手術は、切る・メスを使うものというイメージがあると思います。そしてセットで連想されるのが入院でしょう。
手術・入院になったら生活や仕事に少なからず影響しますから、病院の検査・受診を躊躇してしまう・まだ大丈夫と我慢する人は少なくないはずです。切らないし入院の必要もない、ということでしたら重い腰をあげてくれると思うのです。
そこで、泌尿器疾患で最も患者数が多い前立腺肥大症、切らずに治す日帰り手術について紹介します。
本記事の内容
前立腺肥大症を切らないで治療する方法があります
前立腺肥大症の治療方法は大きく分けて薬を服用する治療方法と手術をする治療方法です。ユリーフ(一般名シロドシン)が登場して、前立腺肥大症の治療は大きく変わりました。ユリーフはハルナールやフリバスと比較して圧倒的に前立腺肥大症の諸症状を改善できるからです。
しかし、ユリーフを服用しても効果がいまいちの方も少なくありません。そのような場合の次の選択肢は手術になります。
手術は次の3つが代表的で、保険治療が可能です。
●経尿道的前立腺切除術(Transurethral Resection of Prostate、略してTUR-P)
⋯古典的な手術方法ですが、出血のリスクがあります。
●ホルミウムレーザー前立腺核出術(Holmiumu Laser Enucleation of Prostate、略してHoLEP)
⋯出血が少ない利点があります。
●光選択的レーザー前立腺蒸散術(photoselective vaporization of the Prostate by KTP laser、略してPVP)
⋯海外ではこの手術方法が主です。
ただ、入院が原則必要であり、気軽な手術方法とは呼べませんし、どちらにしても「切る手術」であることに変わりはありません。
しかし、入院する必要がなく、実際には切らないで前立腺肥大症を治療する手術方法があります。
それが今回ご紹介する「メモカス」を使用した尿道ステント留置術であり、前立腺肥大症の症状を改善する日帰り手術です。
メモカスという医療機材を使用した前立腺肥大症の治療方法をご紹介します。
前立腺肥大症の切らない手術、かなり怪しい響きがありますけど⋯
切らない手術を名乗ることは、様々な誤解を招くために医療系の広告で使用することは禁じられています(特に美容系の治療)。しかし、メモカスを使った前立腺肥大症の治療はどう見ても手術に分類されますし、人体にメスを入れないので、切らない手術、って考えたほうがイメージしやすいはずです。
前立腺が肥大することによって、尿の通り道が狭くなることによって、前立腺肥大症の症状があらわれるのです。前立腺肥大症の症状として、頻尿、尿が出にくい、尿の勢いが悪い、排尿してもスッキリしない、実際に膀胱内に尿が残る、などがあります。
入院して切る前立腺肥大症の手術のそもそもの目的は尿の通り道を確保することです。入院の必要が無い、メモカスを使った前立腺肥大症の治療も同様に「尿の通り道を確保する」ことは上図のように可能です。
そもそも「メモカス」って何?
メモカスは正式には「Memokath」と書きます。メモカスはニッケルとチタンによって構成される合金を使用したコイル状の管です。この管を尿の通り道に留置することによって、尿が出にくいことが原因となっている諸症状を軽減する治療方法であり、健康保険適用となっています。
メモカスは形状記憶合金なので、冷たい水をかけると軟らかくなります。
前立腺の肥大によって狭くなった部分に軟らかくなったメモカスを内視鏡で留置して、50度以上の熱することによって、コイル状にメモカスは形状を変えます(これが形状記憶合金の特徴です)。
形状記憶合金として、記憶させられた形状になったメモカスは前立腺内でコイル状の内腔を維持することによって、尿の流れを確保することが可能になります。
前立腺肥大症を根本的に治療する方法としては、前掲の切る手術であることは泌尿器科医の99.99%が認めるゴールドスタンダードです(99.99%は実際に調べたものじゃないけどね)。
しかし、腰椎麻酔が必要ですし、出血が伴いますし、感染のリスクもあるために数日間入院するのが日本では基本になっています。
前立腺肥大症はかなり高齢の方が多いために、仕事を離れている方が大多数だったのですが、現在では高齢であっても現役バリバリの男性も多いですし、入院することがリスキーであると考える方も多いのではないでしょうか(この記事を書いているのが2020年5月である点にご留意ください)。
さらに高齢になると心血管系の疾患などの持病があり、手術自体がリスキーであると考える医療関係者もいなくはないです。
繰り返しになりますけど、ユリーフの登場によって前立腺肥大症の薬物治療は大きく前進しました。しかし、ユリーフを試しても排尿困難という前立腺肥大症の症状が解決しない方も少なくはないのです。
メモカスを使った尿道ステント留置術が適した方
前立腺肥大症治療のゴールドスタンダードである切る手術を希望しても、リスクとベネフィットを比較して、「やっぱり、手術はやーめた」と判断したり、診断されることがあります。
前立腺肥大症の手術をする時は腰椎麻酔が必要となります。しかし、腰椎ヘルニアや脊柱管狭窄症や腰椎の圧迫骨折がある場合、腰椎麻酔が困難であると判断される症例が無くは無いです。
じゃあ、全身麻酔で前立腺肥大症の手術をするとなると、高齢であるために呼吸器系や心血管系の持病があり、全身麻酔を使用した場合のリスクと前立腺肥大症の手術をして得られるベネフィットを比較したら、手術はしないほうが良い、と判断が医師によってくだされることもあります。
また、患者さん自身もそこまでリスクを冒してまで手術はちょっとねえ、と考えることも当然あります。
入院しないで前立腺肥大症を治療する方法を再認識しました
当院泌尿器科では泌尿器系のがん治療も行っていますが、患者さんで一番多いのが女性は過活動膀胱であり、男性は前立腺肥大症です。
前立腺肥大症の治療としてユリーフ等による薬物治療が、いつの間にやらなんの疑いもしないで継続されていきていました。
ところが、昨年そして本年は前立腺肥大症の薬を飲んでいながら、尿閉となってしまった多数の患者さんが当院を受診されました(当然、当院は初診)。
前医と同じような薬物治療を中心として対応しても、また尿閉を起こしてしまうのではないかと心配される患者さんが多いことに驚かされました。
複数回尿閉を繰り返した患者さんが次に選択する治療方法は前立腺肥大症の手術です。しかし、本年2020年は年初より新型コロナの感染拡大騒動によって、患者さんは入院したくないし、入院手術をおこなっている基幹病院は前立腺肥大症の手術は後回し、という状況が生み出されてしまいました。
当院では10数年前にメモカスを使った前立腺肥大症の手術をボチボチ、少数例ながら地道に行ってきました。
昨年、当院のウェブサイトを大掛かりにリニューアルした時に、医師の紹介ページを見て、「ああ、そういえば、うちって泌尿器科医が大人数いるんだっけ」と再認識しました。
前立腺肥大症患者さんが増加した、尿閉を起こした初診の患者さんの増加、当院の泌尿器科医の充実度、入院したくない患者さんの増加、それらの複数の理由によって、10年以上前から細々と行っていたメモカスによる前立腺肥大症の治療方法をご紹介することにいたしました。
切らないで済むし、入院する必要もないし、大掛かりな麻酔をしないでも治療できるメモカスによる尿道ステント留置術も、それなりの欠点はあります。
●メモカスを尿道に留置しても、定期的に入れ替える必要があります。
●メモカス留置によって膀胱炎や前立腺炎を起こすことがあります(当院では今まで1例)。
●切る手術に準じる治療のため、治療費は保険適用であっても少々高額です。
メモカスを使った治療が自分に適用できるか、当院を受診したいけど遠いからなあ、と躊躇している患者さんはぜひ、オンライン診療をご利用していただけると幸いに存じます。