酵素栄養学ってご存知でしょうか?酵素を含む食品を食べると健康になるという説の裏付けとなる考え方です。酵素が体にいいらしい、という話が変だと連続してブログに書いておりますがこの常識外の未知の領域に入り込んで後悔しています。
本記事の内容
酵素食品が体に良い、ことを裏付けるらしいトンデモ系の本を見つけました!
「酵素健康にいい説」を理論的に説明してくれるかと期待して購入した「長生きの決め手は「酵素」にあった」という酵素栄養学(?)の権威とされる鶴見隆史医師の著作(河出書房新社)は私を異次元の世界にぶっ飛ばしてくれました。多分、本年ベスト3に入ることが決定的な「トンデモ本」なんです。近藤誠医師は数字の間違い、統計学的弱者ぶりがみなぎる「勘違い本」で済ませられますが、今回の鶴見センセイのものは生化学および医学の常識を覆す内容です。まず、2ページ目に
「酵素は長生きに絶対的に必要な9番目の栄養素である」
とありますが栄養学的には三大栄養素として炭水化物、たんぱく質、脂肪が挙げられます。残りの栄養素としてビタミン、ミネラルを加えてやっと5つ、栄養があるかどうかは別にして生命維持に必要な水を加えて無理矢理6つまで到達しました。あと残り3つがどうしてもわかりませんが、ページを進めるとありました、9大栄養素が「炭水化物、タンパク質、脂肪、ビタミン、ミネラル、水」ここまではOKですが、「繊維(?)、ファイトケミカル(??)、酵素」ということになっているそうです、酵素栄養学では。今までカロリーが無いとされていた食物繊維も若干カロリーがあるのがわかって来ましたので栄養素に加えてもいいかもしれません(別にカロリーの有無で栄養素が決定されるワケではありませんけど)。
ファイトケミカルは本当は「phytochemical」ですので「フィトケミカル」が正しい日本式読み方だと思われますが、ファストフードがファーストフードと読まれる場合もありますので、ここは目をつぶってやり過ごします、と思いました。が、ファイトケミカルっていつから栄養素に加えられたのでしょうか?フィトケミカルを栄養素に加える派閥等が有るのかもしれませんけど、少なくとも一般医学ではフィトケミカルは栄養素とは考えられていません。
酵素栄養学における要の9番目の栄養素「酵素」を栄養素と考えるのはあまりに無理があります。通常あるいは正常に考えられている栄養素は生命を維持して行くために必要なものを指すので酵素自体は必須の成分ですが、体外から取り入れる必要性はゼロです。なぜなら、
人間に必要な酵素は、人間の細胞内で遺伝子の塩基配列によって合成される
という生化学の大前提をどこかに消し去ることによってのみ
「酵素栄養学」という新しい学問??
が始まるのでした。
つまり、食べ物として取り入れなければならないものに「酵素」は含まれません。
酵素栄養学はあなたの寿命は「酵素」に左右されると主張しますが、左右されませんって!
冒頭から飛ばしてくれますので、その場で本を閉じるのが賢明な処置なのですが、せっかくAmazonで821円で購入した元は取りたいので勇気を振り絞って読み進みました。ところでこの本が大ベストセラーとあるサイトに書かれていましたが、私が数日前に手にしたものは何とラッキーなことに「初版本」でした。たまたまAmazonの在庫に初版本が含まれていたか、再版されなかったかのどちらかは不明です。第一章は
『あなたの寿命は「酵素」に左右される』
となっています。人間は一生のうちに生産することができる酵素の量が決められているので、足りなくなった酵素を食品類から取り入れましょう!と誘導する理論構成になっています。酵素は人間の細胞内で作られるという点では常識的な医学・生化学と鶴見センセイの見解は一致しているので一安心です。ところが酵素は毎日作られる一方で消化代謝で大量消費されているので、食品として酵素を摂らんといかんよ、という理論構成に途中で変わって来ます。さらに本の後半では「150年分の酵素を持って生まれてくる」って書いてありますので、前半と後半の主張が矛盾しています。
酵素が150年分も体内のどこかに密かに隠されているのなら、体内で大量消費されたらそこから補ってくれそうなものですが、なんて意地悪な貯蔵酵素なんでしょうね。さらに不可解な用語が飛び出して来ました、「消化酵素」と「代謝酵素」です。酵素は生命活動における触媒の働きをしますので、この二つにざっくりと別けることは無理です。
アミノ酸っていつから21種類になったんですか?
このブログをお読みの方も頭が痛くなってきたと思いますが、本を読む速度には自信のある私でも200ページ程度のこの本と格闘すること12時間で頭が痺れて来ました。なんとか理解しやすいように表現しようにも独自の用語を振り回す内容の著作ですので、ひょっとしてこんな用語があるんじゃないか、と不安に襲われ教科書およびネットで調べながら、読み進め、理解しようとかなり努力しました。でも無理でした。
なんの医学知識や生化学的知識をお持ちで無い方は逆にさらっと読み流すことが可能なのかもしれません。
やっと、この酵素栄養学のバイブルの独創性がみなさまにわかりやすい部分を見つけました。128ページに「21種類のアミノ酸は総合的に伝達しあい⋯」とサラッと書き流しているんですが、タンパク質を構成するアミノ酸っていつから21種類に増えたんですか??医学部で学ぶ生化学ではアミノ酸の種類を憶えるのがマスト事項(http://newmawari.s10.xrea.com/rika/bio/aminoacid.htm)ですので、医師ならこのアミノ酸の名前を暗記するために四苦八苦したはずです。20種類でも苦労したのにこの鶴見医師は21種類も憶えたんですね、ご苦労さまです。でもセンセイは間違って暗記したんじゃないでしょうか?「グリシン」と「トレオニン」が抜けています、ということは新たな新発見のアミノ酸が加わっているはずです。有りました、有りました謎の3つのアミノ酸?が
「オルニチン」と「レクチン」と「グリシニン」
レクチンとグリシニンはアミノ酸ではなく、タンパク質なんですけど。オルニチンがアミノ酸に加わっていますが、このアミノ酸はタンパク質を合成するために存在するわけではなく「遊離アミノ酸」と呼ばれて単体で存在しているのです。
このように読み進めれば読み進むほどに異次元空間に放りだされる感イッパイになる鶴見先生の「長生きの決めては酵素」本ですが、これを理論武装に使用している酵素食品系業界の方は理解できているのでしょうか?ぜひ一度酵素栄養学系のセミナーなどにお邪魔してみたいと考えています。
2014.06.20 10:36 今回のブログの文章が変との意見がありましので、若干内容を変更しました。対象とした本の内容自体がメチャクチャなんで、ブログが変な文章構成になったことをお詫びいたします。