私が若いときは慣例として医師の労働時間は労働基準法外と考えるのが当たり前でした。
過労死による自殺と認定された事件があってから、医師の労働時間というものもある程度考慮に入れなければならない風潮になってきて、それこそ今の若い医師は9時〜5時で週休二日という人も現れてきました。
外科系医師の労働環境
臨床以外の時間を研究に当てているのなら良いのですが、自分のQOL(生活の質)を大事にする若い医師も多いようです。
昔はこんなだったけど今の若いもんは、ということを言っているのではありません。単に学校で勉強ができるから(決して勉強ができる=頭が良いではありません)という理由で医師という職業を選んでいることは、果たして患者さんの為になるのか?と疑問に思うからです。
睡眠不足の医師が手術をしたら?
寝不足で手術に立ち会う、という経験は外科系医師であったら当然あると思います。当直明けで続いて長時間の手術なんてことも珍しいことではありません。一部の病院では労働基準法に反するので当直明けは休みを取って、と指導しているところもあると聞きます。
しかし、自分の生活を大事にする世代には外科系は人気がなく、人員不足のために過酷な労働を強いられている場合が多いのです。当然、寝不足の医師が担当した手術はトラブルが多発するという話もありますが、それって本当でしょうか?
睡眠不足は手術成績とは関連無し
海外でも外科系医師の過労が問題となっているのですが、カナダの研究者によって「寝不足と手術成績は関係ない」という興味深い論文を発見しました。「Complications of daytime elective laparoscopic cholecystectomies performed by surgeons who operated the night before.」(JAMA. 2013;310:1837-1841.)というタイトルで腹腔鏡を使用した胆のう摘出術を行った医師が寝不足であっても、術後の合併症のリスクが高くはならなかった、という結果がでた論文です。
この医師達は別に前夜遊んで寝不足になったわけではなく、遅くまで手術をしていて寝不足とおもわるコンディションで翌日の手術に臨んだという状況でした。今までは一施設での寝不足医師と術後の合併症を研究したものが多かったのですが、今回はオンタリオ州のデータベースに記録された外科医331人を対象に2087例の手術に対して検討を加えたものです。
結果は
- 寝不足医師の手術が原因と思われる合併症は増加していなかった
- 寝不足医師の手術によって術後死亡が増加していなかった
ということになりました。
おまけ
外科系の医師はいわゆる体育会系の人が多いので、豪快に夜遊びをする傾向が内科系医師より多いと、少なくとも私の周りでは考えられます。
これは余分かもしれませんが、どちらかというと肥満傾向の医師は内科系に多いようにも感じます。
私が大学にいた時、研修医を夜遊びに引き連れて寝不足状態で手術に臨んだことが有ります。その研修医は開腹手術中にコックリコックリと頭が動きだし、終いには「ガクっ」っとなって患者さんお腹の中に頭を突っ込む寸前に私が肘で払いのけたなんていうことが有りました。
外科医を主人公にしたテレビ番組が結構好まれているようですが、現実の医師は常に寝不足と闘っている地な仕事です。体力に自信の無い方は他の道を選択した方いいと思いますよ!