シワの治療にボツリヌス菌由来の注射薬が使用されて15年以上が立ちました。
有名な薬としてはアメリカのアラガン社の「ボトックス」ですが、神経の伝達経路を止めることによってシワを作れなくするメカニズムの応用として「多汗症治療」にも以前から使用されていました。脇汗つまり「腋窩多汗症」になんと健康保険が使えるんですよ❗
自由診療の薬が保険適用になるのはなぜ??
以前、EDの治療薬が前立腺肥大症にも効果があるために「厚労省がED薬を保険適用に?!」になんてブログを書いてしまい、ある筋から厳重な注意を受けた私ですが、今回のボトックス治療が保険適用になった不思議な構図をご紹介します(たぶん、またある筋から怒られるでしょうけど)。
単にワキから汗がでるのは誰でも体温を調整するためなのですが、異常に多量の汗がワキから出る場合を「腋窩多汗症」と呼びます。腋窩多汗症でも原因となる病気が有る場合を続発性多汗症、原因がないのに多量のワキ汗をかいてしまうものを「原発性多汗症」と呼んでいます。医学で原発性というのは多くの場合は原因不明を意味しますし、他にも「本態性」なんて言い方もすることは豆知識としてメモっておいてください。笑
単に汗っかきだから、という理由ではお役人が健康保険の適用にするわけありません。汗をかく人はこんな深刻な悩みを抱えているんです。
・ワキ汗でびしょびしょになった洋服を人に見られたくない
・汗の臭いがわきがのようの周囲のひとにおもわれているんじゃないか
この二つが大きな問題となって人前に出たくない、という深刻な問題に発展してしまうのです。学生であれば不登校、仕事をしている人だと長期休暇につながるために、治せるものなら健康保険で治療できるようお役人的には大英断をしたのです。
多汗症治療の色々
今までにボトックスを使用しない方法としては
・塩化アルミニウムを主成分とした塗り薬や制汗剤の使用を促す
・神経を遮断する様な抗コリン剤と呼ばれる飲み薬や漢方(取りあえず的に使われていたこと多し)
・神経を切断する手術
がありましたが、塗り薬は効果が長時間続きませんし、飲み薬の効果が抜群に現れた症例は少なくとも私は経験していません。手術は内視鏡を使ったテクニックが必要とされる治療のためと「汗くらいで手術って言うのも」という患者さんの声もあり、あまり普及していませんでした。一回の治療で一生効果が持続するワケではありませんが、「ボトックス」の知名度とともに安全性も広く知られるようになったために、ボトックスによる多汗症の治療を選択する方が多かったのです。しかし、保険外の治療であるために高額な出費が必要だったところに厚生労働省が患者さん思いの優しい決断をくだして、今回の「腋窩多汗症の健康保険適用」となったのです。
不可解な分かりにくい製薬会社の動き
以前、ボトックスで有名なアラガン社がシワの治療を普及しようとしてシワのある女性を「般若顔」と大々的に広告したことに対してあまりにもデリカシーがないと怒りのブログを書きました。
アラガン社のシワを治療する注射薬は「ボトックス ビスタ」という名前で保険適用はされていませんがシワの治療に対して厚生労働省が承認しています(EDの治療薬が薬としては承認されているけど、保険の適用になっていないのと同じ)。一方今回脇汗に保険適用になったものはグラクソという製薬会社の薬で名称は「ボトックス」。そのまんまの名前なんです。ここで声を大にして言います❗「両者は全く同じ成分・効果効能でーす」単に保険適用できるのが「ボトックス」、保険適用外が「ボトックス ビスタ」という単純な図式なら良いのですが、さらに問題を複雑化させているのが、アラガン社の動きです。だって私たちが美容でシワ治療に海外から全責任を担当医師が取るという条件で使用して来たのは「ボトックス」であり、「ボトックス ビスタ」では無いんです。
・保険適用でワキ汗の治療に使用できるのはグラクソのボトックス
・保険適用外でシワの治療に使用出来るのはアラガン・ジャパンのボトックス・ビスタ
・一般的に美容クリニックで医師が海外から並行輸入して使用していたのはアラガンのボトックス
というワケがわからない状態になっています。
製薬会社の動きはおいといて「腋窩多汗症」に対しては当院もグラクソ社の「ボトックス」を使用して保険治療を行います。下記の条件を満たした方が健康保険でワキの汗を抑える治療ができると言うことです。
治療に際してはいくつかの注意点がありますので、事前にメールでお問い合わせくださいません。