抗インフルエンザウイルス薬ファビピラビル(商品名:アビガン)が新型コロナの治療薬として期待できるとしてメディアを賑わせていますが、懐疑的な見方をする専門家も多数いらっしゃいます。
自称感染症の専門家の乱立で、どの医療関係者の言質を信じれば良いのか、迷っているお父さん・お母さんも多いことと思われます。午前中のワイドショーではぶっちぎりの視聴率を誇る番組におけるアビガン推しに対して、医師として疑問に思う点をあげてまいります。
本記事の内容
効果が現時点で不明なアビガンを一押しする岡田晴恵教授、大丈夫かあ⋯
私が個人的に注目している某モーニングショー(これって固有名詞かなぁ)でレギュラー化している感染症の専門家と思われている岡田晴恵教授という方がいらっしゃいます。
私が岡田晴恵教授に注目している点は以下の3点。
①岡田晴恵教授って、医師でもなければ、薬剤師でもないし、医学部教員でもないじゃん。
②岡田晴恵教授って、初期の頃から「PCR検査をやりまくれ〜!」的な考えを強く主張していたよね。
③岡田晴恵教授って、とにかく早くアビガンを投与すれば新型コロナの重症化は防げて、死亡者も減る、と解釈できる発言をしていたっけなあ。
①に関しては、感染症とにウイルス感染症の専門家でなくても、正しくわかりやすい説明を視聴者できる能力を備えていれば問題なし(この方は問題あり)。
②に関しては、今となってはPCR検査をやりまくらなかった日本の対新型コロナ対策が大間違いでは無かったことが、世界各国から注目されているので、今回は不問(この方はまだ「PCRを❗」って言っているけど。
私も周囲の医師も気になって気になって夜も眠れなくなってしまっているのが③のアビガンは果たして早期投与によって新型コロナ感染症(正しくはへんてこな感染症)の重症化を防ぎ、死亡者を減らすことが真実であるのか?という点です。
あたかも自分も医療関係者のようなイメージを植え付ける岡田晴恵教授の「アビガン早期承認指示非常にありがたい」発言、これも気になります。
芸能面のカテゴリーに入れているスポニチに敬意を表します。
アビガンは新型コロナ感染症は効果がないかも報道
一昨日の深夜にこのような報道がありました。
私が第一報に気がついたのは共同通信が2020.5.19 23:58に報じたものでした。
この記事はちょっと誤解を招く表現であったことは、賢明なる読者が多いはずの私のブログのファンの間では知られたことです(詳細は後述)。
そもそも、新型コロナ感染症に関して、アビガンの有効性を判別するために、藤田医科大学が中心となって研究が行われています。
アビガンの有効性に関して検証済みでは無い、だからこそ治療効果等についての研究がすすめられているわけで、岡田晴恵教授の
アビガンを持たせると。症状が出てきたからには、もう副作用は分かっているでしょうから、こういうことでちゃんと守ってあげると。院内感染で亡くなるとかっていうことがないようにお守りいただきたいと思っております
前掲のスポニチ記事
との発言はなにを裏付けとしてのものであるの、それなりに勉強している医療関係者は疑問を抱いてしまうのです。
私はアビガンが有効ではない、といい切っているわけでは無いことをご理解ください(詳細は後述)。
アビガンはひょっとして、新型コロナに効果があるかもしれない、が正解なのでは?
大学教授であり、毎日のようにテレビでお目にかかる新型コロナの専門家に見えてしまう方が、新型コロナ感染症の治療に効果ある、と述べてしまうと一般の方は疑いもしないで信じてしまいます。
そもそも、アビガンが新型コロナ感染症へ対する効果が期待されたのはこの論文が元となっています。
「Experimental Treatment with Favipiravir for へんてこな感染症: An Open-Label Control Study」(https://doi.org/10.1016/j.eng.2020.03.007)。
医学論文を見慣れている人は論文が掲載された「Engineering誌ってなんじゃ?」と感じたはずです。
この研究自体もかなり不思議なものになっています。新型コロナに効果があるのではないかと予想されたアビガン(FPV)とカレトラ(LPV/RTV)をランダムなグループに振り分けるのではなく、1月の終わりに中国の医療機関を受診した人にはカレトラを、2月に受診した人にはアビガンを投与しています。
この結果として、アビガンが新型コロナ感染に効果があるのではないか、との予想(あくまで予想)がなされたのです。
しかし、この論文は数奇な運命をたどります。2020年3月18日にネット上に掲載されたこの論文は4月になってから撤回されていたのです。
一般的に一度掲載された論文に何らかの不備があった場合は訂正されることがあります。訂正はうっかりミスレベルの修正でリカバリーしますが、この論文は「withdrawn」つまり「撤回」されていたのです。
論文の撤回、これが意味するところは研究者にとってはかなり不名誉なことのはずです。
さらにこの論文が数奇な運命をたどったのは、現時点では再びオープンアクセスとして誰でもが見られる環境になっていることです。
なにか大人の事情があったのでしょうか?これが不思議で不思議で。知人の薬学や医療統計学のプロである五十嵐中横浜市立大学准教授に「この論文って、撤回されていたよね?」と尋ねてみたところ、このnoteを教えていただきました。
論文の結果の表現は撤回前と再掲載後では違っています。
●撤回前⋯「今回の研究結果は新型コロナ感染症治療ガイドライン作成で重要である」
●再掲載後⋯「今回の予備的な結果は新型コロナ感染症の治療で有用な情報である」
どうでしょうか、微妙な表現の違い、これって実はかなり大きな差があるんじゃないの、と感じたのは私だけでしょうか(除く五十嵐中准教授)。
医師および医学生などの論文を読み込む力がある人は私より格段の信頼性がある、五十嵐中准教授のnoteを参照してね。
アビガンは早期投与すれば、重症化しないし、死亡リスクも下がるのか?
岡田晴恵教授がつよく主張するアビガン投与、そしてアビガンの早期投与は根拠のある話なのでしょうか?確かにデータはありますし、エビデンス(論文ベースの根拠)はあります。
しかし、データがあろうとエビデンスがあろうと、アビガンの有効性は確立されたものでは無いのです。
今回、有効性なし、と報道されたアビガンの研究はこのようになっています。
研究名称:SARS-CoV2感染無症状・軽症患者におけるウイルス量低減効果の検討を目的としたファビピラビルの多施設非盲検ランダム化臨床試験
臨床研究実施計画・研究概要公開システム(https://jrct.niph.go.jp/detail/6661/jRCT/1)より
この研究はまだ途中なので「有効性示せず」と言い切るのは間違いです。
●もしも、めちゃくちゃアビガンが有効であることが中間報告で判明していたら、この研究は終了することが求められるはずです。
なぜなら、アビガンが投与されなかったグループの人々にとって不利益な研究となり倫理的に大きな問題が発生してしまいますから。
●もしも、アビガンがめちゃくちゃ副作用があった場合もこの研究は終了することが求められるはずです。
これは当たり前ですよね。
現時点でアビガンの研究はNHKが報じるように「有効性判断には時期尚早 臨床研究継続」が正しいと考えます。
話は戻ります。
岡田晴恵教授、アビガンが有効であり、医療従事者に持たせるべきだとの主張の裏付けとなるデータあるいはエビデンスあるいは根拠が現時点で存在するなら、ぜひお示しくださいませ。