泌尿器科医はテストステロンというホルモンのプロフェッショナルです。そのテストステロンは男性型脱毛症(androgenetic alopecia、略してAGA)に強く関連しています。
泌尿器科医と美容外科医がタッグを組んで既存の男性型脱毛症では効果が十分ではなかった場合の新しい治療方法をエビデンスをもとにして提案します。
本記事の内容
まずは脱毛のメカニズムのおさらい
男性型脱毛症を治療するのであれば、発生機序を深く理解する必要があります。
- 毛包には男性ホルモン受容体がある
- 男性ホルモンの一つであるテストステロンがII 型 5α―還元酵素によってジヒドロテストステロン(DHT)に変換される
- DHTが結合した男性ホルモン受容体は髭においては成長因子を誘発して成長を促すが、頭部、特に前頭部や頭頂部の男性ホルモン感受性毛包では毛母細胞の増殖が抑制される
- 以上によって毛髪が軟毛化したり、薄毛になったり、ハゲになったりする
この一連の流れをどこかで食い止める、あるいは毛包を活性化させることがAGA対策と考えられます。
診断は目視だけではなく、DHTの測定結果が治療の助けになる可能性に注目
毛が抜ける、頭髪が薄くなる原因は円形脱毛症などの例を掲げるまでもなく、多数あります(たとえば高度の貧血やダイエット、自己免疫疾患など)。今回は男性型脱毛に限定して話を進めますね。
そこで男性型脱毛症の診断と治療に大きな影響を及ぼすDHTの分析が必要となります。血液検査でもDHT測定は可能であっても、実際に毛包に存在するDHTを測定することによって、将来的な男性型脱毛のリスクや現状を把握することが可能になりました。
私たち泌尿器科医が注目している男性更年期障害の治療薬を製造販売している製薬メーカーから毛髪のDHTを直接検出できるキットが販売されたことによって、今後の男性型脱毛症の治療計画は大きく戦略及び戦術が変化することが予想されます。
治療薬、飲み薬を使用する前に注意をしておきたいこと
男性型脱毛症の治療薬として「プロペシア」が有名ですよね。その次に販売されたのが「ザガーロ」です。両者ともに5α還元酵素阻害薬と呼ばれる成分であり、私たち泌尿器科医を困らせることが度々ありました。
安易に5α還元酵素阻害薬を服用すると検出される前立腺がんの腫瘍マーカーであるPSAの値を低くしてしまうために、前立腺がんの発見を遅らせてしまうリスクが生じます。
副作用として乳頭痛・女性化乳房と共に勃起不全やリビドー減退も報告されているので、男性更年期障害を事前に鑑別する必要があり、私たち泌尿器科医に相談されることをお勧めします。また、これらの薬は経皮的に吸収されるために女性は子どもが触ってしまうとホルモンバランスを乱す可能性があるので取り扱いは慎重を期す必要があります。
フィナステリドVSデュタステリドの勝敗は?
男性型脱毛症の内服治療薬としてプロペシア(一般名フィナステリド)とザガーロ(デュタステリド)があります。気になるのはどっちの方が効き目があるかでは無いでしょうか?
「A randomized, active- and placebo-controlled study of the efficacy and safety of different doses of dutasteride versus placebo and finasteride in the treatment of male subjects with androgenetic alopecia」(PMID: 24411083)によれば、発毛効果及び脱毛防止効果はフィナステリドよりデュタステリドの方が有意に優れているようです。
日本人に限って言えば、「Long-term safety and efficacy of dutasteride in the treatment of male patients with androgenetic alopecia」(PMID: 26893187)では、両者の効果の違いは統計学的には有意には無し、と解釈するのが一般的です。
ミノキシジルの効果は限定的だが女性の使用可能
ミノキシジル(minoxidil)というどなたでも一度は耳にしたことがある発毛促進の外用薬があります。このミノキシジルの利点は女性型脱毛症に対しても効果が実証されていることです。
しかし、濃度が高ければ高いほど発毛効果があるとは言えないようで、「Randomized clinical trial comparing 5% and 1% topical minoxidil for the treatment of androgenetic alopecia in Japanese men」(PMID: 19691748)によって日本人の男性の場合は1%のミノキシジルより5%のものの方が発毛効果は有意に高いことが知られている一方で、15%という高濃度のミノキシジルを処方している医療機関もあるようですが、5%のものより優れているとの根拠は残念ながら今のところ見つけることはできません。
フィナステリドやデュタステリドなどの服用薬は女性には通常は使用しませんし、するべきではないのは現時点で医学常識である一方で、ミノキシジルの効果に関しては、「A randomized, placebo-controlled trial of 1% topical minoxidil solution in the treatment of androgenetic alopecia in Japanese women」(PMID: 17324826)を参考にすれば、日本人女性の場合は安全かつ効果的に使用できることがわかっています。
残念ながら植毛はイマイチかも・・・。
先日芸能人が植毛手術を海外で受けたことが少々話題となりました。実は自分の毛髪を使用した自毛植毛術に対するエビデンスレベルの高いシステマティックレビューやランダム化比較試験に関する論文は見当たりません。
ちなみに人工植毛に関しては私が調べた限りでは、有効性を示すエビデンスはプアーであり、逆にリスクが高いとの報告もあるのでおすすめできません。
PRPによる成長因子を使った男性型脱毛症治療の可能性
日本における日本皮膚科学会の「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017年版」では推奨レベルは残念ながらC2とされている成長因子を使った男性型脱毛症治療ですが、推奨レベルだけで判断してはダメです。
PRPを使用した治療は施設基準や作業工程の届出などが非常に複雑であり、気軽に行える治療ではないことにより、多くのデータが揃っていない点が推奨レベルC2になったことが考えられます。
ご自分の血液を採取して、加工してから注射で頭部に注入して治療します。
ガイドライン中でも
成長因子導入・細胞移植療法は今後が期待される治療法ではあるものの,「再生医療等の安全性の確保等に関する法律」などの法規に則って施術する必要のあるものも多く,現時点では広く一般に実施できるとは言い難いため,行わない方がよい
男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017年版
と記載されていますので、手続きの複雑さによって行うことができる医療機関が少ないことが低い推奨度になった主な理由だと考えられます。
治療効果に関しては「Randomized placebo-controlled, double-blind, half-head study to assess the efficacy of platelet-rich plasma on the treatment of androgenetic alopecia」(PMID: 27035501)などによって、PRPの発毛効果の有効性が確認されています。
男性型脱毛症だけではなく女性型脱毛症にも治療効果が期待できるPRP治療
当院では厚生労働省に「再生医療提供計画(治療)」という分厚い書類を提出して、再生医療の分類「第三種」を得ていますし、症例に関しては一例一例厚生労働省に届けています。当院が「多血小板血漿を用いた再生医療(頭髪)」として厚生労働省に届けた再生医療等提供計画(治療)では男性型脱毛症だけではなく、女性型脱毛症も含めています。
また、当院のPRP治療に関しては認定委員会の議事録では、「術後の追跡が全例行われている」「アレルギー反応もなく、そのほかの有害事象も全く発生していな」「患者からの苦情もまったく無い」などの高評価を委員の方々から評価されています。
症例が増すことによって、PRPを男性型脱毛症及び女性型脱毛症の治療効果を大幅に改善することは間違いなく、将来的には推奨レベルAになると考えています。
※当院にて行なっているPRP療法は一回あたり40mL採血して税込30万円が基本料金として厚生労働省に届けています(健康保険対象外)。この治療範囲によって必要な血液の量が違ってきますので、20mL増えるごとに追加料金を税込12万円いただいております。基本料金でカバーできる範囲は40cm²、目安としては手のひらサイズです。