本日、テレビで「お酒を飲んで顔が赤くなる人は食道がんになるリスクが56倍」とやっていて、お酒を飲みながら見ていたオッサン達の顔が青くなったようです。数字に対して理解力があり、放送内容を疑ってみる傾向のある一般的には高学歴でリテラシーの高いおじさんでも、うっかり惑わされる様な内容でした。
さらに、タバコを吸いながら飲酒すると食道がんになるリスクがなんと、190倍なんていわれたら日曜日の夜に一杯やりながらタバコを吸っていたオッサンは呆然となったことが予想されます。
本記事の内容
リテラシーが高くてもごまかされる健康ものテレビ番組
リスクが190倍になるようなことって医学統計では滅多に起こりえませんので、この番組に出演した医師がどの論文を根拠にこの発言をしたのか調べてみました。
国立がんセンターはお酒で赤くなることと食道ガンのリスクは関連なし、としています
以前から飲酒と食道がんの関連性が指摘されていましたので、国立がんセンターが1990年と1993年位45000人40−69歳のオッサンを追跡調査して2004年に結果をまとめてCancer letters に2009年3月投稿しています。その結果からは
- お酒で顔が赤くなろうが、なるまいが食道ガンのリスクに違いは無かった
- タバコを吸うと食道がんになるリスクは最高で4.8倍になった
ということであり、顔が赤くなることより、喫煙の方が明らかに食道がんのリスクと関連性が認められました
遺伝子まで追求すると顔が赤くなると食道がんのリスクは上昇する
お酒自体が発がん性を持つわけではなく、代謝の過程で生成されるアセトアルデヒドが発ガン物質であり、喫煙の場合はタバコの煙のなかのベンゾピレンも食道ガンの危険因子になっています。
もともとアルコールが飲めない人はアルコールによる食道がんの発生リスクは低くなるのは当然ですが、すこしは飲めるけど、頭が痛くなったり二日酔いしやすいひとはこのアセトアルデヒドが上手く分解できないために、食道がんになりやすい傾向は確認されています。
東京大学の松田先生らによって報告された「飲酒・喫煙・遺伝子から見た食道がん」という研究が2009年に報告され新聞などにも掲載されたので記憶にある方も多いのではないでしょうか?
- アルコール脱水素酵素の遺伝子がAGタイプ(少しはお酒が飲める)の人はGGタイプの人より3.5倍食道がんになりやすい
- AGタイプは日本人の40%が当てはまる
- AGタイプは顔が赤くなる人
ということになり、AGタイプの人はアルコールによって食道ガンになりやすいことがわかりました。GGタイプの人は、両親ともにアセトアルデヒド脱水素酵素の活性が強い遺伝子をもっていて、その両者の遺伝子を引き継いでいるのでアルコールで赤くなりにくく、二日酔いになりにくいのですが、アルコール中毒になりやすくなっています。
アルコールも飲まないで、喫煙もしないGGタイプの人とアルコールを飲んで喫煙もするAGタイプのひとを比較すると、食道ガンのリスクが190倍になるという計算になるので、このことを今回のテレビ番組では強調していたのでしょうね、多分。
食道ガンのリスクを顔が赤くなるだけで判断することの危険性
なぜ、がんセンターと東京大学の結果に違いが出てきてしまったのでしょうか?その種明かしです。実は「お酒で顔が赤くなる」と自己申告した人の半数が遺伝子的にはGGタイプだったのです(厳密な遺伝子の説明は省きます)。
そうなると、お酒で顔が赤くなるという自己申告だけでは、遺伝子系の裏付けが取れたデータには東京大学式の解析では全く意味をなさないと言うことです。本当に遺伝子検査をしてAGタイプであり、一定量の飲酒をする場合は計算上は食道がんのリスクは190倍になりますが、顔が赤くなる・ならないという見た目だけでテレビの放送内容をマトモに信じてはいけませんよ。
お酒で赤くなる人は食道がんに56倍なりやすいという話の裏付け
この番組に出演していた女性がタバコを吸いながら、飲酒するという話に対して医師が190倍リスク説を語っていましたが、私はそれだけの情報でこんなに高いリスクを伝えていいのでしょうか?とドキドキしてしまいました。
今回、オッサン達が赤い顔をしながら、真っ青になった「お酒で顔が赤くなると食道がんの危険が56倍」というのも、「ためしてガッテン」で放送された内容が元ネタと思われます。さらに2013.4.10のNHKのあの「ためしてガッテン」では、食道がんのリスクが最大414倍に❗なる場合も話題にしていたようです。
詳細が判明しませんが、あの「ためしてガッテン」ですから、ひょっとしたら全くアルコールが飲めないAAタイプの人が一定量のアルコールを飲んだ場合を仮定してその数字をはじき出したのではないかと予想します。もちろん後日ゆっくり元となった論文等を見つけられたら、今回の私もブログも訂正させていただきます。
いくら一般以上に知識もあり、数学的にリテラシーが高い人であっても、データが出されたときの条件をすべて提示しないで数字だけ並べられ、専門家(この場合は医師)がテレビで伝えてしまうと、真に受けて信じてしまう、ということが判明した日曜日の夜でした。