとんどないことが記されています(前述2010年の報告より)。
万が一のことを考えて、コレステロールの摂取量を決めておこう、裏付けには乏しいけどね、という態度が見え見えです。となると、じゃあ、誰が「コレステロールを下げるために、卵や動物性の脂肪を控えよう」って積極的に言い出したのか、今懸命に捜査中です。
食事のコレステロールは気にしなくてもいいけど、卵10個は食べすぎじゃないの??
食べ物に含まれるコレステロールと血中コレステロールの関連性が薄いことは、医学的にはなかば常識でもあったのです。例えば、昔のことで忘れちゃった医師もいるかもしれませんが、細胞膜やステロイドホルモンの原料となるコレステロールが体内で生合成されることは、ストライヤーにも、ハーパーにも(医学生用の生化学の教科書はこの二つがスタンダード)にしっかり書いてあります。
健康本というか啓蒙本の中には板東英二のために書かれたかと思ってしまう「卵は毎日10個食べてもいいスーパーフーズ」 (血液栄養診断士という聞きなれない資格を持った佐藤知春著「男は食事で出世させなさい」より引用)なんて極端なものまでありますので、医師たるもの専門誌ばかりではなく、ニュース、新聞はもちろんのこと、擬似医学本や一般健康雑誌にも目を通しておくことをお勧めします。
明日、あるいは来週の外来日に間違いなく「先生、コレステロールって気にしないでいい、って国が発表したんだよね」と半可通のオッサンが来院しますから。