ロキソニンは医師なら誰でも一度は処方したことのある消炎鎮痛剤だと考えられます。今では処方薬と同等の成分を含むロキソニンの市販薬も出ています。頭痛・生理痛対策としてロキソニンを常備薬としているご家庭も多いはず。
国民的鎮痛剤ともいえるロキソニンですが、泌尿器科医の私は、尿管結石の痛み対策としてロキソニンをあまり処方しません。
その理由について、開業医特有の悲しい歴史と開業医ならではの裏技があるからだよ❗ってことをお伝えしますね。
本記事の内容
ロキソニン、これほど有名な処方薬ってあるの?鎮痛効果に疑問が少々あります
なぜロキソニンがここまで有名になり、大量に使用されている明確な理由は不明です。
ロキソニン出現前に頻用されていた「ボルタレン」が、「一発で胃に穴が開く」なんて、一時期評価されていた影響も大きいのかもしれません。
今では薬剤師のいるドラッグストアなら処方薬と同等の成分を含むロキソニンの市販薬をかんたんに購入できます。
手軽に手に入るとはいえ、どのような薬であっても、適応症があり、当然それなりの副作用があります。
私の専門である泌尿器科領域でもロキソニンは処方されているのですが、「院長ってなんで尿管結石の痛みにロキソニンを処方しないのですか?」としばしば大学病院や地元の大病院から応援に駆けつけてくれている非常勤医師に質問されます。
尿管結石の痛み止めとして、当たり前のように処方されているけど
尿管結石の痛みは、人類が感じる痛みのベスト3に入っている、なんてことが言われています(少なくとも私の周辺では言われているよ)。
尿管結石の痛みは24時間継続するようなものではなく、発作的に動けなくなるくらいの痛みが数時間継続します。
尿管結石の痛みのメカニズムは、腎臓内にとどまっていた結石が尿管にはまり込むことによって生じます。尿管が結石によって堰き止められても、腎臓はどんどん尿を作り出しますので、腎盂内の圧力が急上昇して、背中から側腹部・そけい部に猛烈な痛みを感じることによります。
尿管結石の痛みは、実際に原因がある場所以外に痛みが広がる放散痛がメインです。
痛み止め=ロキソニンの図式が出来上がっている患者さんも医師も尿管結石の痛みには、なんの疑いもなくロキソニンを処方しているのが現状です。
でもねえ、ロキソニンの添付文書の適応症に「尿管結石の痛み」は書かれていないんだようなぁ⋯。
ロキソニンの添付文書
- 次記疾患並びに症状の消炎・鎮痛:関節リウマチ、変形性関節症、腰痛症、肩関節周囲炎、頚肩腕症候群、歯痛。
- 手術後、外傷後並びに抜歯後の鎮痛・消炎。
- 次記疾患の解熱・鎮痛:急性上気道炎(急性気管支炎を伴う急性上気道炎を含む)。
ねっ、どう見ても尿管結石の痛みは効果・効能には書かれていません。
ってことは、尿管結石の痛みに対してロキソニンを処方することは、適応外処方となってしまい、正しい薬の使い方では無いし、医療機関サイドとしては、社会保険診療報酬支払基金等からレセプトを切られて、保険診療の費用をいただけない可能性もあるのです。
私が開業した1997年当時、たしかに尿管結石に対してロキソニンを処方したところ、点数切られたもん。
まあ、ロキソニンはそれほど高価な処方薬ではないので、レセプト切られて診療報酬が貰えないでもクリニックの財政上問題になるような金額じゃないけどね。
それ以来、私は尿管結石の痛みに関しては、ロキソニンを処方することは躊躇することがお多いです(後述の理由もあるけどね)。
ちなみにロキソニンの薬価は2020年現在は1錠13.4円、ジェネリック(ロキソプロフェンNaなど)は9.8円とかなりお安くなっています(ジェネリックの薬価は一般的に先発品の7掛け、という都市伝説的法則に従っている点が興味深い)。
近隣に調剤薬局が無いため、当院では痛みや感染症等に関しては院内処方をすることが多いです。慢性疾患系は処方箋を利用しだしました。
尿管結石の痛みに対して、ロキソニンを処方すると重箱の隅をつつくのが趣味的というか職業である、支払基金の「レセプト切り屋」さんに目をつけられて、いただけるはずの診療報酬収入が減額される可能性もあるですが、いつの間にやら例外事項ができていいたようです。
原則として、「ロキソプロフェンナトリウム水和物【内服薬】」を「尿管結石」に対し処方した場合、当該使用事例を審査上認める。
社会保険診療報酬支払基金 ロキソプロフェンナトリウム水和物 泌尿器科
私もかなり上から目線といわれる傾向がありますが、診療報酬をガッチリ管理している社会保険診療報酬支払基金の上から目線には負けますぜ。
ロキソニンのジェネリック(上記画像のロキソプロフェンNa) に関してはこれをどーぞ。
「私ってジェネリックは合わないのよね〜」って言い切っちゃう患者さんには頭を悩まされます。
副作用は派手に取り上げられている模様
ロキソニンほど一般の方に知られた消炎鎮痛剤は無いと思いますし、医師も気軽に解熱剤あるいは鎮痛剤として処方しています。
メディアはそのロキソニンをこんな感じで時々俎上に載せますけどね。
医師でも気軽にロキソニンは服用しているけど、ロキソニンを自分で飲んじゃう医師は名医では無いようです(笑)。
ロキソニンの年間売上高は2019年は約300億円(https://www.mixonline.jp/tabid55.html?artid=67422などを参考)、薬価が13.4円ですから、単純計算すると22億4000錠近く処方されていることになります。
これだけ処方されるとなると、かなり稀な副作用も確率的には残念ながら生じてしまいます。
ロキソニンの重大な副作用としては
●ショック、アナフィラキシー●無顆粒球症、溶血性貧血、白血球減少、血小板減少●中毒性表皮壊死融解症(Toxic Epidermal Necrolysis:TEN)、皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson症候群)●急性腎障害、ネフローゼ症候群、間質性腎炎●うっ血性心不全●間質性肺炎●消化管出血●消化管穿孔●小腸・大腸の狭窄・閉塞●肝機能障害、黄疸●喘息発作●無菌性髄膜炎●横紋筋融解症
が、添付文書には書かれています。これだけ見るとかなりヤバい薬のように感じてしまうかもしれませんね(上記の重大な副作用のほとんどは副作用報告されただけであり、頻度は不明です)。
メディアが重箱の隅をつつくように副作用を見つけては「怖い、怖い」「絶対飲んではダメな薬」「医師だったら飲まない薬」的な記事を書くのは、かなり楽な作業と思われます。
めちゃくちゃリスキーにも見えてしまうロキソニンですが、同等の成分を含むOTC (Over The Counter、医師の処方箋なしに薬局で購入できる薬)として販売されているんですから、しっかり薬剤師さんと相談して服用すれば、メディアが「医師が飲まない薬」として扱っているロキソニンを必要以上に恐れることは無いと考えます。
尿管結石にはロキソニンよりセレコックスとチアトンなんだけどなあ
ロキソニンより副作用、特に消化器系の副作用が少ないとの評判なのが「セレコックス」です。このセレコックスは一時期日本有数の大学病院でロキソニンの使用量を上回ったことがありました。
セレコックスの薬価は68.5円であり、ロキソニンの薬価の約5倍です。セレコックスの適応症は関節リウマチ、変形性関節症、腰痛症、肩関節周囲炎、頸肩腕症候群、腱・腱鞘炎、手術後、外傷後並びに抜歯後の消炎・鎮痛とかなりシンプルになっています。
でも、やっぱり尿管結石の痛みは適応外です。
尿管結石治療のガイドラインでは尿管結石の疼痛管理に推奨される治療法としてロキソニンやセレコックスやボルタレンのような非ステロイド性消炎鎮痛剤(nonsteroidal anti-inflammatory drugs、略してNSAIDs)が推奨されているのにね。
私が尿管結石の患者さんに必ず処方するのが「チアトン」という処方薬です。このチアトンはブスコパンと同じように抗コリン薬の一種であり、イメージとしては尿管の痙攣を抑制しつつ、尿管を広げることによって、尿管結石の排出を促します。
さらに強力に尿管結石の排出効果がある処方薬もありますが、どう見ても適応外処方と認識されてしまうので、ここには記載はやめておきます(社会保険診療報酬支払基金の方々に目をつけられのも面倒ですし、私の本年の抱負は「安寧な年を送る」ですから)。
尿路結石を溶かすとか、、尿を大量に作り出して結石を排出させる効果を狙ってウロ●●とかラシッ●●とかを処方するのは、一町医者としてはかなり疑問があります。
だって、今ここにいる患者さんは痛みで苦しんでいるし、発作的な強烈な痛みに恐怖を感じているのですから。
尿管結石に悩まされいる方にとっておきの手を教えちゃいます
尿管結石の発作に苦しんでいる方に対して、かなり効果的な方法というか最終手段として麻薬の使用があります。しかし、痛みが去っても足元フラフラ、頭はボーッとして外来での麻薬投与は控える方が賢明です。
患者さんの苦しみをどうにか解決しようと世界中の泌尿器科医が様々な試みをしています。
そこでとっておきの隠し玉的裏技をお伝えしておきますね。
この治療方法で尿管結石から開放されなかった方、責任は当方にはありませんので、論文を掲載した「The Journal of the American Osteopathic Association」編集部へお願いします。たぶん、無視されますけど(笑)。