コーヒーのカフェインが原因でオシッコが近くなる説ってホント⁉

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「私ってコーヒーを飲むと、すぐおしっこに行きたくなっちゃうのよねぇ〜!」ってよく聞きますよね。

コーヒーの成分の一つであるカフェイン(caffeine)にはおしっこを大量に作り出す利尿作用があると考えられています。

でもそれってホントウなの???

コーヒーを飲んだから頻尿になる?

頻尿は泌尿器科を受診する患者さんで多く見られる症状の一つです。頻尿の原因は様々ですが治療を開始しても思いのほか効果が出ない時に患者さんが口にするのが、「コーヒーが好きだからですかねえ???」です。

世の中に溢れかえる医学常識として、カフェインには利尿効果がある、があります。カフェインを含む代表的な飲食物がコーヒーですから、コーヒーを何杯も飲むことによっておしっこが近くなる頻尿という症状を招いている、と考えて当然ですよね。

でもねえ、私が知る限りの医学知識・薬学知識ではコーヒーに含まれるカフェインの量如きで尿量が増えて頻尿になるとは思えないんだよねえ・・・。

明治時代から「薬」と考えられていたカフェイン

私が薬に関して、特に副作用に関して信頼できる情報源としてあてにしているのが独立行政法人医薬品医療機器総合機構(Pharmaceuticals and Medical Devices Agency、略してPMDA)です。PMDAのインタビューフォーム(正式名称は医薬品インタビューフォーム)と呼ばれる文書は薬の添付文書以上に情報がてんこ盛りで使い方によっては自分の医学・薬学常識の裏付けになるとともに常識だと思い込んでいた知識をブラッシュアップしてくれます。

PMDAのインタビューフォーム中の「カフェイン」によると、カフェインは1886年、つまり明治19年に日本が西洋に学んで先進国を目指して医療に関する法整備を開始したのと同時に薬として日本薬局方に収載されています。

カフェインの効果・効能として認められているのは「ねむけ、倦怠感 血管拡張性及び脳圧亢進性頭痛」でして、「利尿効果」なんてことは他のカフェインに関する添付文書やインタビューフォームにも一切書かれていません。

こうなってしまうと、文献主義・論文主義との立ち位置で判断すると、

カフェインに利尿効果は期待できない、つまり、コーヒーを飲むことによって頻尿になることは医学的・薬理学的には説明できないということになるんだよなあ。

中枢興奮薬とは?

手元の「NEW 薬理学」(南江堂 改訂第6版)によればカフェインは中枢興奮薬の代表例として記載されており、しっかりと「利尿作用 」と書かれているから話は複雑になってきます。

でもねえ、カフェインが利尿作用を発揮するために必要な量や詳細なメカニズムに関しては教科書といえどもすっ飛ばされている模様。となると、論文至上主義者である私としては世界中の医学論文のデータベースであるPubMed(パブメド)を利用するという流れに当然なります。

エビデンス至上主義者の立場はどうなるんだろう?

ここ数年「エビデンス」という言葉をモーニングショーの玉川さんレベルでも多用するようになり失笑を禁じ得ないことが度々あります。自分の都合の良い論文ベースのエビデンスは探そうと思えば探すことは可能なんだよなあ。

薬理学の教科書は多くのエビデンスによって裏付けられている最も信頼度の高いもののはず。でも医学論文では古いものでは

2003年に書かれた「Caffeine ingestion and fluid balance: a review」(PMID: 19774754)に始まり、2014年の「Caffeine and diuresis during rest and exercise: A meta-analysis」(PMID: 25154702)くらいまで、論文ベースだとコーヒーに含まれるカフェイン如きでは利尿効果は対して認められない、との結論に至っています。

いつでも誰でも気軽に調べることができるネット情報でのコーヒーの利尿作用に関しては「飲む量とタイミングに気をつけて。コーヒーに利尿作用がある理由を管理栄養士が教えます」(https://macaro-ni.jp/79426)とか「長距離バスに乗るときには選ばないで!トイレが近くなるNGドリンク」(高速バス・夜行バスのお役立ち情報が満載!「バスのるコラム」)とか「カフェインがもたらす利尿作用のメカニズムを医師に聞いた!」(https://www.excite.co.jp/news/article/Goowatch_2c7b6117611f9f14fac0be4a1a71783a/)といった感じの健康医学関連記事が満載です。

結論:コーヒーに直接利尿効果があるわけじゃない

コーヒーに含まれるカフェイン如きの量で直接抗利尿ホルモンや腎臓で尿を作っている「ネフロン」に影響して、大量の尿を作り出す効果はありません。

カフェインの中枢神経を興奮させる作用機序によって、交感神経が刺激されたり血管が収縮されたり血管が逆に拡がったりするすることによって腎臓を通過する血流量が増加することによって尿量が増えてしまうことによって、結果的に頻尿になる可能性はあるけど、そもそもコーヒー自体の水分量が尿の原料となっているような考え方もできます。

コーヒーを飲むから頻尿になっちゃう・・・もしも夜間の尿の回数が増えることを気にしているのであればカフェインの利尿効果よりカフェインの中枢興奮作用によって眠れなくなってしまったことが原因で、目が覚めたからおしっこに行っておこう的な行動の結果であることも否定はできません。

医学的な常識と捉えていたことも、見方によっては真逆の結果にたどり着くことも稀ではありません。

ワイドショーレベルの即成自称専門家コメンテーターが「エビデンスによれば」とか「論文があるんですよ〜!!」と自慢げにご自分のどこから仕入れたのか不明な知識をご開陳しても頭っから信じ込んではダメなんじゃないかなあ。

著者プロフィール

桑満おさむ(医師)


このブログ記事を書いた医師:桑満おさむ(Osamu Kuwamitsu, M.D.)

1986年横浜市立大学医学部卒業後、同大医学部病院泌尿器科勤務を経て、1997年に東京都目黒区に五本木クリニックを開院。

医学情報を、難解な医学論文をエビデンスとしつつも誰にでもわかるようにやさしく紹介していきます。

桑満おさむ医師のプロフィール詳細

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