レーザーを使った尿失禁治療、保険適用では無いけど効果は期待できそうです。

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尿失禁に悩まされている女性は少なくはありません。

恥ずかしいから友達にも家族にも相談できない。医療機関を受診することはさらに恥ずかしい、と考えている方も多いです。

薬や体操で失禁を改善することは可能になっていますが、手術ではないと治療できないこともあります。

手術というほど大掛かりではなく、日帰りで尿失禁治療が可能になっており、現在では多くの泌尿器科で採用されているレーザーを使った尿失禁治療をご紹介します。

レーザーを使って婦人科系悩みと泌尿器系の悩みを同時に治療できる可能性

当院には非常勤ながら女性医師が2名在籍しています。先日彼女たちと女性スタッフが奥の診察室でレーザー機器を搬入してコソコソ相談をしていました。聞こえてきた言葉は「悩んでいる人って結構いるのよね〜」「恥ずかしくて言い出せないけど、この前の患者さんも先生どうにかならないの、って言ってたし」「でも、院長はたぶんダメ、当院でやる必要なし、ってバッサリ言い切っちゃうよね〜」と女子会を勤務時間中に開催していた模様。

パワハラ・セクハラ・モラハラにおびえている私は聞こえないふりをしていました。

古株の女性医師が「院長〜っ、今ちょっといいですかあ〜っ」といつもはキビキビした話し方なのに、なぜか弱気の話し方で、「女性下部尿路診療ガイドライン」を読んでいた私に話しかけました。

院長って泌尿器科が専門のくせに、婦人科領域が苦手なのはしっています。下ネタも嫌いですよね?」と女性医師は切り出しました。「うちにあるレーザーで女性の悩みを解決できるのご存知でしたか?」と勿体ぶった言い方で女性医師は続けました。

膣の悩みというか、コンプレックスがある女性患者さんが結構多いんです、もちろん院長は知らないでしょうけど」と女性心理を理解できないと定評の私に畳み掛けます。

婦人科系は苦手な私ですが、尿失禁に関しては専門だよ

あのさ〜、まず結論からいってよ」といつものノリの私。「いま、ガイドラインでカバーできていない女性の尿失禁のこと調べているんだから」と私は続けました。

ひるまない女性医師は「プチレディってご存知ですか?レーザーでゆるんだ膣を引き締める治療方法があるんですけど」だってさ。なんじゃそりゃ、と私が返答すると思ったのでしょうけど、実は数年前あるレーザー会社から尿失禁に対する同じような治験前段階の研究を一緒にやってくれないかとの依頼があったんだよ。

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私は即答しました。「プチレディを試した患者さんが尿失禁に効果があったとの論文があったら当院で採用を検討してもいいよ」。

膣にレーザーを照射して、尿失禁が改善できることを示した論文はあるのか?

このような医学論文を女性医師は私に渡しました。「Treatment of Vaginal Relaxation Syndrome with an Erbium:YAG Laser Using 90° and 360° Scanning Scopes: A Pilot Study & Short-term Results}(PMID: 25071312)。

「膣弛緩症」という病気が婦人科領域ではあるそうです。その治療としてEr:YAGレーザー(おっ、このレーザー数台当院にあるぞ)を使って30人の膣弛緩症患者さんを対象としたケースレポートでした。結果としては30人中23人に効果ありました。

女性医師に論文を読んだ私は「これって以前、あるレーザー会社から研究を一緒にしないかって誘われたんだよね。その時の説明で尿失禁に効果も期待できます、と言っていた記憶があるんだ」と言いながら、女性下部尿路診療ガイドラインを女性医師に見せて「でも、ガイドラインには載ってないんだよ、レーザーを使った尿失禁治療は」と冷たく告げました(このあたりが女性心理を理解できない院長との烙印を押されている原因かも)。

その後、私はちょっと気になってレーザーで尿失禁治療が可能なのか、可能であるれば医学論文に掲載されているかを調べ始めました。

レーザーで尿失禁治療は行われていました

医学論文と言っても質の高い論文から、言葉は悪いですが同人誌的な医学論文もあることを前もってお伝えしておきます。

「Laser Therapy in the Treatment of Female Urinary Incontinence and Genitourinary Syndrome of Menopause: An Update」(PMID: 31275962) は2019年に発表された医学論文です。論文はキーワードを「レーザー」および「尿失禁」で検索した370の論文を検証したものです。

尿失禁に対するレーザー治療はレーザーの機種によって結果が大きく左右されるために一律に効果を認めるには、まだまだ研究の余地が残っていることを告げています。でも、Er:YAGレーザーを使ったものは期待ができそうであることも記されています。

2018年に論文となった「Non-ablative Er:YAG Laser Therapy Effect on Stress Urinary Incontinence Related to Quality of Life and Sexual Function: A Randomized Controlled Trial}(PMID: 29604548)はEr:YAGレーザーを使った尿失禁治療は重篤な副作用なく、治療効果があったとの結論になっています。

もちろん探せば効果なし、との結果を報ずる論文もあるのでしょうけど、少なくとも私は見つけることができませんでした(確証バイアスでは無いと思うんだけど)。

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尿失禁を改善する方法も当院のレーザーの説明書に書かれていました(そういえば説明を受けた記憶がよみがえってきたかも)。

結論

Er:YAGレーザーを使った尿失禁治療は効果がある。しかし、日本のガイドラインには記載されていない。日本でもすでに多くの泌尿器科で尿失禁に対してレーザー治療が行われている。故に当院としても尿失禁治療に対してレーザー治療を始めることを検討しても良い時期である。以前から尿失禁のレーザー治療を希望している患者さんが複数いる。こりゃ、当院でも早速始めなきゃ。

こんな感じの面倒くさい院長です。

著者プロフィール

桑満おさむ(医師)


このブログ記事を書いた医師:桑満おさむ(Osamu Kuwamitsu, M.D.)

1986年横浜市立大学医学部卒業後、同大医学部病院泌尿器科勤務を経て、1997年に東京都目黒区に五本木クリニックを開院。

医学情報を、難解な医学論文をエビデンスとしつつも誰にでもわかるようにやさしく紹介していきます。

桑満おさむ医師のプロフィール詳細

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