1+1=2だけど、2種類の成分を含んだ点滴で「アンチエイジング効果が2倍」はちょっと変じゃないの。
老化を防ぐ物質として有名な「レスベラトロール」と今話題の「NMN」について考えてみました。
ヘンテコな老化防止なのか抗加齢治療を見つけたよ!!
アンチエイジング効果が2倍になる点滴??なる見出しの広告を見つけてしまいました。抗加齢作用が来されている物質は数々あれど、「アンチエイジング効果が2倍」の2倍ってどうやって測定するのでしょうか?
「アンチ」は「Anti」ですから、「対抗」や「反対」という意味ですよね。年齢に対抗する、あるいは年齢に反対する(?)と考えた場合、例えば40歳の人が歳を取らないの?80歳の人がその点滴をすると40歳になっちゃうの???とか素朴な疑問が噴出してきます。
その点滴の中身は「レスベラトロール(resveratrol)」と「NMN(nicotinamide mononucleotide ニコチンアミドモノヌクレオチド)」のようです。レスベラトールはポリフェノールの一種であり、食材に含まれていて健康に良い、長寿の秘訣的に扱われていました(ここのところ注意ね、「いました」と過去形だよ)。
一方のNMNはめっちゃ高額なサプリメントとしてここ数年かなり話題になっていて、当院の患者さん(裕福っぽいオッサン)でも愛飲している人が少なくないようです。加齢にあらがう物質が2種類入っている点滴なので「アンチエイジング効果が2倍!!」ってことなのかもしれません。
そもそもレスベラトロールで老化防止になるの?
フランス人は大量のアルコールを飲むのに何故か脳血管障害などの病気になる人が少ないこと事実から「フレンチパラドックス」なる言葉が使われるようになりました。脳血管障害を防いでいる物質の一つとして注目されたのが赤ワインなどに含まれる「レスベラトロール」であり、一時期は抗加齢効果の決定打的な扱いを受けていたのも遠い昔です。
2014年にこのようなブログ記事を書きました。
レスベラトロールの抗加齢効果が研究者レベルで話題になりだしたのが2000年代に入って早々、2010年代以降にバラエティ番組が抗加齢物質あるいは抗老化物質として取り上げだしてから一般的になったように記憶しています。
昭和初期の日本人が発見したとされるレスベラトロールはその後、多数の研究によって抗酸化物質であるゆえに抗加齢・抗老化作用を表すのではないか、と考えられだしました。前掲のブログ記事でも書きましたが、2014年に「Resveratrol Levels and All-Cause Mortality in Older Community-Dwelling Adults」(PMID: 24819981)がThe Journal of the American Medical Association(略して「JAMA」、非常にクオリティの高い医学専門誌)に掲載されたことによって酵母とか下等生物には寿命を延ばす可能性はあるものの、ヒトに対しては脳血管障害はもちろんのこと、がんを予防する効果も認められないことが判明しました。
つまり、レスベラトロールには抗加齢効果も寿命を延ばす効果も期待できないのです。
酵母はライフサイクルが早いために、実験的な試験官レベル(in vitro)で老化の研究で多用されており現時点でもレスベラトロールの研究を追求することは基礎研究としては価値があります。しかーし、医療機関でありながらヒトの寿命を延ばす効果は十分わかっていない物質を点滴に入れてしまうとは・・・チャレンジャーというか、下手すりゃ人体実験レベルなんじゃないかな、なーんてことを考えてしまいます。
アンチエイジング効果を2倍にする(笑)もう一つの物質であるNMNはどうなんでしょうか?
NMNもヒトに関する抗加齢効果は十分検証されていない
NMNはサーチュイン遺伝子(長寿の遺伝子と呼ばれている)に対して何らかの影響を及ぼすと考えられています。その効果によって長生きできるサプリメントとして瞬く間に裕福っぽいオジ様方の強い支持を得た模様です。
NMNの長寿理論は以下のようになっています。
NR(nicotinamide ニコチン酸アミド)がNAD(nicotinamide adenine dinucleotide ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)を増加させる。
→NADは長寿遺伝子の一つであるSIRT2(Sir2、Sirt2と表記されている場合もある)を影響している酵素を活性化する。 →NMNはNRの前駆体、つまりNRになる前の物質であるからNMNをサプリメントとして服用すると寿命が延びる
という理屈になっています。
まあ、こんなもっともらしい話をお医者さんから説明されたら信じちゃいますよね。
NMNが若返り効果、つまり抗加齢効果や長寿効果を明確にした質の高い医学論文を私は探すことができませんでした。もちろん研究者がNMNに関して研究を続けることは、何らかの発見につながる可能性もありドンドン進めていくべきだと思います。
しかし、基礎研究で長寿効果や若返り効果が認めらたとしてもヒトにとって必ずしも効果があるとは言えないところが医学の難しさでもあります。
そもそも長寿遺伝子は何故あるのだろうか?
長寿に関する遺伝子は哺乳類の場合、SIRT1からSIRT7まで7種類が見つかっています。いくら長寿遺伝子が大量に産生されるかスイッチオンされても、長寿であったとしても健康に長期間息続けられるとは言えませんよね。
テロメア(telomeres)という染色体の一部分を構成する物質があります。このテロメアは細胞分裂をするたびに短くなるので、このテロメアを伸ばせば、あるいは短くならないようにすれば細胞分裂の回数を増やすことができ寿命がを延ばすこと可能になると考えられています。
長寿遺伝子はこのテロメアを長くする、短くなるのを防ぐ働きをしているんじゃないの?と考えられています。でもさあ、少なくとも私は永遠に自分の体の細胞が細胞分裂を続けていくことを想像するとちょっと怖いです。
しかし、1+1=2との単純な思考回路で「アンチエイジング効果が2倍!」って考えてしまうお医者さんが少なくない現状がさらにちょっと怖いです。
エイジングケア物質とされているNMNに関して、さらに考察を重ねていく予定です!!