体温を上げれば病気になりにくくなる説と同様、昔から「血流改善」は都合よく使われています。
ストレスと同じように便利な言葉、それが血流改善です。肩こりや腰痛は血流が悪化しているからとなんとなく信じ込んでしまっている方が多いと思いますが、加齢にともなう避けられない顔のたるみの原因にまで当てはめてしまうのはいかがなものかと。
今回は、その血流改善で顔のたるみが解消するという説について掘り下げていきます。
本記事の内容
「顔のたるみ」が血流を改善すれば解消するとは思えないのですが
人類は克服困難と考えられてきた難問に立ち向かってきました。残念ながら人類は時間の経過に逆らうことはできません。しかし、積み重なる時間の経過とともに老いることへ、なんとか抵抗をしてきた上で生み出された言葉が「抗加齢」つまり「エイジングケア(anti-aging.)」です。
個人的にはエイジングケアとの言葉はあまり好みではありません。無駄な抵抗をしている感が強いからです。しかし、無駄な抵抗と思われても、研究を積み重ねることによって、難問を克服してきたのが人類の歴史である、とも考えられます。その努力が人類の繁栄と進歩を生み出してきてからです。
でもねえ、「血流を改善すれば顔のたるみが解消」はどう見ても無理なんじゃないの?と強く考えちゃいます。
いくら医師が考案したといっても、人類の身体のそもそもの仕組みがここ数年で劇的に変化しているわけは無いですから、無理なものは無理。
「顔のたるみ」の主な原因は重力の影響が主です。血流を改善することによって「顔のたるみ」が解消できると、無理スジな理論をどのように医師が解説しているのか、興味津々で私が解説・検証してみます。
骨から筋肉が離れていくから、顔のたるみが生じる
顔のたるみは筋肉や皮膚の弾性繊維が重力によって引き伸ばされることが原因だと医学的、特に美容系医学では考えられています。また、骨は加齢とともに退縮していくので、筋肉を支えている基盤が脆弱になり、骨に付着している筋肉も緩み、さらにその上を覆っている皮膚自体も緩んで、顔のたるみになるのです。
顔の血流を改善すれば顔のたるみは解消できる、と唱えている医師(正確には歯科医師)は
骨にピタリと筋肉がついているのは二十歳頃まで。その後は少しずつ離れ、表情筋はたるみにつながります
と述べています。
骨から筋肉が離れることによって、表情筋がゆるむからたるみの原因になる、ということなんでしょうね。
さらに
姿勢が悪いと顔まで血液が行き届かず、表情筋は硬くなってたるんでしまいます。
と続けています。
この辺りから雲行きが怪しくなってきます。最終的には顔のたるみの解消に必要なことは
『正しい姿勢』『血流改善』『表情筋の柔軟性』『顔の骨の再生』
との独自の理論があるようです。
なんとなーく、判ったようだけどよくよく考えてみるとヘンテコな理論とその解決方法、さらに興味深く読みすすめてみました。
ふくらはぎをもんで血流をアップすれば、顔の血液が届くのか?
たるみを解消するために、顔の血流を改善する方法として、ふくらはぎを揉むことを推奨しています。ふくらはぎをもんだくらいで、顔へ流れる血流が一気にアップするとは考えられません。
人類は重力に逆らって、直立歩行を成し遂げました。胸部より上へ血液に含まれる酸素を届けるために心臓をポンプとしています。
たとえば、ショック症状に陥った人がいた場合、脳への血流を確保することが重要なポイントとなります。その場合、ふくらはぎをいきなりもみ始める医師を少なくとも私は見たことはありません。
脳へ至る血液も顔に至る血液も同じルートです。顔の血流をアップさせるのであれば、下肢を頭部より上にしたほうが遥かに効果があると思うのは私だけでしょうか?
顔の血流をアップさせるなら、ふくらはぎモミモミより遥かにこっちの姿勢の方が合理的だと思うけどなあ⋯。
表情筋を動かせば、顔の筋肉の血流がアップして、顔のたるみが解消?
加齢ともに表情筋はたるみます。そのために顔のたるみが発生します。主な原因は弾性繊維の減少と重力の影響です。表情筋に限らず、筋肉は動くことによって血流が増加することは医学的な事実と考えて差し支えありません。
血流を改善することが顔のたるみ解消につながると考えている医師と私のそもそもの知識とは大きな乖離があります。
血流が悪くなると表情筋は硬くなる、だから表情筋が硬くなることがたるみの原因である、との基本的な理論背景に多いに疑問があるのです。
筋肉が硬くなる、つまりしっかり収縮しているほど表情筋は張りが出て、顔のたるみは目立たなくなると思うんだよねえ。
まあ、その件は放置しておきます。
先に進みます。そもそも美容医療的見地からむやみやたらとマッサージをすることは、肝斑の原因になったりシワの原因になると考えられています。
それなのに、顔の血流を良くするために指で表情筋を「キュッキュッ」と押すことを推奨しています。そもそも、そのような行動で表情筋に血液と酸素を送ることができるのでしょうか?
酸素を筋肉に送り込みながら筋肉を動かすことは有酸素運動と考えられます。筋肉量を増加させるためには無酸素運動の方が効果的と考えていた私は顔を洗って出直します。
咀嚼すると顔の骨が再生する、それによって顔のたるみが解消?
顔の土台は顔の骨です。土台である顔の骨が退縮してしまうと、骨に付着した支持組織ある顔の筋肉も緩んでしまうのは医学的事実です(厳密には、ちょっと違うけどね)。
顔の血流を改善すれば顔のたるみが解消する説では咀嚼(ものを噛む動作)の刺激によって顔の骨が再生することも、基本的な理論となっています。
これも私は顔を洗って出直す必要がある、自分の勉強不足を恥じなければなりません。
確かに咀嚼運動は骨や筋肉を刺激することには繋がっています。しかし、骨が萎縮・退縮する大きな原因は女性ホルモンの減少だと医学的には解釈されています。
まあ、なんちゃら式エクササイズと称して、一般向け書籍やネットでそのknow-howを伝えて、それを実践した人から「効果ないじゃないのよ〜❗」とお叱りの罵声を浴びることは稀だと思います。
しかし、医療として美容を提供する場合、高額な治療費をいただいて明確な効果をお見せしないと患者さんは満足しませんし、医療機関の評判もガタ落ちです。
例えばこれは当院の症例です。
糸によるたるみ解消(スレッドリフト)とヒアルロン酸の注入を行っています。治療時間は約1時間、術後に若干の皮下出血と軽度の腫れが数日ありましたが、鎮痛剤を3日程度服用するレベルで問題は解決しています。翌日から就業していいて、第三者に治療をしたことは気が付かれなかったそうです。
費用は60万円近くかかりましたがご本人は十分に満足しています。
これだけ高額な治療費を頂いて「効果ないじゃないの〜、キーッ❗」だと20年以上も地元密着型で美容皮膚科・美容外科は営んでいられなかったと思っていただけるとうれしいです。