アースジェットを噴霧するとギャーギャー騒ぐ人が、次亜塩素酸水は安全だと思う謎。

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普段の生活におけるウイルス対策として次亜塩素酸水がアルコール不足から注目されました。もともとはノロウイルスが流行がきっかけで次亜塩素酸水のスプレーがドラッグストアに並ぶようになりました。

キッチンまわりの除菌グッズとしてで、空間に噴霧するためのものではありません。

次亜塩素酸水が新型コロナ対策になるのか否か以前に使い方に問題ありです。吸い込むと人体に害がでる可能性が高いので、なんのための対策かわかりません。

これは殺虫剤を似たような使い方をするケースに当てはめると興味深いことが見えてきます。殺虫剤は吸い込んでも人間には害はないのですが、殺虫剤を噴霧することに対して嫌悪感を抱くのに、吸い込むと害があるであろう次亜塩素酸水の噴霧には安心してしまう、つまり、完全に誤った情報が蔓延しています。

新型コロナ感染予防としての次亜塩素酸水は効果が無いだけじゃないよ

空間除菌というワードが気になって、このようなブログを書きました。

クレベリンにはエビデンスがあっても、その信頼度には問題あり❗

クレベリンにはエビデンスがあっても、その信頼度には問題あり❗

アップした翌日に大幸薬品の株価が急落して、ちょっと焦りました。その後、株価は新型コロナ禍に乗じて右肩上がりのようなので一安心(※私は株は全くいじっていないけどね)。

クレベリンの大幸薬品の株価チャート

新型コロナに対してクレベリンの効果はかなり疑わしいのに、その後、次亜塩素酸水なるものがブームになっています。

クレベリン批判ブログに対して、苦情と言うか、かなり強い批判を頂いて、ちょっと萎えていた私は次亜塩素酸水批判まで手を広げてしまうと、「院長〜❗また、クレームの電話ですよっ❗当院的に1円の利益にならないブログはやめてよっ❗」とのスタッフに言われる可能性大なので控えていました。

話はちょっとズレます。ハエを退治するために、見つけ次第室内にアースジェットを噴霧する私を見て、スタッフが「院長、患者さんが吸い込んだらどうするんですかー、キッーっ」と詰め寄るスタッフも、感染予防の為の私の姿を見た時は怒りませんでした。

新型コロナ対策として院内を消毒する院長

噴霧と言うか散布してる薬剤は秘密(転売ヤーに利用されちゃうから。)、詳しく知りたい方は「消毒と滅菌のガイドライン」(へるす出版)等の教科書をお調べください。

そもそも次亜塩素酸ナトリウムと次亜塩素酸水は別物です

新型コロナ感染予防対策として、次亜塩素酸水が効果的、との話がネット上で話題になっていても、前掲の理由で余計なことは言わないようにしていました(スタッフと患者さんには説明)。

次亜塩素酸水が新型コロナに対して効果がないことは検証されていません、つまり効果があるんです、という不思議なロジックも出回っていたと記憶しています。

院内感染や医療崩壊の心配で、次亜塩素酸水の空間消毒効果なんてあるわけないし、人体に有害でさえあるんだぞ、とのブログを書く余裕がありませんでした。

やっとこさ、次亜塩素酸水が新型コロナの感染予防に効果がないことが公的にインフォメーションされました。

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経済産業省ウェブサイト(https://www.meti.go.jp/press/2020/05/20200529005/20200529005-3.pdf)より

もう一つ、亜塩素酸水に関してブログを書かなかった理由があります。このような記事を目にしたからです。

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日本ネット経済新聞「新型コロナ感染症禍 次亜塩素酸水の需要も急上昇/人気高まり売り切れ続出相次ぐ」(https://www.bci.co.jp/nichiryu/feature/1355)より。

どさくさに紛れてマルチ商法の商材になりかねないのでは。今回、次亜塩素酸水の新型コロナに対する検証を厚労省では無く、経済産業省が行った理由がこの記事を読んでいたので腑に落ちます。

医療機関では次亜塩素酸ナトリウムは使用しますが、次亜塩素酸水は使いません

次亜塩素酸水ナトリウムと次亜塩素酸水、似たような名称ですが、この2つは大きく違っています。

次亜塩素酸ナトリウムは化学式でNaClOと表します。Na (ナトリウム)とCl (塩素)とO (酸素)で構成される物質です。実際に医療機関で次亜塩素酸ナトリウムはウイルスに対する消毒薬として使用されています。

そもそも化学式だとHClOと表す次亜塩素酸が不安定なために、ナトリウムとプラスして安定させているものが、次亜塩素酸ナトリウムなのです(ここまでの説明、大丈夫でしょうか?)。

身近にある次亜塩素酸ナトリウムとして、塩素系漂白剤と呼ばれるものがあります。塩素系漂白剤にはかならず「混ぜるな危険」と表示されていることはご存知だと思います。

その理由は次亜塩素酸ナトリウムに酸を加えると塩素が発生してしまうからです。第一次世界大戦はそれはそれは悲惨な戦いでした。ドイツ軍と連合軍は戦争の早期に決着を付けたいために、非人道的な兵器をどんどん開発しました(それによって科学が大きく進歩した件は今は不問)。

ドイツ軍は人類史上初の毒ガスを使用しました。その時の毒ガスが塩素ガスです。

次亜塩素酸ナトリウムに酸(例えば塩酸)を加えると次のような化学反応が起きます。

NaClO + 2HCl → NaCl + H2O + Cl2

ここで出てきたCl2が塩素ガスであり、毒ガスにもなり得るものなのです。

塩素系漂白剤と酸性(トイレの洗浄剤等で塩酸が使用されています)の洗剤を併用してはいけないことは理解できましたよね。

次亜塩素酸水は上記のようなリスキーな方法で得られたのではなく、電気分解によっても得ることができます。

電気分解で次亜塩素酸水を作る方法は、誰でもが安全だと考えている食塩を利用しています。そこでは次のような化学反応が起きています。

陽極:2Cl → Cl2 + 2e

陰極:2H2O +2e → H2 + 2OH

陰極で発生した塩素は

Cl2 +H2O → HCl+ HClO

と化学反応は続きます(実際にはHCl+ HClO → Cl2 +H2O も起こっています) 。

この化学反応で得られたHClOが次亜塩素酸、HClは塩化水素です。気軽に塩化水素です、って書いたけど、ちょっと怖いかも。水に溶けると塩酸だもんね。逆の反応だと塩素ガスも出ちゃいます⋯噴霧して使用したら人体への害を考えるべきです。

次亜塩素酸はH (水素)とCl (塩素)とO (酸素)で構成されていて、不安定なために単独では存在できないため、通常溶液として使用されています。

次亜塩素酸ナトリウムと次亜塩素酸水が全く別物であること、これでおわかりになったでしょうか?

メモ

医療機関でも消毒に使われている次亜塩素酸ナトリウムでさえ、噴霧して空間除菌なんて使用方法はありえません。アルコールを噴霧して使っていないのと同じようにね。

次亜塩素酸水は食品の殺菌に使われているけど⋯。

2002年から次亜塩素酸水は食品添加物として認可されて、給食をつくる現場では野菜の洗浄に使用されています。

そもそも次亜塩素酸水を食材の洗浄に使用する目的は食中毒の原因となる細菌を減らすことです。細菌とウイルスは全く別のものである点が次亜塩素酸水が新型コロナに対して効果がないことを理解する上で重要です。

次亜塩素酸水は細菌を減少させる効果があるんだから、ウイルスを不活化させる効果もあるんじゃないか、と考えるのは当然ですよね。

だからこそ、次亜塩素酸水が本当にウイルスを不活化する効果があるのか、ウイルスで汚染された空間を綺麗サッパリにするのかを検証した結果が前掲の経済産業省の見解であり、今回メディアにおおきく取り上げられたニュースです。

次亜塩素酸な水は食品の細菌を減少させても、空間除菌(まあ、ウイルスに対して除菌ってのもへんな言葉だけど)効果は無いよ、です。

アースジェットの正しい使用方法は室内に撒き散らす、だよ

ハエや蚊を退治する薬剤としてもっともポピュラーなのはアースジェットだと独断します。時々入り口からハエが院内に飛び込んでくることがあります。

ハエを見つけた多くのスタッフは直接ハエを狙ってアースジェットを噴霧します。ハエの逃げ足が早いため、ハエを追っかけ回して、結局のところ室内全体にアースジェットが拡散されちゃうんだけなあ⋯。

私はハエを見つけ次第、ハエが飛び回りそうなとことにザア〜っとアースジェットを吹きかけまくると、「院長、殺虫剤を吸い込んだらどうするですかあ〜、キッ〜」って睨まれのです。

だってさあ、アースジェットの使用方法には

噴射レバーを引き、室内のハエ、蚊には、6畳(約10㎡)につき、約5秒間噴射するか、直接噴射する

としっかり書いてあるじゃん。

それに殺虫剤ってピレスロイド (pyrethroid) が主成分であって、ピレスロイドって直接大量に吸入しない限り人体には無害なんだよ。害があったとしても皮膚や目に刺激性程度(「Pyrethroid Poisoning」(PMID: 32021002)や「Synthetic Pyrethroids: Toxicity and Biodegradation」(Applied Ecology and Environmental Sciences, 2013 1 (3) )などより)。

結論

アースジェットはハエに有効だけど、人体には安全(量にもよるけど)、一方で次亜塩素酸水は細菌に有効、噴霧してもウイルスには安全(つまり、効果なし)です❗

著者プロフィール

桑満おさむ(医師)


このブログ記事を書いた医師:桑満おさむ(Osamu Kuwamitsu, M.D.)

1986年横浜市立大学医学部卒業後、同大医学部病院泌尿器科勤務を経て、1997年に東京都目黒区に五本木クリニックを開院。

医学情報を、難解な医学論文をエビデンスとしつつも誰にでもわかるようにやさしく紹介していきます。

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