五本木クリニックの美容部で使用しているボトックスはボトックスビスタ、一般診療部門で使用しているボトックスはGSKのボトックスです。
ボトックスは非常にややこしく、というのも、今から20年ほど前、美容医療を画期的に進化させたボトックスの世界的ヒットにより、各国でボトックス類似品が出回りました。なかでも、某大陸方面の国のボトックスと称する薬剤の酷さは美容皮膚科医の語り草になっています。
現在、多数の美容医療系クリニックで使用されているのはA型ボツリヌス毒素を主成分としてボトックスと同等の効果を発揮する英国製のディスポートと、韓国製のニューロノックスの2種類。このようなボトックスの歴史を踏まえながら、ボトックス注射のメリットデメリットを解説いたします。
本記事の内容
シワ消しのための第一選択ボトックスとは?
ボトックス(BOTOX) はシワ治療を一気に進化させ、さらにシワ治療をポピュラーにした美容医療界の功労者です。みなさんが気軽に「ボトックス、ボトックス」と使っているようですが、ボトックスは商品名であり、保険診療で使用できるボトックスもあれば、美容医療のような自由診療(健康保険が使えない)でしか使用できないボトックスがあります。
また、日本で厚生労働省に承認されたボトックスは2種類あります。
- ボトックスビスタ®は厚生労働省に承認されていても、美容つまり自由診療でしか使用できません。
- ボトックスは厚生労働省に承認されていて、保険診療で治療可能です。
ボトックスがなんでこんな複雑なことになっているのかは、まあ大人の事情があったようですが、今回はその話には触れません。
さらにボトックスは混乱を招きます。
ボトックスビスタ®はアラガン社(Allergan japan) が日本では販売しています。
一方でボトックスはグラクソ・スミスクライン社(GlaxoSmithKline 、略してGSK) が販売しています。
さらにさらに、ボトックス自体はアイルランドの製薬会社であるアラガンが製造している、かなり複雑なことになっており、医療関係者であっても混乱している人がいなくもないです。
当院の美容部で使用しているボトックスはボトックスビスタ®であり、当院の一般診療部門で使用しているボトックスはGSKのボトックス(泌尿器科領域のある病気で使用される)のが中心ではあるのですが、以前皮膚科の一般診療を行っていてボトックスを使って保険診療で多汗症が治療できることから、ますます話はややこしくなっているのです。
ボトックスビスタ®で治療できるシワはかなり限られているのが問題
アラガン・ジャパンが厚生労働省にボトックスビスタを承認してもらう時に、治療箇所として申告した箇所は以下の部位だけです。
眉間の表情じわ
目尻の表情じわ
上記2つのイラストはアラガン・ジャパン「A型ボツリヌス毒素製剤 ボトックスビスタ®注用50単位」添付文書より
たったこの2ヶ所だけです。しわをイメージしてみてください、たぶん、おでこのしわが頭に浮かびませんか?そのおでこのしわ治療にせっかく厚生労働省の承認を受けたボトックスビスタは使用できないのです。
厚生労働省の承認を受けるとどのような利点が患者さんにあるのでしょうか?
患者さんとしては厚生労働省が承認したのだから、効果は保証されていると考えるのでは?でもボトックスに限れば私たちはアラガン・ジャパンが承認される20年近く以前から医師の責任で海外から取り寄せて、全責任を医師が負うかたちで患者さんのしわ治療に使用してきました。
あと患者さんが気になる点としては万が一の副作用ではないでしょうか?医薬品副作用被害救済制度(Pharmaceuticals and Medical Devices Agency、略してPMDA)という国が管理する組織があり、適正に薬剤が使用されている限り、副作用被害を救済する仕組みがあります。
しかし、ボトックスビスタをおでこのしわ治療に使用して、万が一トラブルがあった場合は残念ながらPMDAによる救済は受けられない、と一般的には解釈されています。
ボトックスビスタ以外でボトックスと同じ働きをする薬もあります
ボトックスやボトックスビスタは成分は全く同じものであり、有効成分はA型ボツリヌス毒素です。毒素と聞くとドン引きしてしまいますが、ボトックスはボツリヌス菌の菌自体は含まれていませんし、その成分や培養液は全く含まれていないのでご安心くださいね。
今から20年ほど前、美容医療を画期的に進化させたボトックスの世界的ヒットにより、各国でボトックス類似品が出回りました。なかでも、某大陸方面の国のボトックスと称する薬剤のひどさはいまでも美容皮膚科医の語り草になっています(具体的なひどさに関しては、今回はやめておきます)。
いまでも多数の美容医療系クリニックで使用されている、A型ボツリヌス毒素を主成分としてボトックスと同等の効果を発揮するはディスポートという英国製のものと、ニューロノックスという韓国製の2種類に絞られています。
仕入れ価格としては
ボトックスビスタ >> ニューロノックス > ディスポート
です(これはクリニックによって違いがあるかも。大量に仕入れるとそれなりのコストダウンはありますから)。
当院の場合は安心のボトックスビスタ、値段のニューロノックスという感じの使い分けをしています。
海外ではアラガン社のボトックスの使用部位は制限はされていないのですが、厚生労働省の承認を得てしまったアラガン・ジャパンのボトックスビスタはこの図のように様々な部位への使用はNGです。一方のニューロノックスは治療部位が限られないので、医師としても提案しやすいです。
ボトックスビスタでは治療が不可能なしわをニューロノックスなら自由自在に治療できます
ボトックス系のしわ治療初心者は厚生労働省の承認のボトックスビスタをおすすめします⋯治療できる箇所は眉間と目尻に限られることをご承知ください。
他院でも良いし、当院でもいいので定期的にボトックス系の治療をうけられている経験者やベテランの方には、効果は同じですから、当然ニューロノックスをおすすめしています。理由はボトックスビスタより治療価格も低くすることが可能ですからね。
複数の部分を同時に治療される方には、当院はニューロノックスをおすすめしていることが多いです。
当院は地元密着型の美容皮膚科というかなり珍しい立ち位置で20年以上当地で営んでいます。そうなると、万が一、美容医療系で失敗をしたら、近くのお店も利用できないですし、近くの駅も使えなくなります、だって、患者さんはご近所さんが多いのですから、顔を合わせたらそれこそ石を投げつけられかねないですから。
ところでGSKのボトックスは何につかうの?
グラクソ・スミスクライン、私たちはGSKとかグラクソと呼ぶことが多い製薬会社は当院の保険診療部門が専門とする泌尿器科とは非常に密な関係にあります。
前立腺肥大症の治療薬である「アボルブ」は健康保険で処方可能になるためと効果を確かめる治験も当院は協力しましたし、一時期はこのアボルブの処方量が全国で10位以内に入るということもありました。
グラクソが扱っているボトックスは前述のように、保険診療で多汗症の治療に使っていたのですが⋯遂に海外では標準治療、なぜか日本ではガイドラインでも「なんで日本で保険収載されないんだろう」と書かれた過活動膀胱や神経因性膀胱へのボトックス治療が保険診療で可能になりました。
当院は大量のボトックスビスタと大量のボトックスを今後は併用していくことになります。万が一混同して使用してしまうと、かなり困った状態になりますので、保存する冷蔵庫をもう一台購入しないとダメですね。
ボトックスビスタ及びボトックスは使用するたびに書類を書き、失活証明と廃棄記録も記載する管理義務があります(これかなり面倒といえば面倒です)。