不妊に悩んでいる方向けの一般書籍の内容が酷すぎます。
医学用語風のトンデモワードのオンパレードで埋め尽くされた奇書とも呼べる、あたかも容易に妊娠ができると思わせる手法が医療従事者が書いているのです。
これで不妊症が8割改善すると本気でいっているとしたら、不妊治療をしている患者さんやまっとうな医師を舐めきっていると断言します。
本記事の内容
そもそも不妊症は血流が悪いことが原因なのか?
ひさびさに奇書とも呼べるレベルのトンデモ系ニセ医学本をゲットしました。その書籍は「妊娠率8割 10秒妊活 」(くろせまき著)です。帯には2万人の妊産婦をケア、日本一出産する病院の助産師、手軽な妊活法など刺激的な文言が並んでいます。
お気軽に不妊症が治ってしまい、妊娠率が8割達成可能であり、それもたった10秒だけ何かをするだけで解決してしまうのであれば、少子化問題の一つはスッキリ解消じゃん。どうみても現代医学の常識に反するトンデモ系ニセ医学とにらんでこの奇書の内容を検証してみます。
※ご存知のように私は産婦人科領域は小児科領域と同じレベルで苦手としています。泌尿器科医ごときが不妊問題に口をはさむな!とお叱りを受けそうですが⋯違うんだよなあ、不妊問題は男性も絡んでいて泌尿器科の守備範囲なんだよなあ。
先日も妊活用のお茶なんてものを見つけました。
成分を医学的に検証したらメッチャクチャ。
出てくる出てくる、トンデモのリトマス試験紙的ニセ医学用語が
ざっくりのこのトンデモ本の内容を説明すると、血流を良くすることで不妊症が治っちゃう、そのためには10秒で済む体操をしようね、ってことらしいです。そのそもそものこの本の主題である妊活エクササイズはたったの7ページ。これでは本として成り立ちません。本の90%以上がトンデモ理論武装で埋まっています、だから私は奇書って捉えたのです。
トンデモ判別リトマス試験紙とも呼ばれているニセ医学ワードが次から次と登場してきます。
●腸内デトックス ●ポカポカしてきました ●温活 ●冷え ●副腎疲労症候群 ●骨盤調整 ●腸内ケアで体質改善 ●よもぎ蒸し ●リーキーガット症候群 ●有害金属毒素 ●毛髪ミネラル検査 ●揚げ物はNG ●抗生物質フリーの食材 ●生体濃縮 ●EM石けん
えーっと、きりが無いのでこの辺りでやめておきます。しかし、見事にトンデモ用語を網羅しています。多分、ブログを7年以上に渡って1400本以上書いてきた私はどれもこれも一回はトンデモねたとして取り上げたと思います(厳密にチェックはしていないけどね)。
これらと不妊症がどんな関連があるのか不明ですよね、だから私は奇書と感じたのです。
各論に入りたいのですが、準備はよろしいでしょうか?ここまででご質問はありませんか?ご存じなかったトンデモワードがある場合は当院ウェブサイトの虫眼鏡マークの検索をご利用ください。
このブログのトップにも検索窓は設置してあります。
トンデモさん御用達の「ポカポカ」現象
トンデモを見分けるこつとして「ポカポカ」という表現が使われているかどうかがあります。例えば私のブログを例としますね。
私の愛用酵素ドリンクは生きてる❗と宣言したピラティストレーナーさん、それってマルチの商材では⋯。
ダイエットできると称する酵素ドリンクを飲んだ人の感想として「酵素を飲むと身体がポカポカしてくる」との表現を取り上げています。
このポカポカという主観はトンデモ医学で多用されています。尊敬する山田ノジルさんのインタビュー記事でも
「健康法の域はとっくに超えています。子宮をケアして、子宮をポカポカに暖めていれば、体調が良くなるのはもちろん、運も金回りもよくなる。恋愛も仕事も成功する。なんて『カルト宗教』みたいなことになっていました」
https://biz-journal.jp/2019/03/post_27135.html
と「子宮温めると運気アップ、生理の経血コントロール⋯トンデモ健康法広める善意の加害者たち」の中で語っています。
今回取り上げたトンデモ本には流石に運気アップまでは書かれていなかったなあ。
お客様の声で、「なんだかポカポカしてきた」的な表現を見つけたらトンデモ警報発令中と判断して良いかと思います。
AERAでも山田ノジルさんは子宮系女子の
「女は子宮をポカポカにして好きなことだけをやるのが本来の生き方。それをしないと国の機能は麻痺して繁栄しない! だから外で働かなくていい、勉強しなくていい」
https://dot.asahi.com/dot/2018122700155.html?page=3
との言葉を引用しています。
※私は婦人科領域のトンデモは山田ノジルさんに任せきっております。
まあ、その他の先ほど列記したワードも同じくトンデモさんが多用する用語である点にご注意くださいね。
そもそもの話に戻ります。
不妊症の原因は血流が悪いからなのか?血流を良くすれば妊娠できるのか?
ついつい話がずれてしまいました。今回取り上げた本の要旨は
不妊症の原因は子宮の血流にある → 子宮の血流を高める → 8割の確率で妊娠できる
ですよね。不妊の原因の一つとして男性不妊症もあるけどその件は武士の情け的に放置します。女性の不妊症といえば専門は産婦人科なので、この場合は当然の流れてとして信頼度が高く一般の方も気軽にみることができる日本産婦人科学会のウェブサイト(http://www.jsog.or.jp/⋯余計なお世話ですがせめてhttpsに早急に改めた方がいいよね)を参考にしますね。
産婦人科学会のサイトに「不妊症の原因は?」とシンプルかつドンピシャの項目がありました。その中の女性側の原因としては
●排卵因子
●卵管因子
●頸管因子
●免疫因子
●子宮因子
以上の5つの原因が不妊症を引き起こしていると述べられています。子宮の血流を高めると妊娠率が8割にもなると主張しているトンデモ本が関係している「子宮因子」については
子宮筋腫や子宮の先天的な形態異常などにより、子宮内膜の血流が悪かったり、子宮内に過去の手術や炎症による癒着などがあると、子宮内に到達した胚がくっ付いて育つことを妨げ、妊娠に至りません
http://www.jsog.or.jp/modules/diseases/index.php?content_id=15
って書かれているんだよなあ。
不妊症の原因は子宮の血流が悪くなっているからです的なことは一切書かれていないじゃん。
産婦人科学会の子宮筋腫の項目では
おもな症状は、月経量が多くなることと月経痛です。その他に月経以外の出血、腰痛、頻尿(トイレが近い)などがあります。
に続いて
妊娠しにくい(不妊)、流産しやすい(習慣流産)などの症状もみられることがあります。
http://www.jsog.or.jp/modules/diseases/index.php?content_id=8
と説明されています。
私は産婦人科領域が苦手なので間違っている可能性も無くはないのですが、次のように考えてしまいます。
子宮筋腫が不妊症の原因の一つである → トンデモ本に従って子宮の血流を高める → 当然、子宮筋腫の症状である月経量が多くなる → 妊娠しにくくなる
妊娠率8割の妊活指南本、逆に妊娠しにくい体質改善しちゃうんじゃないのかねえ⋯。