食中毒といえば、梅雨から夏にかけて食品中の増殖した細菌類が原因と一般的には考えられます。
では、銅による食中毒、銅食中毒はあまり聞き慣れない病気なのではないでしょうか?
銅を使用したヤカンや水筒、あるいは調理道具に酸性の飲み物や食べ物を入れておくことによって、銅食中毒が発生します。
熱中症や脱水の予防として水分摂取は重要であり、水よりは電解質等を含むスポーツ飲料を好む人も多いかと思われます。スポーツ飲料を大人数で飲む、あるいは持ち歩く時は容器に注意する必要がありまそうです。
本記事の内容
夏は食中毒の季節、だとしても耳慣れない「銅食中毒」
梅雨から夏にかけては食中毒が発生しやすい期間であることは日本の常識。実際に食中毒の報告が梅雨から夏の間が他の時期と比較して多いかという問題については以前ブログ記事にしました。
食中毒は通常は細菌類で汚染された食材を食することによって引き起こされる感染症の一つと考えられています。ところが金属である銅が原因となった食中毒にも注意が必要です。
銅は細菌類を除菌する働きがあり、本年2020年、世界中を大混乱に陥れた新型感染症にも効果があると喧伝されていました(ウイルスに対する不活化効果に関しては疑問点が残ります)。
予想外の水害に襲われて避難所生活を余儀なくされている方もいらっしゃる2020年の7月。水害に伴い食中毒等の感染症発生も危惧されます。さらに高温多湿の日本の夏は、メディアがしきりに「脱水注意、熱中症注意」と水分摂取を呼びかけています。
水分摂取に伴い、食中毒発生の危険が銅食中毒では起こりうるのです。
脱水予防のスポーツ飲料で銅食中毒の危険性があります。
銅が人体に及ぼす悪影響として、とっさに頭に浮かぶのが、「足尾銅山鉱毒事件」です。私は足尾銅山の事件は銅を精錬する時の排水によって河川や周囲の木々に影響を及ぼす自然破壊問題だと、渡良瀬川から足尾銅山跡地を車で通りながら思い込んでいました。
銅が問題となる疾患としては、「ウィルソン病(Wilson’s disease)」というものを医学部時代に教科書で知った程度。
しかし、前掲の厚生労働省のツイートではスポーツ飲料をヤカンや水筒に入れたことが原因となって、銅が原因となった食中毒が発生するとのこと。
食中毒って食材や食べ物の中で微生物が増殖することによって引き起こされるを思い込んでいる方も多いのでは無いでしょうか?何故、スポーツ飲料をヤカンや水筒に入れていると銅による食中毒が起きるのか、ちょっと不思議ではあります。
厚生労働省の食中毒の原因には「銅」は記載されていないのですけど⋯。
まっとうな健康情報を提供していると判断される厚生労働省のウェブサイトの「食中毒」のページは以下のようになっています。
どこをどう見回しても、食中毒の原因として「銅」は記載されていません。念の為、一番下に書かれている「その他」をクリックしても「銅」が食中毒の原因物質しては記載されていません。
何故、突然厚生労働省が銅が食中毒の原因となることをツイートしたのか、気になって「ヤカンに入れたスポーツ飲料を飲んだことによる銅食中毒が発生しました。」を手がかりにどのような状況で銅食中毒が発生したのか、時間の余裕があったので調べてみました。
高齢者施設でヤカンの銅が原因で食中毒発生
この食中毒発生事件を受けて、厚生労働省は慌てて銅が食中毒の原因となることをツイートしたのだと思われます。
大分県は8日、同県臼杵市の高齢者福祉施設でやかんに入れた酸性のスポーツドリンクを飲んだ77~96歳の男女13人が食中毒となったと発表した。県によると、やかんに付着した銅がドリンクで溶け出たとみられる。
2020年7月8日 西日本新聞
この記事は「やかんの銅溶け?」と見出しに疑問符がついていることから、ヤカンの素材である銅が原因となった食中毒は一般的ではない、と考えられていることが伺い知れます。
酸性のスポーツ飲料が原因となって、ヤカンの銅が溶け出して銅食中毒となる。
ちょっと話はズレます。銅の調理機器ってプロっぽいイメージがあり、STAY HOMEを余儀なくされたオッサン界隈で普段やり慣れていない手料理が一時期ブームでした。とりあえず、ブームには一応乗っかっておこうか主義の私も料理に励んだのさ。
オッサンの場合、どうしても型から入る傾向があるために、プロっぽい銅の調理機器へのあこがれを抱いて、ネットで(外出自粛中だったからね)銅製の鍋やフライパンを購入しようとしちゃうんだよなあ。
こんなのね笑
無駄とも思える知識のあるオッサンは銅製の調理器具は熱伝導性が良いから、まんべんなく熱が伝わるから、との理由で買い込んでしまうのでした。銅製の調理器具の欠点として、他の素材のものと比較して重い、くらいしか考えつかなかった人も多いかと思われます。
でもねえ、銅製の鍋が原因となって銅食中毒も発生しているんだよ。
「東京衛研年報 Ann. Rep. Tokyo Metr. Res. Lab. P.H., 53, 144-148, 2002 」(http://www.tokyo-eiken.go.jp/assets/issue/journal/2002/pdf/53-28.pdf)では2例の銅の調理器具を使用した「銅中毒」が報告されています。
やきそば+銅のフライパン = 銅食中毒、この公式はソースが悪さをしていることが推察されています。
本事例で使用された銅鍋を用いて製造された餡の銅含量は,6.6 µg/g,同じく焼きそばは12 µg/gであった.一方,銅鍋で焼きそばソースを熱した場合,560 µg/gと高い濃度であった.傷等表面が劣化した鍋による調理,酸性 (pH3.6) で塩分濃度の高いソース,高温での処理等の条件が,銅の溶出に影響を及ぼしているものと推察された.
銅の調理器具を使用する時は、酸性の食材には注意が必要ということになりますね。しかし、銅製の鍋でトマトをグツグツ煮込むイタリアン系の料理に挑戦しようと企てているオッサンの中には躊躇する人が多出する可能性を孕んだ酸性の食材と銅の調理器具問題です。
脱水や熱中症を防ぐためには、どのくらい飲水すれば良いのか?
梅雨から夏に掛けてマスコミが煩く「水分摂取を❗」と伝えるために、日常の診察で「先生、1日どのくらい水って飲めば良いの?」と質問を頻回に受けます。私は摂取する水分を決めるのではなく、出ている尿量を測定することが少なくとも脱水を予防する目安だと考えています。
純粋な水だけを飲んでいると、低ナトリウム血症を起こすリスクもあるので、できるだけ電解質の入っている飲み物を医師の多くは推奨していると思います。もちろん、その中にはスポーツ飲料も含まれます。
スポーツ飲料やジュースを飲む時はヤカンや水筒に移し替えないで、販売時の状態で飲むことをおすすめいたします。