がんの10年後生存率が58.9%という報道がありました。この数字が高いのか低いのか良くわかりませんが、治療は進歩していると考えたら確実に生存率は高くなっていると考えていいはずです。
がんの「余命宣告」という言葉をよく聞きます。余命宣告は必要なのか必要で無いのか、そしてその余命宣告の余命は本当にがんになった場合に残された時間を意味しているのでしょうか?
本記事の内容
がんの余命宣告が当たる可能性はかなり低いというエビデンス
余命2ヶ月といわれたのに今では余命宣告がウソのように元気に過ごしている、そのようは話を見たり聞いたりすることが少なくはありません。例えばこれ・・・「腹膜に散らばったがんが消えたんです」余命2か月の女性を救った『RIKNKT』って?
週刊誌で見つけた記事ですから、まあアレな感じもしますし、「RIKNKT」なんて治療方法もかなりアレですけど、とにかく、がんと宣告された時に気になるのは「余命宣告」です。その余命宣告が実はかなり不確実な別の言い方をすれば当たっていないよ、との結果になった医学論文があります。
「Can oncologists predict survival for patients with progressive disease after standard chemotherapies?」(PMID: 24764697)という日本の錚々たるがんのプロフェッショナルが執筆陣に並んでいますね。
余命宣告はほとんど当たらないに等しいかもね
前掲の論文はがん治療の専門家(oncologists)は標準治療の化学療法を行った後の患者さんの生存期間を予想することはできるかを検証したものです。
ぜん- 14人のがん治療の専門家に化学療法を行った後の患者さんの予想される余命を予想してもらいました。
- 専門家の予想は36%の確率で当たっていました。
- 余命の予想はがん治療専門家の経験によって左右される可能性がありました。
要約を読む限りではこのような結果になっています。つまり、
余命宣告が当たる確率はたったの36%!!
と解釈することもできるのです。そうなると週刊女性の記事にあった「余命2ヶ月」の余命期間は74%の確率でそもそもが外れていた可能性も捨てきれないのです。
当たらない余命を宣告する必要があるのか?
今では考えられないことですが、昔々日本ではがんであっても患者さんにがんであることを秘密にしていました。がん=不死の病、との図式が常識とされていたからです。
私は日本人男性が最も罹患しやすい前立腺がんを扱う泌尿器科を専門としています。毎月数名の男性に前立腺がんであるとの診断をお伝えしています。前立腺がんであるとお伝えする、がんの宣告をするときに必ず出てくるのが「余命」です。
前掲のがんの10年後生存率が58.9%報道記事中では前立腺がんの場合は99・2%となっており余命年々お伝えするのは非常に難しいのです。
多くの前立腺がんの患者さんは10年後も生存している確率が99.2%と100%に近い数値となっており、他の病気で死亡する可能性も多いので余命宣言と言われても困ってしまいます。
しかし、私は余命宣言は重要であると考えることが少なくはありません。なぜなら死を迎える前にやっておかなければならないことは多数あるんじゃ無いですか?
余命宣告が必要な理由はこれ!
死ぬまでにはそれなりの手順が必要です。それゆえ余命宣言されたら、宣告された期間中に済ませておく必要がある雑多なことは以下のものがあると考えられます。
- 財産の整理(それなりの財産がある人は大変でしょうね)
- 臓器提供の意思があるのであれば臓器提供意思表示カードの用意
- クレジットカードの整理・解約(そのままにしておくと年会費が永遠と引き落とされるかも)
- 相続の手配
- 死亡した時に連絡して欲しい友人知人のリスト
PCやスマホのパスワードをどうするか、人には見られたくない
特に家族には絶対に見られたく無いPCのエッチな画像の削除
とかも必要となりますね。余命宣告を受けた場合はその期間にやること・やらなければならないことはてんこ盛りなので、私は余命宣告というか死に至るまでに残された期間はお伝えした方が良いと考えています。
余命宣告してもその期間が36%しか当たらないのであれば意味ない
そもそもテレビドラマのように医師は患者さんに対して、「あなたの余命は2ヶ月です」とか言うのでしょうか?私の手元には真っ当な医学関連図書館とは言い難い一般書籍が本棚2本分あります。
その多くがトンデモ系ニセ医学によって「余命半年から奇跡の生還」「余命3ヶ月と言われたが、なんちゃら先生の本に出会って今では農作業もできるように回復」なんて感じのものが多いのです。
なかには前立腺がんの腫瘍マーカーであるPSAがたった一回の結果で10だったけど、なんちゃら健康法で今では正常値に!!というものさえあります。膀胱炎や前立腺炎であってもPSAが高値を示すことがあるのですから、
週刊誌で余命何ヶ月から奇跡の生還という記事は眉唾であることもなくはないことを頭に入れておきましょう!!
※週刊女性の記事を特定しての発言ではないことをご了承ください。なお、「RIKNKT」治療の効果に関してはかなり疑いの目でウォッチングはしております。近いうちにブログ記事にする予定です。
前立腺がんの場合の余命宣告
前立腺がんはPSAという腫瘍マーカーによってがんの早期発見ができる特殊ながんであるとの考え方もできます。通常の他の臓器のがんの腫瘍マーカーはがんを発見するためのものではなく、がん治療の効果を確認するためのものであることを考えるとPSAは特別です。
前立腺がんの場合、以下のような病気分類(ステージ分類)をします。
- ステージA:前立腺肥大症の手術の際に偶然に見つかったもの
- ステージB:前立腺の中に限局したもの
- ステージC:前立腺を越えてはいるが転移はしていない
- ステージD:転移をしているもの
前立腺がんの10年生存率は最新のものだとステージAとBは100%!!ステージCだと98.5%、ステージDで45.5%です。
前掲のがん治療専門の医師が予想した余命は予想範囲の誤差は1/3であっても当たった、と判定しています。
前立腺がんの場合、ステージAやB(一般的にはステージ1、2なのに、泌尿器科では慣習的にA、Bを使用)だったら「先生、私の余命はどのくらいなんでしょうか?」と患者さんから質問があったら、「余命は10年以上ですよ」と答えることになります。
余命宣告問題、これからも引き続き考えてみますね。
※【非常に重要な注意】ここの記事における余命問題はがんと診断され標準治療をおこなった場合のものです。標準治療を行わないで代替治療を受けた場合は「がん治療に代替医療を選択すると、5倍以上も死亡リスクが高まるぞ❗」という結果になりますのでご注意くださいね。