遺伝子治療というものもありますが、今回は診断に役立っている遺伝子検査について、そして悪徳業者が紛れ込んでいる「遺伝子ビジネス」について考えてみます。
病気の診断に遺伝子検査は画期的な役目を果たしている
遺伝子検査というと元アイドルが実子と思って暮らしていたら実はよその男性の子供だった、ってことをマスコミにリークしたことが一時話題になりました。芸能ネタには疎いのでコメントはいたしませんけど、アンジェリーナ・ジョリーが遺伝子検査によって乳がんのリスクが高いことがわかったために乳房切除に踏み切ったことは多くの方もご存知でしょうし、医療関係者の間でも賛否がありました。私の専門の泌尿器領域でも前立腺がんのリスクが遺伝子によって判明しますので、英国人男性がガンのリスクを予防するためにガンが発症していないのに前立腺がん手術を受けたこともブログでご紹介しました。「遺伝子検査」が広く知られるようになったために「遺伝子検査ビジネス」と呼ばれる業種が出現してきたために、経済産業省も注意を促しています。
平成24年度中小企業支援調査 より コチラには具体的な業者の名前も書いてありますので、ご興味のあるかたは是非ごらんください。
遺伝子検査で異常無しなのに肺がんだった❗
遺伝子検査で100%異常が見つかると思い込み、あるいは思わせる様な広告が特にウェブ上に目立って来ています。遺伝子検査の問題点として「がんの早期発見」と「陰性と出たのに実はガンがあった」、さらに「二つの検査機関に依頼したところ違った結果がでた」などの報告があります。現代医療は万能ではないことは多くの方が認識している(だから民間療法なかにはインチキ民間医療もある)と思いますが、「遺伝子検査」と言われてしまうとなんとはなしに検査結果に間違いはないだろう、と考えて当然です。泌尿器科領域ですとクラミジアという性病の検査でPCRと言う方法を使用して、以前は尿道に綿棒をツッコンでクラミジアの有無を調べていたのですが、現在では尿中のクラミジア遺伝子を検出することで、患者さんの痛みに対する負担を軽減しつつ検査精度を高めることが可能となっています。
今回問題となっているのはこのようなものではなく、ガンや糖尿病になる可能性がある遺伝子があるか?肥満やアルコール依存体質か?などの病気の予測を調べる遺伝検査を遺伝子ビジネスと呼んでいます。なかには運動能力や芸術性を暗示する遺伝子を調べるものさえ有るようですが、個人的にはこれって未来に対する希望を失わせたり、子供の夢を摘み取ってしまうようで賢明な方は利用しないと思いたいです。
遺伝子検査市場は拡大していくことが予想されています。
医療機関以外でもこの遺伝子ビジネスの乗っかった遺伝子検査は薬局やネットからも申し込み可能でこれが問題を起こしていると考えていたら、医療機関で検査した場合も問題が発生していました。医師でさえ遺伝子に詳しい人って極限られていますので、検査はしっぱなしというトンデモない医療機関の例も経済産業省および国民生活センターに報告されています。「遺伝子のことはあまり知識がないんで、検査結果を上手く説明できない」って医師なら勉強しろよ!自分で理解できてない検査なんてすんなよ❗怒
当院にも「遺伝子検査を取り入れませんか」的なお誘いのDMやメールが毎日送られて来ますが、即刻ゴミ箱行きです。別に遺伝子検査を理解していないワケではありませんし、当院所属の医師の中には遺伝子をテーマに大学で研究中のものもいますが、将来の病気を予想する遺伝子検査の必要性を現時点では特殊な病気以外には認めていません。
家族で特殊な病気になった方がいる場合は遺伝子検査は有用ですが、アンジェリーナ・ジョリーのような乳がんのリスクが高くなる遺伝子を持っている日本人はかなり少ないですし、当院の専門の泌尿器領域の前立腺がんにリスク遺伝子検査は日本人の場合は必要ないと判断しているからです。国民生活センターには遺伝子検査で「肺がんのリスク遺伝子は認められなかったのに肺がんだった」という遺伝子検査の限界を事前に説明しておけばあり得ない相談が持ち込まれています。
肥満遺伝子があるのでダイエット治療をしましょう⁉
悪徳遺伝子ビジネス業者と医療機関あるいは痩身専門エステによる「肥満遺伝子があるので将来に備えてダイエット治療をしましょう!」なんて強引な契約をさせられそうになったなんて話も伝わっています。
さらにそんな悪徳業者のタッグは言うでしょうね「糖尿病の遺伝子もありますから、今のうちにダイエットしないと命にかかわりますよ」なんて。遺伝子検査は自分がどのような生活習慣を改めた方いいかという指針にはなるでしょう、しかし、どこまで遺伝子検査の結果が貴方の未来を予想するかのエビデンスのある確率が出されているものは一部であるということ知っておいてください。
遺伝子検査を行っている業者にクレーム受けるかも?
先日「酵素ダイエットビジネス」に対してブログを書いたところ、ある団体から強烈なクレームを受けました。全うな医学では否定されている「酵素食品による健康法」はゴクゴク可能性としては低いのですが賛否があってもいいと思います(もちろん否が大多数ですけど)、でもその販売方法は自らネットワークビジネスと言っている業者さえあるのですから、議論の余地はありません。今回取り上げた「遺伝子検査」ですが、医療で実際に活用されている反面、十分なエビデンスのないものに対しての診断(診断は医師以外には許されていません)や全く必要ないと思われる検査も遺伝子検査ビジネス業者は行っています。あえて私が具体的な業者名を挙げなくても近いうちに行政が対応してくれることを期待します。酵素栄養学系の方への対応だけでイッパイのところに、遺伝子検査ビジネス系の方まで苦情を頂いたら私本業である診療ができなくなってしまいますので(泣)。