体を温めると必ず治る、標準医学に基づいた科学的検証は不可能です。

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冷えはカラダに良くないです。ですが、適温以上に温めても病気は治りません。

風邪を引いたら暖かくして汗をたくさんかくといいといった話は誰しもが小さい頃から言われてきたことだと思います。体を温めるだけで病が治るなら、ずっとお風呂につかっていれば治ってしまうわけです。

冷静に考えればありえない話なのですが、平熱をあげて免疫UP、病気知らずといった情報はどうしてももっともらしく聞こえてしまいます。

そこで、医師として標準医学に基づいて、体を温めても治るわけがないことを、巷にあふれるトンデモ説につっこみを入れながら解説しようと思います。

体を温めると万病が治る、との説の教科書的書籍を読んで驚愕したぞ

体温を上げると免疫力がアップする、との医学的根拠はスカスカであることは以前からお伝えきました。

でも、なんとなく冷えた体よりは温かい体の方が病気になりにくいし、病気が治るような気がする人の気持も判らないわけではありません(じゃあ、発熱した時はなんで冷やすんだ、なんて意地悪なことはいわないよ)。

体を温めると病気は治る、どころじゃなくて、体を温めると病気は「必ず」治る、とのタイトルの一般向け書籍があります。

「体を温める」と病気は必ず治る
「体を温める」と病気は必ず治る 石原結實著 三笠書房

2003年に初版が出ています。今ほどトンデモ医学に関しての評価は少なくともネットでは注目は集めていなかった時代です。

言論の自由、表現の自由、出版の自由は絶対守られるべき権利です。トンデモ医学に惑わされて、治るもさえ治らない、救える命が救えない、との悲劇もありえます。トンデモに惑わされると、無駄な時間を浪費して標準治療を受ける機会損失につながります。

体温を上げると免疫力が上がるとの独自の説を広めている一派の教科書的な本でもあり、「冷えとり」なるどうしようもないトンデモ系ニセ医学にも影響を及ぼしたことが考えられる、「体を温めると病気は必ず治る」(おいおい、必ずって言い切っちゃって大丈夫かあ)を検証してみました。

ウヒャー、「はじめに」からぶっ飛んだ内容だよ〜

話は飛びます。新生児のことを「赤ちゃん」と呼びますよね、なぜ赤ちゃんなのかご存知でしょうか?普通は新生児の皮膚が赤いから「赤ちゃん」だと理解していると思います。

しかーし、石原結實先生は体温が高く赤いから赤ちゃんとの理由を述べています。赤ちゃんは生命力が強い、その理由は体温が高いからであるとの理論を披露しています。

このように赤ちゃんが赤いことを解説しているクリニックもあります

Q赤ちゃんってなんで赤いの?

A赤ちゃんはお産のとき、窮屈な産道を通って少しずつ外へ出てきます。産道を通過するとき、赤ちゃんの肺や心臓は強く圧迫され、心臓へ戻る静脈血が顔のほうへたまります。こうした強いうっ血でうまれたての赤ちゃんは赤いのですが、血管が破れて皮下に血がすこしもれていたりすると、点状になった出血班や打ち身のような斑点として出ることも。だいたい3日~1週間程度で吸収されて消えていきます。

山王クリニック「赤ちゃんの七不思議」より。

可愛そうな赤ちゃん、石原結實先生の説に従うと、赤ちゃんの生命力が強いのは1週間程度で消え去ってしまいます。

まあ、普通赤ちゃんが赤いのは皮膚が白く薄いために血管が透けて見えるから、と解釈されています。

あらゆる病気の原因は体温低下である?

石原結實先生は著作のP4で「あらゆる病気は、この体温低下によって引き起こされる」と断定されています(まだ4ページなんだけどなあ)。

言葉尻を捉えてとやかく云うのも、なんですけど「必ず」に続いて「あらゆる」ですから、石原結實先生の対面診療を受けた人は飛びまくる自信に溢れた強気オーラに圧倒されちゃうでしょうね。

自信をもって言い切る態度は多くの医師は見習うべきであり、その他の職業の方も参考にすると良いかもしれません(責任は負わないよ)。

「はじめに」だけでお腹いっぱいになった気持ちになっています。気持ちを入れ替えて読み進みますね。

がんで死亡する日本人が増加している理由は体温が低下しているからである?

日本人の死因は「がん」「心疾患」「脳血管疾患」の順になっています。「がん」が死因の一位になったのは1981年以降です。がんが原因で亡くなっている人の数は増加しているのは事実です。

画像

東京都福祉保健局「がんの死亡数」(https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/iryo/iryo_hoken/gan_portal/research/genjyou/shibousu.html)

石原結實先生はがんで死亡する人が増加している原因として、体温が下がっているからだ、と断定しています。

コモンセンスを得ているがん死亡者の増加理由は高齢化社会ですよね。日本人の体温が下がっていることをどのような統計データから得たのか著作には記載されていません。

そもそも、がんで死亡する人が増えたのであれば、逆にがん以外の病気で死亡する人は減少しているはずです。これって石原結實先生がこの本で述べたかった「体を温めると病気は必ず治る」説に反すると思います。

日本人の体温が下がっていることが事実であり、石原先生の主張が正しいのであれば、がん以外の病気が原因となって死亡する人も増加するんじゃないでしょうか?

塩分を制限することは健康に悪影響がある?

東洋医学では体を温める食材・体を冷やしてしまう食材がある、との考え方があります。西洋医学と東洋医学は水に油と一般的には考えられています。しかし、西洋医学も東洋医学の良い点を積極的に取り入れようとの動きもあります。

東洋医学的に「塩」はどのように扱われているのか、東邦大学医療センター東洋医学科のサイトを参考にしてみます。

何故寒冷地には塩分摂取が多い傾向にあるのであろうか?塩気の多い食物は、身体を温める作用があるという説がある。それによれば、塩分を摂取すると、身体は寒さに耐える力を増強し、体内の冷えを防ぐことが出来るとする。

塩は体を温める食材と東洋医学では考えられていることがわかります。

でもねえ、石原結實先生はこんなことを言っているんだよ。

塩分不足によって体温が低下し、ガン、脳梗塞、心筋梗塞、糖尿病、脂肪肝、リウマチなどの膠原病、アレルギー、自殺などの一要因になっている

あの〜、脳梗塞は動脈硬化と高血圧がリスクファクターじゃなかったっけ、心筋梗塞も高血圧がリスクファクターだったよね、そもそも自殺の原因で塩分制限ってどんな文献を元にしているんだあ???

ちなみに全254ページで構成される石原結實先生の著作、ここまででやっとこ37ページ目です。

気を取り直して読み進まないで、読み飛ばします。

トンデモの芳ばしいかおりが充満する症例報告

一般向け健康関連書籍にありがちにな、後半に書かれている症例報告風お客様の感想です系記述をチェックしてみます。

頭がクラクラするような症例報告(?)で溢れかえっていて、どの症例をチョイスすればよいのか迷いつつ、私が専門としている泌尿器系疾患に的を絞りますね。

困り果てていた頻尿がお腹を温めたらウソのように治った症例 Dさん 64歳女性

尿中に菌は検出されないため、頻尿を主訴としていたために、神経性膀胱炎と診断された。ある日突然お腹に大きな氷の塊をツッコまれたような冷えと不快感が生じたため、へその周囲にカイロを入れたところ大量の尿がザーッと出て心身ともに気分が良くなった。

私の解説:急性の尿閉がカイロによって治癒したようにも感じられる症例です。そもそも神経性膀胱炎との診断名を私は泌尿器科医になって大分経ちますがいままで一度も目にしたことはありません。(注意:神経因性膀胱という似た名称の疾患はあります)主訴としていた神経性膀胱炎の症状がカイロを使用することによって結局どうなったのか一切記載がありません。困り果てていた「頻尿」はどこに行ってしまったのでしょうか。Dさんのその後が気になってしまいます。

 

まあ、こんな感じ「必ず」「最強」「あらゆる」という自信に溢れたワードで埋め尽くされた一般向け書籍に対して科学的・医学的検証を試みた私がバカでした。

しかし、このような根拠なき話が聖典的な役割を果たしていると予想される「体を温めれば病気は治る」一派の中に「これってヘンじゃないの?」との疑問を呈するメンツはいないのでしょうか?

著者プロフィール

桑満おさむ(医師)


このブログ記事を書いた医師:桑満おさむ(Osamu Kuwamitsu, M.D.)

1986年横浜市立大学医学部卒業後、同大医学部病院泌尿器科勤務を経て、1997年に東京都目黒区に五本木クリニックを開院。

医学情報を、難解な医学論文をエビデンスとしつつも誰にでもわかるようにやさしく紹介していきます。

桑満おさむ医師のプロフィール詳細

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