男性向けメディアの「平熱を上げる方法とは?」が楽しすぎる。

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基礎体温を1度上げると免疫力があがって病気に強くなりさらに基礎代謝が約12%(?)上がってダイエットもスムーズになる「温活」系の情報はきっと目にしたことがあるはず。

体を冷やすのはよくないという情報と相まってもっともっらしく思えてしまう健康情報ですが、新型コロナ感染症対策で、体温を測る・計測される機会が増えた現在、平熱が高いことって本当によいこと?と疑問に思いませんか?

世の中にあふれる平熱を高くして健康にという情報の見方をちょっと変えてみましょう。

平熱を上げれば健康になる神話の医学的根拠はスッカスカ

世の中には体温をアップすれば健康になると考えている人が少なくないようです。例えば、普通は目にしないだろうけど、なぜか私の目に入ってきた素朴な疑問だらけの、こんな健康関連記事がありました。

平熱を上げる方法とは

https://www.olive-hitomawashi.com/selfcare/2020/06/post-608.html

体温に関して知らないことばかり、と断っておきながら

どうすれば平熱を上げることができるのかなど、体温に関して知らないことが多いのも事実だ。

と文章は続きます。

この「オリーブオイルをひとまわし」サイトは公称月間600万人が利用する国内最大級の男性向け料理系メディアとのことです。

私は以前から「体温を上げて免疫力アップ」的な記事を批判してきました。世間一般では、科学的・医学的根拠がスッカスカの理論であっても、次から次とトンデモ健康法が登場しています。

体温を上げることが健康につながる理論も医学的根拠が明確ではない健康法の一つとしていずれブームは去るだろう、と予想していたのが大間違い、トンデモ系医学方面では確固たる地位を築き上げていたのです。

平均体温は37.0度、これは何が根拠となっているのでしょうか?

へんてこな感染症パニックによって、久々に体温を測った人も多いでしょうし、日課の一つとして体温測定を取り入れているひとも少なくないと思います(当院では新型コロナ感染症禍の初期から全従業員は出勤時と退勤時の体温測定を義務つけています)。

体温は感染症罹患の目安であることは現在の医学では基本中の基本として話を進めます(そういえば、10年以上前に入院した時、毎朝の検温が鬱陶しくて病棟看護師長に文句を言ったことがあったっけ、ごめんなさい)。

オリーブオイルひとまわしは、まず体温の仕組みから懇切丁寧に解説してくれています。

人間の体温の平均は一般的に、36.9度前後(36.6~37.2度程度)のようだ。しかし、平熱は約37.0度ではあるが、体温は1日のうちにも上下している。

えええっ、平均の体温は36.9度前後と説明しておきながら、一行進むと37.0度になっちゃってるじゃん。

オリーブオイルひとまわしの平均体温の算出方法は

体温は36.9度前後から37.2度程度 → (36.6度 + 37.2度) ÷ 2 = 36.9度 、とかなり豪快な方程式から導き出されているようです。

さらに続く文章ではいきなり平熱(平均体温じゃないよ)は37.0度と定義して話が進んでいっちゃいます。

例えば血圧を考えてみましょう。家庭内で測定した血圧は最高血圧が135mmHg未満、最低血圧が85mmHg未満が基準値と日本高血圧学会は定義しています(一般向け「高血圧治療ガイドライン」https://www.jpnsh.jp/data/jsh2014/jsh2014_gen.pdf)。

平均血圧(?)を導き出すために 135mmHg + 85mmHg = 110mmHg

「はい、本日の平均血圧(?)は110mmHgですから、大丈夫ですよ」と医師に言われても、何が大丈夫なのか理解不能になるのが普通なんじゃないのかなあ。

検査結果の基準値を定める時は統計学的により正しい値を求めるために検査値の分布中央95%の区間を使用します。

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東京大学医学部附属病院検査部「基準範囲,臨床判断値ってなに?」(http://lab-tky.umin.jp/patient/kijyun.html)より

出てきた数字を足して、出てきた数字の個数で単純に割ることは医学で使用する統計学的なデータとしては意味がないのです。

強引に平熱を37度として話を進めちゃう理不尽さ

私は平均体温は36.9度だったはずなのに、なぜか平熱は37.0度である、として話が進んでしまうのだろう、と初っ端の数行で引っかかってしまいました。

私は朝のトイレタイムの健康関連情報サイトで面白いネタさがしが日課となっています。平均体温36.9度がいつの間にやら平熱37.0度で強引に話をもっていく気配の「オリーブオイルをひとまわし」サイトを開きっぱなしにしたiPad片手に手指消毒を済ませPCでじっくり、平熱を上げる方法を読み進めました。

人間の代謝は体温が上がると活発になるため、効率的な代謝が可能な37.0度程度を維持しているのだろうと考えられている。

とオリーブオイルをひとまわしは伝えます。

代謝が上がる → 体温が上がる → 効率的に代謝する体温は37.0度である

以上のロジックが平熱37.0度説の根拠のようです。

ここでオリーブオイルをひとまわし編集部の方にプリミティブな質問をさせてください

そもそもオリーブオイルをひとまわしで体温と定義している体温はどの部位で測定したものなんでしょうか?

体温は1日のうちにも上下していると述べられていますが、平熱37.0度は何時に測定したものなのでしょうか?

人間の代謝は体温が上がると活発になるそうですが、その「代謝」とは人体におけるどの代謝のことなんでしょうか?

などなど、たかだか文字数にして500字程度の文章中で疑問が活火山のように噴出してくるんだよなあ。

なーんだ、平熱を上げた方がよい理由はダイエット効果があるからか(笑)

オリーブオイルをひとまわし編集部がなぜ体温を上げることが健康につながるかを力説している健康関連記事に朝っぱらからイヤーな絡み方をしてしまった自分が馬鹿でした。

なんのことはない、平熱を上げたほうが健康に良い説が導き出したかった結論は基礎代謝量を上昇させて、ダイエット効果を期待して、なんですね。

確かに基礎代謝量は体温が1度上昇すると、13%増加する、との説は定説となりつつあります(厚生労働省「運動の基礎科学 」https://www.mhlw.go.jp/bunya/shakaihosho/iryouseido01/pdf/info03k-06.pdfなどより)。

しかし、これって信頼できる新しいデータを根拠としたものなんでしょうか?

私が日本の論文を調べた限りで、2000年代に入って、基礎代謝量と体温の変化を研究したものは見当たりません。

その時に関連論文としてこのようなものを見つけました。

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日本生気象学会雑誌「基礎代謝の季節変動について」(https://doi.org/10.11227/seikisho1966.24.3)より

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冬は寒いために人体組織を守るために、基礎代謝量が上がっていることがわかります。

基礎代謝量を上げるために体温が上がるのでしょうか?基礎代謝量を増やすために体温が上がるのでしょうか?

お風呂に入って体温を上げて平熱を上げましょう、が正しいとは思えない

オリーブオイルをひとまわしの記事では平熱を上げる方法として

とくに、体温を効率よく上げるのなら、運動や入浴がいいといわれている。もし意識的に平熱を上げたいのなら、これらの身体を温める行動を普段から行うようにするといいだろう。

と書かれています。

前掲のグラフを素直に解釈すれば

外気が寒ければ基礎代謝量が上がる

になります。

となると、入浴して無理に高温の環境を作れば基礎代謝量は下がってしまうのではないでしょうか?

あの〜、平熱を上げる方法の結論が理解できないのは私だけなんでしょうか

オリーブオイルをひとまわし編集部は平熱を上げる方法の結論をこのように導き出しています。

そもそも平熱は人によって異なるものだ。必ずしも低いから問題があるとはいえないので、もし平熱を下げてしまう行動をしているのなら、それらの行動を控えるなどの注意をするくらいでもいいかもしれない。

だははっ、そもそも平熱の定義あるいは測定方法あるいは平熱を導きだす計算式を教えてもらいたいし、初っ端では「平熱は約37.0度ではあるが」と書いてあるのに、なぜか結論では「一般的な人の平熱は37.0度くらいなので」と弱気になっているし。

最後はこのように「一般的な人の平熱は37.0度くらいなので」記事は終わってます。

必ずしも低いから問題があるとはいえないので、もし平熱を下げてしまう行動をしているのなら、それらの行動を控えるなどの注意をするくらいでもいいかもしれない。

おいおい、「血圧が高いから問題があるとはいえないので、もしも血圧を上げてしまう行動をしているのなら、それらの行動を控えるなどの注意をするくらいでもいいかもしれない」と医師が患者さんに伝えたらド叱られてるんだけどなあ⋯。

お気楽な健康関連記事は世界中が新型コロナ感染症禍の真っ最中であっても、着々と増加して拡散していくんだろうなあ⋯。

著者プロフィール

桑満おさむ(医師)


このブログ記事を書いた医師:桑満おさむ(Osamu Kuwamitsu, M.D.)

1986年横浜市立大学医学部卒業後、同大医学部病院泌尿器科勤務を経て、1997年に東京都目黒区に五本木クリニックを開院。

医学情報を、難解な医学論文をエビデンスとしつつも誰にでもわかるようにやさしく紹介していきます。

桑満おさむ医師のプロフィール詳細

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