「微陽性」という不思議な医学風用語、医療分野の新しい生活様式では有効かも。

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新型コロナで、今までマイナーだった専門用語が一般的に浸透し、新しい言葉がつくられています。そんな中ニューフェイスとして微陽性なる言葉が登場し、多くの人が何それ?って不思議に思ったことでしょう。

微妙・微熱・微笑・微生物と、ごくわずか、少しのという意味で使われる【微】。微陽性って、ちょっと陽性?それって結局陽性でダメじゃんって思う人がほとんどではないでしょうか。

では微陰性ってあるのという疑問もありますが、ひょっとしたら、この微陽性という用語はこれからの生活では有効利用できるかもしれないというお話です。

微陽性という検査結果は医学的には何を意味しているんだ?

先日、ソーシャル系で「微陽性」という不思議なパワーワードが医師の間で話題となりました。

巨人・坂本、大城 新型コロナ感染症「微陽性」

Yahoo!ニュース巨人・坂本、大城 新型コロナ感染症「微陽性」連日検査で陰性出れば再合流、6・19開幕間に合う見込み(https://news.yahoo.co.jp/articles/6bd83554496c81351159e2e2813eecab0971ece4より)

誰しも自分の健康状態や病気の程度を明確に把握したいと考えるはずです。だからこそ医療機関で検査を受けるんです。そして医師側も確実な診断(確定診断と呼びます)を下したいからこそ、検査をするのです。

「今回の検査の結果は微陽性です❗」と言われた患者さんはどのようなレスポンスをするのか興味深いですし、宣告した医師の顔を見てみたい気もします。

病気の診断で明確に白黒はっきりさせるのには限界があります

今回の新型コロナ騒動で、本当にウイルス感染しているのか診断する上で実力以上の検査精度を期待されているのがPCR検査であり抗体検査なのです。

私はこのヘンテコな感染症に関する検査方法について2月当初から数本の記事を書いてきました。

【新型コロナ感染症対策】ウイルス感染を恐れて検査しても、様々な問題が発生する可能性があります。

【新型コロナ感染症対策】ウイルス感染を恐れて検査しても、様々な問題が発生する可能性があります。

偽陽性、偽陰性の問題についての記事です。

新型コロナウイルスPCR検査は感度だけじゃなく、特異度も考えないとダメ

新型コロナウイルスPCR検査は感度だけじゃなく、特異度も考えないとダメ

この記事で繰り返し検査をすれば、精度が上がると思いがちなんで、繰り返し検査を行った場合に生じる悪夢を伝えました。

そもそも「微陽性」ってどんな場合があるんだろうなあ、と自分の知識の範囲で不思議な医学風用語「微陽性」を解読してみます。

今回登場したパワーワードは「偽陽性」ではなく「微陽性」。微陽性があるなら微陰性もあるんだろうか?

私が目にしたことのある海外のPCR検査の結果では「not detected」と表記されていました。新型コロナは「見つかりませんでした」ってことですよね。検査結果が「+」「ー」あるいは「陽性」「陰性」より言葉としては正しい使い方なんじゃないでしょうか?

抗体検査で陽性で、次にPCR検査したら「微陽性」?

スポーツ関連記事はめったに読むことがないので、私の解釈が間違っていたら場合はこっそり教えていただけるとうれしいです。

前掲の「微陽性」結果を伝えているのは「スポニチ」、正式名称は「スポーツニッポン」ですよね(ここまでは間違ってないよね)。スポニチは毎日新聞グループのスポーツに特化した新聞である(これもネットで調べたから間違いないよね)。

私の愛する「東スポ」が「微陽性」と見出しに大々的に書いてしまっても、「だははっ、さすが東スポ、斬新なパワーワードを生み出した」と好意的に受け止めます。

前掲スポニチの記事からわかる詳細は以下になっています。

球団が5月後半に新型コロナの抗体検査を218名に実施した

検体検査で4人にIgG抗体が検出されていた

検体検査の結果を受けて新型コロナのPCR検査を実施した

その結果、2人の選手がPCR検査で微量の新型コロナの遺伝子が検出された

2人の選手が新型コロナ感染「微陽性」になった

これ、間違っていないですよね。

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巨人・坂本、大城 新型コロナ感染症「微陽性」

2020年6月4日放送ミヤネ屋

翌日2020年6月4日「情報ライブ ミヤネ屋」でも取り上げていました。

まずは新型コロナの抗体検査にまつわるもろもろの話

新型コロナ報道に接して、感度と特異度を知った方も多いかもしれません。

感度とは

実際に新型コロナに感染している人のうち、新型コロナ陽性だよ、と判断する割合です。100人の新型コロナ感染者に対して、100人全員が正しく陽性と判定するような検査方法があったら「感度100%」の検査方法といえます。

しかし、新型コロナに感染していない人に陽性判定をしても感度には影響しません。感染していようが感染していまいが、全員に陽性判定を下せば感度の定義上は「感度100%」となってしまいます。

感度だけじゃあてにならないために検査では「特異度」を考えます。

特異度とは

実際に新型コロナに感染していない人のうち、新型コロナ陰性だよ、と判断する割合です。極端なことを言えば、感染の有無に関わらず、全員に新型コロナ陰性判定を下した場合は、納得がいかないでしょうけど「特異度100%」になるのです(これは定義だからね)。

まず、抗体検査は販売当初から感度はPCRより低いし、特異度も低いんじゃないのと囁かれてきました。

さらに抗体検査キットの中にはパチもんとも言えるものが混入していることも、新型コロナ抗体検査の立場を危うくしています。

パチもん抗体検査キットに気をつけよう、371人陽性でも感染者はたった1人!?

パチもん抗体検査キットに気をつけよう、371人陽性でも感染者はたった1人!?

某中国製の抗体検査キットは世界中で問題になっているんだよねえ。

抗体検査で陽性反応→PCR検査を受ける流れ自体は間違いではないように思えるけど

抗体検査はスクリーニング検査としては有効であるとの考え方もできます。感染初期に上昇する免疫グロブリンM (Immunoglobulin M、略してIgM)と感染して少し時間をおいてから上昇する免疫グロブリンG(Immunoglobulin G、略してIgG)の両者を測定するのが新型コロナ抗体検査キットの基本中の基本になっています。

スポニチの記事に従えば、まず最初に抗体検査キットでIgGが認められたそうです。このIgGの存在を確認するためには、新型コロナの抗原と同じ遺伝子構造を持ったタンパク質が必要になります。残念ながら世の中に出回っている抗体検査キットの中では、基本となる新型コロナに相当する抗原を提示していないものもあるのです。

「微陽性」判定を受けた2選手に使用された抗体検査キットがどのメーカーのものであるか、情報が開示されていないのでこれ以上の言及は避けますね。

期待された抗体検査キットであっても、感度・特異度は不明だし、正確さに欠けるものもあることは知っておいて損はないと考えます。

検査の性質として、特異度はかなり高いと考えて差し支えないです。PCRで陰性判定されたら、高確率で新型コロナに感染していないと判断できます(まあ、偽陰性問題もあるけどね)。ウイルスの遺伝子の残骸があれば、数分子の遺伝子の核酸を10億倍程度まで増幅するのがPCR検査の仕組みですから。

私が専門としている泌尿器科領域で前立腺がんの腫瘍マーカーとしてPSAというのがあります。基準値を超えたとしても「微前立腺がんです」なんて診断はしません。

間隔をおいて複数回PSAが高値が続けば、MRI検査を行い、そして前立腺針生検法によって病理組織を調べて初めて前立腺がん細胞が見つかることで、前立腺がんの診断をくだします。

抗体検査のあとに、確定診断をしようとこころみてPCR検査をしたら、結果は「微陽性」という不思議な判定がされたのです。

検査結果が「微陽性」、案外日本人には受け入れやすいかも。

結核に対して抗体があるのかを調べる検査方法で「疑陽性」という用語が使われます。「偽」ではなく「擬」である点に注意してくださいね。

「疑陽性」は結核菌感染によって得られた反応ではなく、結核菌以外の感染を示している可能性があるから、「擬」つまり「疑わしい」ってことです(疑陽性という用語は1954年に改定されて、現在では使用されていません)。

「微陽性」、医師が接したことがない新しい医学風用語、「擬陽性」あるいは「偽陽性」であれば、なんとなーくイメージは伝わってくるんだけどなあ。

スポニチの「微陽性」の定義は前掲記事ではこのようになっています。

判定は微量の遺伝子量を示す正常値ぎりぎりの「微陽性」

「微陽性」は医師では無い人にとっては逆に腑に落ちる検査結果じゃないでしょうか?

白黒はっきり決めることは大人の対応じゃないよ、との風潮が強いのが日本の社会の特徴であるかもしれません。

そんな日本人の気持ちを忖度した「微陽性」という新医学風用語、これから日本の医療業界を席巻するのでしょう⋯

「あ~っ、あなたの場合、2種類の検査結果から前立腺がんは微陽性ですね」

とか、

「そうそう、この前の検査結果、微陽性だったよ、良かったね」

あるいは、

「そうそう、この前の検査結果、微陽性だったよ、注意しないとね」

などの会話で将来の日本の医療現場の風景は大きく変わる可能性があります。

新しい生活様式の一つとして医療現場で「微陽性」が正式に採用されたら、医師と患者さんの間のトラブルに発生する可能性が多いとされる「言った、言わない。説明した、説明されなかった」問題の多くは解決するかもしれませんね。

著者プロフィール

桑満おさむ(医師)


このブログ記事を書いた医師:桑満おさむ(Osamu Kuwamitsu, M.D.)

1986年横浜市立大学医学部卒業後、同大医学部病院泌尿器科勤務を経て、1997年に東京都目黒区に五本木クリニックを開院。

医学情報を、難解な医学論文をエビデンスとしつつも誰にでもわかるようにやさしく紹介していきます。

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