デング熱騒ぎも終息しましたが、今度はエボラ出血熱が世界中に拡散する可能性がでています。これから季節性インフルエンザが流行する時期なのに、一方でインフルエンザの予防手段であるワクチンを否定する人や自分が感染源になるかもしれないのに全く注意を払わない人もいます。
感染症がどんな経路で拡がって行き、世界中に拡散、まき散らされるのかを上手く説明する方法が無く、いくら話しても理解してもらえないもどかしさを医療関係者は経験しています。
本記事の内容
やたらパニックになる人、全く無関心な人に上手く伝える方法
お札がどのようにして広い地域に流通していくのか、を使って感染症の感染経路や拡散のスピードを説明した論文がありますので、ご紹介します。
ノースウエスタン大学のサイト上にインフルエンザの拡散の様子が掲載されています。
これは新型インフルエンザとして騒がれた豚インフルエンザ(A/H1N1)を飛行機の交通量、車を使った通勤経路だけはなく、ドル紙幣の流通経路を考慮にいれて分析・シミュレーションしているものです。エボラをはじめインフルエンザの感染経路である接触感染・飛沫感染の広がり方とそのスピードどれだけの勢いであるかが理解しやすいと思います。
世界中の交通網の発達が感染症の拡大速度を早めている
大航海時代とよばれるコロンブスの発見以来、世界は狭くなりました。ヨーロッパからアメリカ大陸に馬などの家畜、小麦・サトウキビなどの農産物がもたらされ、逆にアメリカ大陸からヨーロッパにトウモロコシ・ジャガイモ・唐辛子などの農産物が輸入されるようになりました。
病原体としてはヨーロッパへは天然痘・ペストが入り込み、お返しにアメリカ大陸からは梅毒がもたらされたことは多くの方がご存知のことです。帆船しか大陸間を結ぶ交通網が無かった時代なのに梅毒が日本に入り込んできたのは1512年です。
コロンブスがアメリカ大陸を発見したのが1492年ですから
梅毒はなんとたった20年で海に囲まれた日本まで感染が拡大していた
ということになります。飛行機や車が発達している現代ですから、今から500年以上昔と比較すると万が一強力な感染力があるウイルスが広がる速度はこの比ではないことは明らかです。
なぜドル紙幣を利用してインフルエンザウイルスの感染拡大を解説したのか
このインフルエンザ拡散をシミュレーションにお札を使用したのは、お札の受け渡しって人から人に行なわれるので、人と人の接触で感染が広がるインフルエンザウイルスと同じなんです。お札の流通経路=ウイルスの感染経路 と見なしてどんだけの早さで世界中に伝播されるのかが理解しやすいものになっています。さらにこの研究者は以前、
地図上の州単位、国単位は感染症の拡散を理解するには現実的ではない
ことも論文「The scaling laws of human travel」(Nature 439,462–465)で発表しています。
隔離と予防という手段の賛否
今回のエボラ出血熱では米国では感染者に接触した可能性の高い人を「隔離」という原始的な手段を取ったことに対して「人権無視」的な意見もでています。エボラ出血熱の感染が疑われる外国籍のジャーナリストが日本に入国したことに対しても「隔離」で対応しました(2014年10月30日現在では感染が認められないで退院した模様です)。
名画「ゴッドファーザー」でも主人公の1人Vito Corleoneがイタリアから米国に入国する際に感染症疑いでエリス島に隔離されましたよね。原始的な方法ではありますが、隔離政策は感染症を拡大させない為には非常に有効な手段であることは間違いありません。しかし、エボラ出血熱に感染した人の自宅の様子を調査した警察官がはめていた手袋を路上に捨てる、なんて公衆衛生観念の低い話もでています。
人類の歴史は感染症との戦いでもあり、日本人の寿命が戦後にどんどん長くなった主な要因は結核などの感染症に対する予防接種および抗生物質のおかげなんです。エボラ出血熱に対するワクチンはまだ実用化には数ヶ月かかるようですが、インフルエンザワクチンはとっくの昔から実用化されています。今年はインフルエンザが流行するかしないかは予想が難しいですが、予防することは医学的な事実なので、アレルギー体質の方以外はぜひ、予防接種を受けることをご検討ください。
ちまたで良く言われるワクチン接種は医者の金儲け手段については儲からんよ❗とブログで書いてありますので、そのようなお疑いのある方はぜひお読みください(関連エントリー)。