長寿のカギであるサーチュイン遺伝子、実はその効果はウソという説があります 追記あり

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長寿というか長生きの為にサプリや健康法でサーチュイン遺伝子を活性化するのがコツ、という表現が巷に出回っています。それを裏付ける論文も多数あります。

サーチュイン遺伝子の一種であるSIRT1遺伝子はほ乳類にあり、これのスイッチをオンにすると長寿になれる

という内容です。

長寿遺伝子サーチュインをスイッチオン❗ってサプリとか健康法がありますけど、ウソっていう話もあります

もともとこの長寿遺伝子と呼ばれるサーチュイン遺伝子はあの世界的に優秀であるMITの研究者によってSir2遺伝子が発見されたことが元々の切っ掛けです。もちろん医学者・生化学者などのチームが懸命になってサーチュイン遺伝子のことを追試・研究を現在も続けて言います。でも、もともとの実験で証明されたのはミミズやハエなんで、ほ乳類である人類にとって長寿遺伝子があるのか、ないのかを研究する段階になっています。そこで注目されているのがほほ乳類のSIRT1遺伝子なのです。一方で

サーチュインと長寿は因果関係ない

というとんでもない論文もあるにはあるんです。

LEM0902SIRT1chart545

The Universal Cause of Aging

老化のメカニズムをこのように考えていましたが、間違いって話になってきています。

染色体とDNAを混同していたり、ゲノムや遺伝子と遺伝子が伝える情報である遺伝情報を混乱して使用している記述がネット上には多いのですが、それを解説しますと、あと10000文字くらい必要になりますので各自でお調べ頂くと大変助かります。いずれどなたでも理解しやすいように解説する予定です。しかし、これはかなり難易度高いのでもう少し時間をください。

サーチュインで寿命が最大で50%延びる??

サーチュイン遺伝子はLeonard P. Guarente氏が1999年に見つけました。画期的というか衝撃的な内容だった為に世界中の研究者によって追試(後追いの実験・研究)が行なわれました。その結果

サーチュイン遺伝子を活性化すると寿命が最大で50%も延びる、つまり長寿に関連している

という実験報告が続々とされました。しかし、研究の対象となったのは酵母からミミズ、そしてハエまでレベルだとさすがに人間の長寿とは強い関連があるとは主張できません。そこで人の遺伝子の中にあるSIRT1~SIRT7のうち、Sir2に似ているSIRT1に注目が集まったのです。しかし、これを否定した人が出てきました。

長寿遺伝子は夢??

サーチュイン遺伝子と長寿は全く関係ないよ、と余分な研究をしたのはDavid Gemsというオジさんが率いるロンドン大学のチームです。この研究結果は泣く子もというかどんな研究者も崇め奉るNatureですから厄介です(そういえば弘法も筆の誤り的にSTAP細胞という幻想もありましたね)。

Absence_of_effects_of_Sir2_overexpression_on_lifespan_in_C__elegans_and_Drosophila___Nature___Nature_Publishing_Group

https://www.nature.com/articles/nature10296より『Nature 477, 482–485 (22 September 2011) 』

このタイトルが「虫やショウジョウバエの寿命には、Sir2の過剰発現の効果はなし」となっていますから、Sir2に類似した人間のSIRT1が長寿に関係しているかも、という大前提が崩れてしまいます。

サーチュインは長寿のカギではないし、サーチュインによって寿命を伸ばす効果はない

ということなんです。

食品類でいえば赤ワインに含まれるポリフェノールの一種であるレスベラロトールが長寿の秘訣とされていました。理屈的にはレスベラトロールが長寿位電子のスイッチをオンにする的に解釈されていました。残念ながらその後の研究でレスベラトロールと長寿との関連は薄い、という研究結果が出ています(関連エントリー 悲報 レスベラトロールは効果なし)。

そういえばサーチュイン遺伝子の効果については他の研究の方が盛んになっているような

サーチュイン=長寿、って意味は元々ありません。しかし、多くのネット上の話はサーチュインが長寿を指していますが、明らかにそれは間違いです。となるとサーチュインに影響するとされるポリフェノールなどが長寿の秘訣といったサプリなどは全くウソってことになってしまいます。なぜか日本ではDavid Gems氏の論文は脚光を浴びなかったようで、この論文はひょっとしたらサプリ業界の巨大な陰謀によって抹消されているのかもしれませんね、陰謀論者の方々。今ではサーチュイン遺伝子は記憶に関連したり、アルツハイマーと関係している可能性の研究がさかんになっています。さらには心血管系、糖尿病にも関連しているとの研究も行われています。

The_sirtuin_pathway_in_ageing_and_Alzheimer_di_____Lancet_Neurol__2011__-_PubMed_-_NCBI

これはサーチュインとアルツハイマーの関連を調べた論文です。

豆知識:検索で「Sirtuin pubmed」と入力すると、米国のUS National Library of Medicine National Institutes of Healthという医学系のデータバンクにアクセスできます。ゾロゾとと新しいサーチュインに関する世界中の論文が表示されます。今後、医学や健康問題で「これってどうなの?」と感じた時は「キーワド+pubmed 」で検索するとインチキやウソにダマされない力がつきます。

発見者も間違いを認めています、サーチュインと長寿の関係

サーチュインが長寿に影響していると発見・発表したLeonard P. Guarenteさんは研究者として立派です。自分の実験方法のミスによって導かれた結果について素直に認めているのです。

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そもそもの餌を制限すると寿命が延びるという現象に対しては否定的な研究も出ていませんので、食事と寿命はなにがしかの関連があるのは間違いありません。でも、サーチュイン遺伝子のスイッチをオンして長生きしよう、という理論は実は世界的にはすでに過去のものとなっていることをお忘れなく。

追記

最近、やっぱりカロリーを制限するとサーチュイン遺伝子が関連して長生きになる、との論文も出てきています。人でもカロリー制限をすると体の中で炎症マーカーが低下して、この減少はサーチュイン遺伝子の活性化によるものと考えられています(Biochim Biophys Acta 2013; 1830: 4820-4827)。症例数が少ない、調査期間が短いとの指摘もありますが、SIRT1遺伝子の研究は多くの方の望む健康で長生きを可能にするかもしれません。STAP細胞ではありませんが、一つの説が否定されても、しつこく違ったアプローチで可能性を追求するのが科学者の宿命です。2016年6月1日

著者プロフィール

桑満おさむ(医師)


このブログ記事を書いた医師:桑満おさむ(Osamu Kuwamitsu, M.D.)

1986年横浜市立大学医学部卒業後、同大医学部病院泌尿器科勤務を経て、1997年に東京都目黒区に五本木クリニックを開院。

医学情報を、難解な医学論文をエビデンスとしつつも誰にでもわかるようにやさしく紹介していきます。

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